第172話 俺、序列に顔見せする
アーサーが部屋から出ていき数刻が経った。
「行くか。あまり待たせるのも悪い」
「はい、お兄様」
「アルジャ・岩本お前はどうする?」
「もうファストトラベル地点に設定したから適当なタイミングで行くよ」
「そうかわかった。おいエル。お前もこい」
「えー……マシュマロと一緒にいたい」
名前勝手に付けちゃう位愛着湧いちゃってるじゃん。
マシュマロて。どっちかってーとその犬ブラック○ンダーやぞ。
「じゃあ一緒にこればいいだろ」
「おお」
「わんわん!」
大丈夫かこの子。見てないと色々と不安になる。
ケルベロスが俺の元に来ると2本立ちになって顔をベロベロ舐めようと俺には覆いかぶさってきた。舌が出たのと同時に陽炎の口ががぱっと上がり、その開いた口にケルベロスが鼻先を突っ込んで俺の顔を舐めだした。
「わかったわかったブレーク! てか、この口そこまで上がるのんかよ」
「せやねぇ」
「ビーディお前はどうすんだ」
「後で暇つぶしで見に行くよ」
「よしイクゾー!」
ケルベロスが離れた所で全員揃ってホテルを出発し、そのまま地下へ直行した。
広いエントランスを行くと見知った顔がいた。
ピシッとした青いスーツを着たゴリラが俺達に近づいてきた。
この中世上等の異世界においてあいつの姿は異常――いや異形と言っていいだろう。
そしてこいつの透かした態度に何故か俺は妙に苛つくところがある。
「序列入りおめでとうございます。私の事覚えておいでですか?」
「あぁ覚えてるよ。ゴリラ」
「ゴリラズです。お間違えなきよう。まぁそれはともかくいい機会ですから一緒に行きましょうか。こちらへ」
「まだ猫が来ていない。呼んでくるわ」
「貴方達はエレベーターの前で待っていて下さい。私が呼んできましょう」
「見た目知らねぇだろ」
「デス・ウィッシュの戦いは全て拝見させてもらっていますので大丈夫ですよ」
ゴリラがパルチを呼びにいき、珍しくビクついていないパルチを連れて戻ってきた。
「すごいニャ! 黒き城壁こんな近くで初めて見たニャ!」
「全員揃いましたね。こちらへどうぞ」
ゴリラに付いていきエレベーターの前で止まりボタンを押した。
しばらくしてチーンという乾いた音と共に扉が開く。
「どうそ、お先に」
催促され俺達が全員乗った時点でゴリラが最後に乗り扉がしまり、揺れるとエレベーターは上へと向った。
エレベーターが機能している? 俺が押した時は動かなかったのだが。
「ゴリラ1つ聞いていいか?」
「なんでしょう?」
「こいつは地下にはいかないのか」
「はい、このエレベーター地下にはまいりません」
「そうか」
再び乾いた音がなり扉が開くとそこは地下とは対照的なきらびやかな空間が広かっていた。
幾人かの生物達がおり、その中にアーサー達の姿はない様だ。
右に巨大なガラス窓があり、そこから試合を一望する事ができた。ここから俺達の試合を見ていたのか。
全員エレベーターから降りたところで、ゴリラがテーブルに近づき置かれていた銀のスプーンを手に持ち、すぐ横にあった食器に当てて音を鳴らし注目を集めた。
「お食事をお楽しみの所申し訳ございません。序列に新たに加わったチームデス・ウィッシュです」
「ちーす、デス・ウィッシュでーす。全員ぶっ殺すんでよろしくな」
ざっと見るとひと際目立つのはソファーに腰を下ろし目を瞑る龍人の姿。ハガセンもモンスター枠において最も上位に位置する存在だ。所謂ユニークモンスターではなくノーマルの中ではだが。殆ど見た目は人間だが首や手足に見える青い鱗とが人間ではなく亜人で有ることがわかる。
ひたすら肉を食い続けているあのワーウルフはレイスの特徴を持っているんだったか。見た目は普通の狼男だな。毛色がねずみ色なのが少し気になる程度か。
ワーウルフも龍人も我関せずといった態度を崩さず、俺たちの方を見向きもしない。
「はぁ……ここにいる全員は序列なのですよ? 皆様少しは調和というものを知ったらいかがです? たとえ争い合う中でも互いの認知を高め合うのは大切な事ですよ」
こいつ頭にバナナ詰まってんのか? どうせ殺し合いするだけなのに何が調和だよ。
「そいつは悪かった。仲良しこよしで飯食って馴れ合いするけど試合が始まったら殺し合いしましょうね」
「はぁ……もう結構です。向こうに見える2つのポータルが見えますか。あれに触ってください。そうすればコロシアムへ強制転移します。チーム勇者は既に転移しています」
「エルはケルベロスと仲良くここで観戦しとけ」
「ケルベロスじゃ……ない。マシュマロ」
「わんわん!」
「……そ、そう。まぁ行ってくるから」
「どっちも……頑張れ」
畜生共と馴れ合ってる暇はない。
アーサーがどれほど強くなってるのか未知数だからな。アーサーの話によるとあの斬撃技と遠距離技ともう一つあるらしい。
「フフ、楽しみだ」
「たとえ味方であろうと騎士として責務を果たすのみ!」
「死ぬのは嫌だニャ……痛いの嫌だニャ……やるしかないニャ……」
俺は奥に設置されたふわふわと浮遊するクリスタルに触れ俺達はバトルフィールドへと転移するのだった。




