第187話 俺、耳打ちする
何いってんだこいつ。この千手観音の言ってる意味が理解できん。
「お前頭大丈夫か? うお!?」
躰が急に後ろに引っぱられ、ビーディが前に躍り出てきた。
『いやーすいません。彼、敵を殺す時にしか脳みそ働かないもので……』
「そのフレーム骨格、スカルバイトか。お前さんは?」
『俺ビーディっていいます。彼には俺が後で説明しとくんで。骸骨ロボットよしみで許してくれませんか』
「いや、許すも何も別に何とも思っとらんのじゃが……」
俺はビーディの隣まで行き、口を開いた。
「こいつの言ってる意味自体は理解できとるわ! でも、有り得んだろ!」
「あり得んと言われてものぉ。人間として死んだ後元のボディへと戻る筈がどういう訳かセーフティシステムが起動しておったようで、このボディへ戻る事ができず宙に浮いた状態じゃった。アジーがここのコアを再起動してくれたお陰で、図らずも元に戻った訳じゃ。持つべきものは友じゃのう」
「そんな照れるよ〜。ただのメル友だったけど!」
「違いないのう!」
何意気投合してんだこの2人。
「そもそも……何でロボットのお前が人間になれるんだよ。むちゃくちゃだろ」
「わしの能力は再構築。この能力を使ってお主達の世界へ転生し、人の躰を再構築した。そして黒澤大五郎として……人間として生活していた。お前の世界で生きていく為には、マシーナの姿はあまりにも悪目立ちするからの。しかし無念じゃ、わしの計算では、最低でもクラス7のエグゼマキナが必須なのじゃが。お前が着ているのは陽炎じゃろ。それではスペックが全く足りておらん」
さっきからこいつは何を言ってるんだ。俺の知らん事を一方的にペラペラ喋りやがって。
「エグゼマキナってなんだよ。聞いた事ねぇぞ」
「エグゼマキナとはお前達が外格と呼んでおるスーツのこの世界で使われていた名称だ。しかし今のままでは……」
「ヤルダバオトⅧ式なら持ってるけど?」
「何!? それは誠か!?」
「今は使えないけどな……。なんか機能しないんだよ。後ろにいるインド人曰く、特殊な粒子が関係してるっつってな」
「僕生粋の日本男児だから! クォーターだって!」
何か後ろからやいのやいの聞こえたが、無視する事にした。
「良いぞ、鋼戦記のIDを教えちょくれ」
「ああ、は? 何でお前に俺のハガセンID教えなきゃいけないんだよ。関係ねぇだろ? つーか、何でハガセンの事知ってんだよ」
「そんなの当たり前じゃろう。鋼戦記は元々わしがこの世界で作り上げた実験プログラムの一部なんじゃから。お前達の世界で流行っていたVRを使う事でしか、あの実験を行う事が出来なかった。あまりにも科学力の低い世界で、最初は頭を抱えたぞ。アジーの協力無くしてわしの目的は達成出来なかったじゃろう」
「いやー僕天才だからねー。もっと褒めて〜?」
あいつは後で殴ろう。グーで殴る。顔面陥没させてもあいつなら死なんだろ。多分。
「わしの実験プログラムをゲームとして作成しようと言い出したのはアジーじゃが、金にもなるしランキングを用いる事で、生存競争を自然な形で勃発させる事が可能となった。まさに天才の発想じゃった。あとはわしの能力でノードを経由させ、不特定多数の人間をこの世界へ呼び込めば良いという算段じゃったが、まさかこの能力が不発に終わるとは思わなんだ。本当に幸運じゃったわい」
今こいつなんて言った?
「おい、不特定多数の人間を呼び込むってなんだよ」
「わしの能力の範囲は強大でな。やろうと思えば星単位で転移が可能なのじゃ。ただ有機体は一度物理的な死を経験させなければならん」
「ちょっと待て、俺がこの世界に来たのはお前の能力によるものなのか?」
「いや、偶然じゃ。お主等が死んでからどういうノードを通ってここに来たかはわしは知らん。さっきも言ったがわしの能力は使用時にわし自身の肉体を消去してしまう。じゃから、この世界へ戻る時の為にこのボディを予め起動させていたんじゃが……この能力は強大な割にはコストパフォーマンスが悪くての。実のところわかっていない部分が幾つもあるのじゃ」
俺がこの世界に転生したのは元はこいつの能力のせいだったのか? じゃあ神を名乗るあの光るミラーボールは何なんだ?
いや、しかしここでこの事を聞くのはリスクが高い。黒い神の事もある。ここは流すべきか。絶対に安全とも言い切れん。
「チッ……仕方ねぇな。RVE11789056だ」
「フム、アリスや。検索しとくれ」
千手観音の肩の上に金髪碧眼、水色のフリフリスカートを着た女の子が現れた。
何だあれ? あれはAIなのか?
「了解、対象者のデータを見つけました」
彼女が両手を広げると、巨大なウインドウと
が現れハガセン時代に築いた俺のデータが表示される。
暫く動きが止まり、俺のデータを確認している様だ。
「なんという……ここまでとは……。相当やり込んでおるな」
「まぁな、12年位か? 中々面白いゲームだった」
「いやー照れるなー。流石僕〜」
「ハイハイすごいねー」
読み終わったのか。俺の方へ向き直る。
「1つ聞きたい。プロトゼロを知っておるか?」
「知らん。何だそれ?」
「ゲイン君、プロトゼロはあの半分植物外格の名称だよ。前に教えただろ?」
あのいけ好かないニコイチ植物の姿が脳裏に浮かび、例えようのないイラつきが湧き上がる。
「あのド腐れ植物野郎。次あったらぶっ殺してやる」
「ほうか……既に会っておるのか」
「なぁ、あれは何なんだ?」
「あれは元々、デウスエクスマキナ様の為に作られた特別なエグゼマキナじゃ。まぁそのレプリカではあるがの。姿もわしの記録とは違っておる」
「デウスエクスマキナ?」
「機械の神じゃ。我らマシーナのオリジンと云われた御方じゃった。だが、今は外格だけが独り歩きしている。奴を破壊する為に、ヤルダバオトⅧ式は必須なのじゃ」
「ちょっと待てよ。ロボットなら外格は着れないだろ」
千手観音の7つの手が俺を掴む。
「デウスエクスマキナとは……ロボットのオリジンはエグゼマキナなのじゃ。我らはそのオリジンのコピーと言ってもいい。頼む奴を破壊してくれ。お主にしか出来ん」
「まぁ元々奴も奴の取り巻きもターゲットだしな。安心しろ、きっちりぶっ殺してやるよ。あとな、俺の最終目標も教えといてやるよ。所でそのオリジン様はどこにいるんだ?」
「一節では神となった瞬間に我らを創造し、この次元から消え去ったと言われておる」
「んだよ。もういねーのか。神の存在齒これっぽっちも信じちゃいないが、ロボットは好きだからな。会えるもんなら、姿位なら見てやってもいい」
「神に対し不敬じゃぞ」
「気に触ったか? そいつは悪かったな」
俺は千手観音に顔を近づけ耳打ちする。
「何だか沢山情報くれたから、礼の代わりに俺も教えてやるよ。俺の最終目標は神を殺す事だ」
顔を離すと千手観音の手が引いた。
「……それはデウスエクスマキナ様も含まれておるのか?」
「おいおい早とちりすんなよ。誰がそのデウスなんたらを殺すなんて言った? 俺がターゲットにしてるのは黒い球体と白い球体の方だ」
「骨が折れるぞい。一筋縄ではいかん。ほうか……、ならば東へ行き忍びの隠れ里へ行くと良い。そこで忍びの巫女に会え。最後に会ったのは500年以上前だが生きておる筈だ」
「何でそんな事がわかる」
「その巫女はお前達と同郷だからじゃ」
「まだプレイヤーがいるのか。……そいつと会うことと神を殺す事になんの関係があるんだよ」
「元々人間だが、あの巫女もデウスエクスマキナ様と同じく、人の身で新たな領域に踏みこんだ者じゃ。きっとお主の役に立つじゃろう」
人間が神? ふざけた事言ってんじゃねーよ。この爺が言ってる事が事実である証拠がどこにある。話半分で聞いておいた方がいいだろうな。俺はリアリストなんだよ。
「そうか、何か色々世話になったな。じゃあ戻るわ」
「待て、最後にお前とそこのマシーナの為にこのデータチップをやろう。アリスや」
「ハイ、グランドマスター」
画面上にインジケーターに謎の文字の羅列が表示され、すぐに元に戻る。
「今のは何だ?」
「なに、孫娘を守ってくれたお主に対し、ちょっとした礼じゃよ。今のドライバはここ一帯に降っている粒子の回転を緩める事ができる。凛ちゃん、気をつけてな。じーじはお主を見守っておるよ」
「姿形は違うけど……じーちゃんありがとうッス!」
「という事はチェンジできるのか!?」
「左様、ちと遅効性じゃがな」
「なんだよ。今すぐ着装できる訳じゃないのか」
「粒子の回転を弱めるだけで停止する訳ではないぞ。完全に元に戻るのならこの大陸から出る事じゃ」
その言葉を聞いて俺は足早に歩みだす。
「よし、この大陸でやる事は全部終了! 撤収! 解散! 開放! じゃあな、喋る霊長類とその飼い主の千手観音」
俺はエレベーターの所まで歩いていき、スイッチを押してエレベーターが来るのをまだかまだかと待った。