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第185話 俺、紅茶を飲む

 テナガザルの後ろを付いていき、地下のエレベーター前までやってきた。

 長い手で上の階のスイッチを押すとすぐに扉が開いた


「ほら乗った乗った」


 俺達は順番ずつ入っていき、全員が無事乗り込みドアが閉まる。一瞬の揺れの後、エレベーターが上へと昇っていく。


 扉が開くと、そこは密林地帯だった。


「なんだ……これは……?」

「早くこっち来いよ」


 テナガザルが俺達の先を行き、その後をついていく。

 暫くして現れたのは長テーブルだった。その奥に紫のスーツを羽織ったゴリラが椅子に座り、カップを片手に微笑んでいた。


「君たちの到着を待っていましたよ。さあ、まずはお茶をどうぞ」


 ゴリラの歓迎に、俺達テーブルについた。彼が指を鳴らすと、どこからともなく猿が数匹現れ、テーブルの上にカップと皿をおいて森の中へと消えていった。


「お頭! 例のブツくれよ!」

「えぇ、お役目ご苦労様でした」


 ゴリラはそばの木に生っている青いバナナを一本もぎ取るとテナガザルに手渡した。


「いっただき〜!」


 そう言ってテナガザルもバナナを大切そうに抱え、他の猿同様に森の奥へと去っていった。


「さて、どうぞ皆さんお座りください。大丈夫、毒など入っておりません」


 俺達は各々席に座る。

 眼前に置かれているティーカップは中々高級そうに見えた。縁に金が施されている。


 鼻を近づけ匂いを嗅ぐと、軽い柑橘系の香りがした。


 カップを手に持ち、口に近づけ啜る。


 口の中にやはり柑橘系の風味が広がる。


「中々美味い」

「そうでしょう? 私が開発した紅茶がお口に会ったようで良かったです。その原材料はですね、オレンナというバナナに似たフルーツからできているんですよ」

「ま、まさかここでその名前を聞くとは……」

「ご存知だったんですか、その反応中味の果肉をそのまま食べたんでしょうね」

「あぁ、むちゃくちゃ酸っぱくなるんだろ」

「はい、オレンナは中身の果肉が空気に触れると、とんでもないスピードで酸化し始める特性を持っています。これを上手く処理できれば、とても美味しいフルーツなのですよ」

「お前は俺達にフルーツ自慢聞かせる為に呼んだのか?」


 ゴリラは首に掛かったネクタイを締めて、俺の方を見るとわずかに口角が上がった。


「これは失礼しました。いきなり本題にいくのもどうかと思いまして。それにまさか貴方がオレンナを知っていたとは思いませんでしたので、つい。では──」

「いや、こちらから質問させてもらう。お前と大五郎はどういう関係だ?」


 さぁどう出る? これはかなり部の悪い賭けだ。最悪またあいつが現れる可能性が十分ある中で、こいつからできる限り、情報を引き出さなければならない。


「ママと私の関係……ですか。貴方はこの世界のデミヒューマンを既に見ましたか?」

「デミヒューマン?」

『亜人の事だよけんちゃん。獣人とか』

「あぁ、獣人ならそこら中にいるだろ」

「人の顔を持ちながら、耳や手足に特有の毛が生えている。それが貴方達が呼称する獣人。貴方から見て我々をどう見ます?」

「別に? ただの喋るゴリラに喋る黒猫。ただそれだけだ」

「そうですか……。ママは私をユニークだと言ってくれました。我々はホムンクルス。ママに作られた存在なのですよ」


 俺は手に持っていたカップを勢いよく皿戻した。


「お前は俺の話を聞いていなかったのか? お前等が獣人だろうが人造人間だろうが、んな事はどうでもいいんだよ! 黒澤大五郎はどこにいる! 居場所を知ってるのか!? 知らないのか!?」

「──ママが言っていました。『お前を倒す人間がいつか必ず私の前に現れる。その時お前は死ぬかも知れない。だが、もし生きていた時はこれを渡せ』と」


 ゴリラはスーツの内ポケットから黒い物体を取り出した。それは古いメモリーカードに見えた。


 ゴリラは席を立ち、俺に歩み寄り手に持っていた物を俺に手渡してきた。

 受け取ったそれにはシールが貼られ、Dからアジーへと書かれていた。


「ディーからアジーへ?」

「ゲイン君! パス! それ今すぐ貸して!」


 半端なく離れた席からアルジャ・岩本が身を乗り出し両手をこっちに向けていた。


 なんて滑稽な姿なんだ……。


「早く! そのゴミを見る様な視線送る暇あったらプリーズ!」

「わかったわかった。ほらイクゾ〜」


 俺はメモリカードを彼の方に放り投げた。彼はそれを試合終了間近の高校球児もかくやといった感じで、見事にキャッチした。


「いったー! 脇腹吊ったー! でも、手に入れたゾ。フヒヒ痛たた」


 脇腹をさすりながら仮想ラップトップを出現させ、メモリを刺すと、何や凄まじい勢いでキーボードを叩きだし数秒後ピタリと止まった。


「ンフ、フヒヒハハ」


 画面を見ながら、実に気持ちの悪い笑い声を上げ彼は俺にラップトップの画面を押し付けてきた。画面上はよくわからん英単語の羅列がこれでもかと書かれている。


「ゲイン君! これがわかるか?」

「わからん」

「そうなんだよゲイン君! 遂に見つけたゾ! これが僕達が求めていたものだよ!」

「俺達って何か探していたっけ?」

「そうさ、間違いなくこれはあのPCのメインフレームのエミュレータだ!」

「へぇそうなんだすごい。で、これで何がわかるんだ?」

「全てだよ! 全てがわかる! さぁいくぞ〜! 走らせちゃうゾ〜」

「あくしろよ」

「ヒャァ! 我慢できない! ラン実行!」


 彼がそう言った瞬間、周りの電気が落ちてすぐ明るくなった。


「なんだったんだ今のは?」

「あああああああああ!!」


 狂喜していたアルジャ・岩本が今度は素っ頓狂な叫び声を上げる。


「喜んだり叫んだり(せわ)しい奴だな! なんなんだよさっきから!」

「さっきのでデータが吹っ飛んでるー!」

「あっそう、残念だったね」


 なんかあんまり有益な情報なかったなぁ。あとなんか忘れてる気がする。なんだっけ?


 ★★★


 時を同じくセントラルドグマ内のドッグで、作業していたドクタースカーレットと自らを呼称するロボットも、アルジャ・岩本が行ったプログラムが実行されたと同時にリブートする。


『プログラム再起動完了。アルターエゴ領域内に不良セクタを確認。排除完了。ハイパーリブートレディ』


 無機質な音声がドック内に響き渡り、再び真っ赤な髑髏を模した機械は立ち上がる。


 自らの7本の腕を動かし、感触を確かめる。


「ハイパーフレキシブルアームが片方欠落しとる。一体何があったんじゃ? ここは……セントラルドグマか?」


 眼前の鎮座した天使を模した巨大ロボットを見て、すぐに我に返る。


「おぉ、いかんいかん。わしがこのボディに戻ってきたと言うことはトリプルシックスが、わしの言いつけを律儀に守った証拠じゃ。いかねば」


 そう言って7本の腕を持つロボットは、暗いセントラルドグマ内を、勝手知ったる我が家の如く歩を進める。


 途中大きな空間に出た。奥の植物に侵食された椅子には外格が眠るように座っていた。


「あれはプロトゼロか? ふむ、わしのデータベースにはない進化を遂げたようじゃ。幸いわしのことは認識しとらんようじゃ。鬼の居ぬ間に──」

「ここで何をやっているドクタースカーレット。修理は終わったのか?」


 声をした方をドクタースカーレットが見るとヌゥが立っていた。


「どうなのだ!?」

「面倒じゃのう。女王蜂のおねーさん、わし行くところあるから暇を貰うぞ」

「いとま? 何を言っている!? 整備はどうするのだ!? お前しかできる奴がいないのだぞ!?」

「何じゃマシーナの癖に機械の整備もできんのか。全く最近の若いもんは。ちょっと待っておれ」


 7本の腕を動かし瞬時に現れた7つのキーボードを叩きだし、セントラルドグマ内が大きく揺れる。


「な!? なんだ先の揺れは? 何をした!?」

「開発、修理、発展の為の新たな区画とそれを行う実行ギアを作ってやった。あとはお主たちの好きにするがいい。わしは忙しいんじゃ」

「ま、待て!」


 ビックブースターを吹かせ、ボディに格納されたレイピアを取り出すとヌゥはドクタースカーレットの額に突きつけた。


「私のレイピアは特別製だ! 貴様のボディなど一瞬で蜂の巣になるぞ!」

「わしは非戦闘員だ。それにな、わしに対する攻撃は無意味じゃぞ」

「言ったな!」


 鋭利なレイピアの先が紅いボディを貫かんとしたその瞬間、不自然にヌゥ手がぶれ出し地面にレイピアはその尖った刃先を突き立てた。


「ば、馬鹿な!? 私の正確無比の突きが!」

「じゃから、いうたのに。では、さらば」

「ま、待て! ぬ、抜けない……」


 地面に突き刺さったレイピアを抜こうとするヌゥを無視してドクタースカーレットはセントラルドグマ出入口の大縦穴へと向い、7本の腕をを用いてあっという間に地表へと躍り出た。


「さてと、アリスを呼ぶかのう」


 ドクタースカーレットはキーボードを出現させ、2本の腕を動かすと、彼に眼前に金髪碧眼の少女が現れた。


「おはよう御座います、ビッグマスター。ご用件はなんでしょうか?」

「この老人のナビをしてくれ、トリプルシックスの所へ戻りたい」

「承知しました。ルートは既に構築済みです。──ビッグマスター1つよろしいでしょうか? この世界に既にアナザーアドミニストレーターが存在する様です」

「ほうか。ならば新たにノードを開き、そこから構築し直せばよかろう。折角の古巣じゃ、無粋な真似する必要はなかろうて」

「イエス、ビッグマスター」


 そういうと老人の声を持つロボットはブースターを起動させ、空を往くのだった。

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