第176話 俺、パルチに技を教える
「じゃあ行くか〜」
俺はインベントリから金の杖を取り出す。
「ゲイン君言ったじゃないか! ワープは危険なんだって!」
「ビビったお前〜。いつの間にか後ろおるし」
びっくりし過ぎて素が出てしまった。
「わかったよ。歩いていきゃいいんだろ」
「ついでに付いていくよ」
「そうだな。んじゃイクゾ」
俺達はホテルを出て闘技場へのポータルまで歩き出した。
「そういやさ、アーサーの奴がさぁ見てないうちにめっちゃ強くなってたんだよ〜。マジでビビってさぁ」
「へえ~そうなんだ〜」
「あぁ、あれ何なんだろうなぁ」
「へえ~そうなんだ〜すごい」
俺は後ろを向きながら歩いているアルジャ・岩本の頭を引っ掴んで無理やり俺の方へ向かせる。
「あのさ、人と喋るときは相手の目見て話せって親父に習わなかったのか? 前も言ったけど女性の胸をガン見するのやめような? 失礼極まりない行為だからな?」
「アーサー君が強くなってたんだろ! 聞いてたよ! 人の頭掴んで首思いっきり動かすのも良くないと思う! 首の辺りから鳴っちゃいけない音鳴ってるから!」
「エスカ、お前が俺達の前歩け」
「ハッ! 承知しましたお兄様!」
彼女が俺達の前を行く。
「せ……背中から垣間見える横乳の揺れが……」
「お前マジでいい加減にしろよ」
「仕方ないじゃないか! 男でおっぱいが嫌いな奴なんていない! 男の癖におっぱいが嫌いだなんて言う奴は信用にあたいしない! おっぱいこそ正義だ! ゲイン君はおっぱいが嫌いなのか!?」
「何だ急に。好き嫌いの話なんてしてねーよ」
「由緒正しき日本男児として君はどうなんだ?!」
そう言って彼は俺の肩に腕を回してきた。
うっとおしいな。こちとらモノアイなんだぞ。顔の前で手をひらひらさせんな。前見えねーんだよ。こいつ俺が問いに応えるまで手の動きやめねーつもりか。
「別に好きか嫌いかつったら俺も男だしそら……人並みに?」
「言質をとったゾ! ほら君だっておっぱいが好きなんじゃないか!」
「おい、もういいだろこの話。なんでこんな人混みの中でお前とおっぱい談義に花咲かせなきゃいけねーんだよ」
「それは我々が漢だからだよゲイン君!」
「わかった! 頼むから少し黙ってくれ。おいパルチ、パワードスーツの調子はどうだ?」
アルジャ・岩本の手を右手で跳ね除けて視界が開くと、左右のマフラーから白い煙を上げながら俺の前まで来ると踵部分にある球状のホイールでターンし、そのままバック状態のまま並走している。
マフラーは小刻みに揺れ、エンジンの駆動音の様な音が小さく聞こえる。
「初めてニャのにまるで自分の手足みたいに動くニャ!」
「それはパワードスーツに搭載された強制脳内学習装置のおかげさ。君の脳に直接操作方法をインプットされたんだよ。んー実にセクシーなデザインだ。退廃的でありながらも、勇ましく尊さを感じさせる。まさにアポカリプスとスチームパンクの完全調和」
「でも、このパワードスーツって俺が買った金色の歯車をコストにして、尚且こいつの爪から発してる電気で動いてるんだよな?」
「そうだよ。彼から発せられている電圧を、背中のギアへ伝えてエネルギーにコンバートしているんだ」
「やっぱそうなんか。じゃあ爪が折れたりしたらこいつ動かなくなるんだな?」
「その通りだけどその辺の対策は抜かりないよ。媒体にしている彼の爪がなんらかの理由により、折れたり電力が途絶えた瞬間に全機能が緊急アボートされ、キャストオフ機能が働く様にしてある。キャストオフされたと同時に、背中のギアが彼に向かって射出される様になっている」
「なるほど生身による攻撃も可能と言うことか。ところで話は変わるんだが、さっきも言ったがこれ早い話が電気で動いてるんだよな」
「そうだけど?」
「蒸気か水蒸気で動いてないなら、スチームパンクじゃなくね?」
アルジャ・岩本は俺歩みを止めた。
「ちょっと皆さんストーップ」
俺達は歩みを止め、アルジャ・岩本が俺の目の前にやってきて肩に手を置いた。
彼の今の表情は笑いながらも眉間にシワを寄せ苦虫を噛み潰したような何とも言い難い表情をしている。
なんつー不快な表情だ。
「細かい事は良いんだよ」
死ぬ程か細い声でそれだけ言うと彼が歩き出した為、俺達も再び歩を進める。
まさか気付いてなかったんか?
見た目はともかく、中身完全にサイバーパンクのそれだよな?
まぁ本当にどうでもいい事ではあるんだが、あいつもしかして天然なのか。
そんなこんなで俺達はポータルに到着し、地下へとワープしそのままエレベーターの前まで移動しボタンを押す。
アルジャ・岩本はもう片方のエレベーターのボタンを押した。
「じゃあ僕はここで下に行って仕事の続きやるから」
「おう、次会うときはてっぺん取った後だ。全部終わったら迎えに行く」
「了解。じゃあ、試合頑張って。蒸気兵の活躍を聞かせておくれよ」
そう言って先に俺達のエレベーターが到着し、彼を残してエレベーターに乗り込む。扉が閉まり、エレベーターが上へと動き出した。
せっかく新しい防具で戦う訳だし、こいつにも1つ何か技でも教えとくか。
「パルチ」
「何だニャ兄貴?」
「お前に1つ技を教えてやる」
「俺っちに技?」
俺は手を真っ直ぐにし、腰を捻りを加えて前に手を突き出しす。
発生した風圧によりエレベーターが揺れ、電灯が点滅するがすぐに収まる。
「い、今のは……」
「この技は抜き手という技だ。スキルではなく、人間が築き上げた技術だ」
「技術……」
「そうだ。スキルも魔力も全くないお前に唯一できる技だ。この動作で最も大切なのは腰だ。腕を伸ばすと同時に腰のスナップを効かせる事で、発生させるパワーを増大させ相手にぶつける。普通は喉や目、または金的に有効な技だが、お前ならどこに刺しても必殺の一撃になり得る。いいか? ぶっつけ本番だが、もしもここだと思う場面が来たら躊躇せず真っ直ぐに手を相手に向けて突き刺せ。そして刺さったと同時に電気を思っきり流してやるんだ」
「お、俺っちにそんニャ芸当ができるんだろうかニャ……」
「お前は弱くない。ただ戦い方を知らんだけだ。言っただろ、強いから勝つんじゃねぇ、勝つから強いんだよ」
「わ、わかったニャ……俺っちやってみるニャ」
「それと俺が初回に教えた事覚えてんな? まずは脚を狙え。良いな?」
パルチがコクリと頷いたと同時にエレベーターが止まり扉が開いた。




