第180話 デス・ウィッシュvsメロデス
ホテルを出たあと、外格を着装しエントランスまで直行した。もう、古巣に二足歩行の動物達が跋扈しているこの光景にも何とも思わない。慣れとは恐ろしいものだ。サイの獣人が、キツツキの鳥人をかつあげしている。
しっかしこの治安の悪さどうにかならんのか。全く嘆かわしい。このサーバーの全盛期を知っている分、この落差目に余る。
「やめるニャ! かわいそうだニャ!」
「なぁにぃ! へんちくりんなチビ助お前が言ったのか?」
「そうだニャ! オレっちが言ったニャ!」
パルチがサイと対峙する。体格差が自身の7倍はあろうかという巨体から片脚を上げて、そのまま踏みつぶす算段の様だ。パルチは防御するでもなくただ突っ立ている。
「お兄様、助太刀した方がよろしいのでは?」
「そんな必要はない。あんな生半可な攻撃で、おしゃかになる程あのアーマーは弱くない。俺の教えた事覚えてんな」
「勿論だニャ!」
そのまま衝撃と共にパルチは踏み潰された。刹那、バイクのエンジン音が聞こえ、サイの足元から白い煙が噴出しだした。
「な、何故潰れない!? ぐわああああ!!」
翠色に光る電流がサイに疾走り片脚を上げたまま仰向けにぶっ倒れた。
現れたパルチのアーマーには一切の傷一つ付いていなかった。
「本当にすごいニャ……」
流石アルジャ・岩本、俺の注文通りに作ってくれた様だな。
俺は彼に近づきバイザーを上げ、手をかざしあるスキルを授けた。
「兄貴?」
「お前に今ウォークライというスキルをやった。敵愾心を煽り、お前に攻撃を集中させるという技だ。敵を煽り急所を攻撃する、お前は不沈艦……いや不沈猫と化すんだ」
「つまりどういう事だニャ?」
「……ウォークライって叫んだら敵に突っ込めば良いんだよ」
「わかったニャ。今のオレっちは最強だニャ!」
バイザーを下げてやり、やる気満々の黒猫を無視しエレベーターの前まで来た。ボタンを押し、しばらく待っていると扉が開いたのでそのまま乗り込む。
広々とした空間に、真っ赤なスーツを着たゴリラが1匹ソファに腰を降ろしている。
「遂にお前1人になったなゴリラ」
「何度も申していますが、私の名はゴリラズです」
「名前なんてどうでもいい」
「貴方にとってはどうでもいい事でも、私にとっては重要なのです」
「話は変わるが、ここの元締めはお前か?」
「ハイ、そうですが」
「そうか、他にいないんだな?」
「えぇ、いません」
「じゃ首洗って待ってろや」
「1つ忠告を。彼は今までの者達とは根本から違います。貴方達に倒せるかどうか」
「敵に塩送るってのか? 甘いな」
「彼は貴方と同じ部外者ですので」
俺達はポータルを通ってバトルフィールドに出る。
向こうにワーウルフは口から涎をたらしながら、こちらを睨んでいる。
『さぁ、チームデス・ウィッシュ対序列2位メロデスのエキシビジョンマッチの開始だーッ!』
俺はインビンシブルを起動させる。
『おーっとやはりデス・ウィッシュのリーダー闘わなーい! いつもの如く姿がかき消えてしまったーッ!』
さて、俺はいつもの様に様子見させてもらおう。
「グルルル……ガアアアアア!!」
敵は雄叫びを上げ、真っ直ぐこちらへ突っ込んできた。その姿は知性の欠片も感じない、ただの獣だ。
長い鉤爪を俺の首元に向けてきた。上体を逸しがら空きになった腹に蹴りをお見舞いし、浮き上がった所を首根っこを右手で掴んで、そのまま地面に顔面を叩き着け、ゴキリと首の骨がへし折れる音が当たりに響いた。
「弱い、所詮はただの畜生風情か」
インビンシブルで姿を視認できない筈、なのに俺に真っ向から勝負を挑んでくるやつがいるとはな。
「もうちょい楽しめるかとも思ったが残念だ」
俺はインビンシブルを解除しエスカ達の近くへ移動する。
彼女の顔が青くなっているのに気づく。
「どうしたお前ら……まさか」
「あ、あいつ首が折れたの生きてるニャ……動いてるニャ……」
後ろに向き直り、見ると首があらぬ方向に曲がったまま、全身の毛が抜け落ちながらも立ち上がろうとするワーウルフが目に入った。
俺はインベントリからデザートイーグルを取り出し、脚、心臓、頭の順に3発ずつ撃ち込んだ。
しかし胴体が砕け散るどころか出血すら見受けられず、敵の全身が青く変色していく。
「こいつは……」
「メタモルフォシス……」
青く輝く光の柱が奴の周りに発生し収まると、狼の顔を模した青色のヒーローらしきモンスターが立っていた。
酷く奇妙な姿だ。右半身は青と白を基調としたヒーロー然としたデザインに見える目の部分だけが黒いバイザーに覆われている。左半身は獣のままだが、その半身を半透明の白い膜の様な物で覆われいる。
折れた首をそのままにやはり俺に向かって突っ込んでくる。飛び上がり蹴りをかましてきた。両手をクロスさせガードする。鉄板の床が凹む程の強烈な衝撃が俺に伝わり、左手で脚に指を食い込ませて、無理やり敵をぶん投げる。間髪入れず銃弾を撃ち込む。
「何だこいつの桁外れなパワーは!?」
「かなんなぁ、ダーリン堪忍しておくれやすぅ」
「いや良いけどね?」
全然良くねぇよ、ここに来てついに陽炎ではどうにもならん敵が現れたか。格闘スペックに明らかな差がある。どうにかしなくては……。
「パルチ! ウォークライを使ってヘイトをお前に向けさせろ!」
「お、おおオレっちがあんな化け物の攻撃をわざと受けろって言うのかニャ!?」
「そうだ! 軽く見積もっても今の俺よりよっぽどかお前の方が奴にアドバンテージがある! 俺とエスカでは奴の打撃に耐えられん! 俺を信じろ! お前のアーマーの硬さは伊達ではない!」
「わ、わかったニャ!」
「行け! ウォークライと叫んだらとにかく脚を攻撃し続けろ!」
敵が再起する前に、パルチのアーマーに付けられたマフラーから白い煙を噴出させ、全速力で敵に向かっていく。
「ウォークライ!」
「グルルルアアア!!」
敵のパンチをモロに食らったが、どうやら大丈夫の様だ。そのままパルチは脚部への攻撃を続けている。
あれはヒーローなのか? あの歪な姿、どこかで……。
そうか、あいつも『デュアル』とかいう奴らか。あの植物三葉虫野郎の仲間の1人なのか? まぁいい、尋問なら地獄でできるだろうし、生かしておく価値は皆無だろう。
「助太刀する!」
伸びた剣先が敵の肩を斬り裂いた、かのように見えたがすり抜けてそのまま戻ってきた。後ろから攻撃されたというのに気にもせず、パルチに攻撃を続けている。
「剣先は確かに届いたはず……手応えが……」
「なるほど、確かここに来たばかりの時レイスがどうのとか言ってたな」
胸を叩いて外格のコアを割る。
「来い、シャイニング」
俺がそう言うと右手のカプセルに、光が灯りが白く発光しだした。手の甲を相手に向け呪文を唱える。
「フォース・レイ」
手をかざすと、ニコイチ狼男に向かって白いレーザーが向かっていき、敵の躰を貫く。
叫び声をあげながら後退し膝を着いた。
「今だニャ!」
パルチが敵の膝に抜き手を行い、そのまま天気を相手の躰に流す。緑色の光がスパークし敵は動かなくなった。
「オ……オレっちが倒したニャ! やったニャ兄貴!」
俺の方へ向いて手を振っているその後ろで、黒焦げになったワーウルフが静かに立ち上がり、彼を蹴り飛ばした。
ワーウルフの周りに青い瘴気の様な物が現れ、叫び声を上げる。
「不死身かあいつ……」
どうするか……。物理攻撃も光属性の攻撃も決定打にならん。
奴に効き目がありそうな魔法が1つだけ思い当たるが、ここであの魔法をぶっ放したら全て吹き飛ばしてしまう。何よりエスカに危険が及ぶ。やるしかないのか。
「万事休すか……」
俺が覚悟を決め手をかざした刹那、ゴリラがいる筈の部屋の窓が割れ、白い動物が俺の目の前に現れた。
「な、何故お前がここに?」
「わんわんわん!」
俺の方を向き舌を出しながら尻尾を振っている。ケルベロスが何故? 俺の匂いを追ってきたのか。
ワーウルフを雄叫びを上げるとケルベロスはワーウルフの方へ向き直り、姿勢を低くし威嚇している。
「グルルル……アウゥゥ……」
ケルベロスが遠吠えが辺りに響いた。すると、ケルベロスの真っ白な体毛がみるみる黒くなっていき、躰は巨大化し1つだった首が3つに増え、口から青い炎を吹き出す。
「やっぱお前だったんだな……来い!」
俺の声に反応し踵を返し俺の側に座った。
「よしよし、良い子だお前は」
左手で足の指をさすってやる。
左手のカプセルは空いている。ここでこいつを入れたらどうなるんだ? やってみる価値はあるな
「いけるか? ケルベロス?」
「わんわん!」
俺はカプセルにケルベロスの躰を接触させると、ケルベロスの姿はかき消え、全身が黒く染まっていた。
「お兄様……その姿は一体……」
「さぁ幽霊の狼と地獄の番犬どちらが上かドッグファイトといこう」




