第173話 デス・ウィッシュvsチーム勇者
『さぁやってまいりましたエキシビションマッチ! 序列5位デス・ウィッシュ対序列4位チーム勇者の戦いだー!』
俺は対峙するアーサーを見据え、あちらも俺を見ている。
『両チーム一向に動こうとしないようだ。さぁ一体どうしたのか』
俺の出方を伺っているのか。まぁ当然だな。本気でやるといった以上あいつ等も迂闊に手が出せないんだろう。画面上のアーサーのデータを確認すると脈拍が少しだが不安定になっている。
かなりの緊張状態にある様だ。当然といえば当然か。弛緩して緩みきっているよりは100倍マシだ。だからといってそれが正しい訳ではないが。
戦闘前に陽炎のコアを破壊しておく。
「おい、エスカ。お前はリンを攻撃しろ。他の奴等には一切の手出しを禁ずる」
「ハッ、承知致しました!」
「次にパルチ、こっちこい」
パルチがゆっくりと近づいてきた。
「なっ、何だニャ兄貴……」
「爪をしっかりおっ立てろ」
「わ、わかったニャ! スチームアームズを使うニャ」
俺のそばでパルチの躰が白い煙につつまれる。
その最中俺はパルチの頭を引っ掴み。そのままアーサー達の方へぶん投げた。
「オラァ逝ってこおおおおい!!」
「フギャアアアアアア!!」
白煙を撒き散らしながらパルチはじゃじゃ馬聖女の方へ真っ直ぐ飛んでいく。
「いけ、エスカ!」
「――ハッ!」
俺はインベントリから一本の打ち刀を取り出し、瞬歩を起動させ一気にアーサーの懐へ飛び込んだ。
「よう、アーサー」
「ッ!!」
「どうした? かかってこないのか?」
俺は腰を屈ませ柄を握る。
「その剣は……」
「あぁこいつか。こいつは善刀補陀落渡海という刀でな。相手に一切痛みを与えない。まさに相手を思いやる刀だ」
俺は刀を抜こうとした瞬間、横からリンの鉄拳が応酬してきた為、軌道を読んで回避する。
「炎呀真龍脚」
「ウゲェ!?」
灼熱の炎を纏った左足で右方向へ回し蹴り放つ。炎が龍の形を成しそのまま彼女はエスカの方まで吹き飛んでいった。
「男同士の戦いにちゃちゃ入れするんじゃねぇ!」
俺がアーサーの方へ向き直ると、彼は抜き身の剣を構え小さく息を吸った。
来たか。
距離が近すぎるな。あれをやるか。
「ガイドウ流剣術、八ノ型。御技堅牢八地刃。この技はな俺の師匠の技だ。せっかくだから見せてやる。まぁお前のと比べると大した事ないがな。さぁ来いアーサー!」
「お師匠のお師匠!? い、行きます!」
アーサーの姿が一瞬ぶれたかと思うと消え去った。
俺は超感覚を起動させ刀を抜くと、持っている刀の刀身とは別の刀身が横一列に連なって8つに増る。自身の防御体制に入る。風を切り裂く様な音が耳に届いた。
凄まじいスピードの斬撃を放ち、動きが止まろうかという一瞬に瞬歩を起動させ完璧なタイミングでのディレイキャンセルを我が物としている様だ。
なるほどな。からくりが理解できた。ビーディの言った通りだったとは恐れ入る。
正直言って人間業ではない。1フレームあるか怪しいぞ。俺に真似できるのか? あの技が。
気づいた時には出現させた7本の刀身は消え去っていた。
堅牢八地刃の刀身をこうも簡単にかき消す程か。
面白い。
「ガイドウ流剣術、十一ノ型、針山地獄」
俺を中心に地中から針の様な物が次々と現れては消えていく。
アーサーは姿を現し俺から距離をとった。
脚に穴が空いたのかブーツから流血が確認できる。
「さてと、じゃあレクチャーの時間といこうか。お前達にチーム戦の攻略方法とその恐ろしさを教えてやろう。顕現せよ! 水の精霊神アインディーネ! そしてこの両手のコアへ入れ!」
俺の前に水色の魔法陣が出現し、透き通る青い水で構成された女性の姿をしたそれは俺の両腕にあるコアに吸い込まれていき、外格が同じく透き通った青い水の様な物体になる。
左手を上空に掲げるとライトの光が手を貫通しているのがわかる。
「これはこれは。ウォーターボール」
直径30センチ程の球体が俺の躰から出現し、アーサーに向って飛んでいく。
水圧で彼の躰はかなり遠くまで飛んでいった。
「うむ、なるほどな。両方のコアに入れると威力が半減するのか。まぁいいや」
俺はパルチとじゃじゃ馬聖女の元へと向かう。
「離れなさい! 離れろつってんだろボケ!」
「嫌だニャ! 嫌だニャ! 離したら死ぬニャ! 絶対死にたくないニャー!」
俺はコントを繰り広げている両者の元へいき、顔面に引っ付いたパルチを引っ剥がしそのまま放る。
「邪魔」
「ヒエッ水の化け物だニャー!」
「てめーこの野郎ー!」
「息を深く吸え」
「は?」
俺は聖女の躰を俺の胴体に押し付けると、彼女がみるみる俺に吸い込まれていく。
「ガボッ!?」
流石水の精霊神だな。こういう芸当もできるのか。
聖女がもがいて両手を前にむちゃくちゃに突き出し、俺の躰から外に突き出ている。
「白痴かお前は? 首を出せばいいだろうが」
俺の言葉を聞いて首を一気に前に出し、水浸しになった彼女の頭が出てきた。
「ざけんなてめー! 私を離せ化け物!」
「お前には人質になってもらう。大人しく空気でも吸ってろ」
俺は再びアーサーの元へと向う。俺と聖女以外の面々は鳩が豆鉄砲を食ったような表情を浮かべている。
「そ、その姿は……なん……ですか?」
「これか? これはこの外格の新しい機能で──ってそんな事を聞いてる場合か? この状況をよぉく考えてみろ」
「この状況……」
アーサーが目を見開いた。
「お師匠様やめてください! どうしてこんな事を!? 正々堂々と言ってくれたじゃあありませんか!!」
「は? 俺はいい死合いにしようとは言ったが、正々堂々と戦うとは一言も言っとらん。お前が勝手にそう解釈したにすぎん。そんな事よりもこの局面をどう乗り越える? いいかよく聞け! チーム戦において最も大切なのは攻撃ではない。理解する事だ」
「理解する事……」
「そうだ、敵の装備、得意そうな攻撃、防御。そして忘れてならんのが味方と敵の位置関係だ」
「位置関係……」
「いいか、ただ闇蜘蛛に戦っていいのはタイマンだけだ。相手のやりたい事をやらせない。相手の行きたいとこに行かせない。この2つを念頭に置きながら戦わなければ、今回の様に戦線があっという間に崩壊してしまう。こうやって人質を取られる事だってままある。まぁ、これはガチで最悪のケースだけどな。どうするんだ? このまま戦うか? 打開策はあるのか?」
「ま、負けました」
アーサーは剣を鞘に収めて俺に向ってお辞儀をした。
「しかし惜しかった。あの技を俺に見せなければ、結果は変わっていたかもしれん」
「僕達の戦いを拝見していたのですね」
「ああ見ていた。最初マジでたまげたなぁ」
「僕達チーム勇者はサレンダーします」
『あぁーっと、チーム勇者サレンダー宣言! 勝者チームデス・ウィッシュだー!』
うるさい歓声が周りを支配する。
聖女を躰から取り出しびっちゃびちゃになった彼女が床に座り込んだ。
俺はすかさずアーサーに耳打ちした。
「あのさ、あのめっちゃ速い斬撃の技、俺にも教えて」
「えっ」
あの技めっちゃかっこいい……かっこよくない?
今年最後の投稿になります。
良いお年を。




