168話 俺、実験を行う
「えっないの?」
「ない! 全くない!」
「そっかぁ。じゃ頑張ってくれ。俺エスカ達を待たせてるから行くわ。終わったら迎えに来る」
俺は彼に対して両手を合わせた。
「南無」
「ゲイン君んんんんん!!」
俺はコードまみれの彼を無視し踵を返す。
「せめて食べ物とトイレをー!!」
「それもそうか」
俺は両手をかざしビルドスキルで仮設トイレとトイレペーパーを入口の右に設置し、クッキングスキルでハンバーガーを100個程山盛りになった状態で左に現れた。
「この位でいいか?」
「十分ですありがとー」
「ちなみにバーガーはセットだからポテトとジュースも付いてるぞ。ハンバーガーを口に入れたら勝手に出現するから好きなだけどうぞ。ポテト以外のフレーバーはランダムだから食ってみないとわからん仕様になってる」
「ハーイ了解ー」
「俺戻るわ」
俺はアルジャ・岩本を残し入口にまで戻る。背部のブースターを起動させ、エレベーターの扉まで戻った俺はエスカ達がいる場所ヘ戻った。
「いや〜悪い。ちょっと思ったより時間かかっちゃってさぁ」
「兄貴! 見てくれニャ、おかげで銀のスチーム・ギア手に入ったニャ! いつもはフッかけられるのに凄い安く買えたニャ!」
「なんでフッかけられなかったか教えてやろうか」
「ニャ?」
俺は膝をついて耳元で口を開く。
「考えてみろ。イヤだイヤだって泣きながらビビリ散らかした奴が、あそこまで徹底的に残虐行為をしたんだぞ」
「あ、あれは兄貴が――」
「あのな過程はどうでもいいんだよ。大切なのは結果だ。そのおどおどした態度そのものがいい塩梅の迷彩になってるんだ。予言してやろう。次の戦いお前は絶対に攻撃されない」
「ほ、ほんとニャ?」
「もし傷を負ったらこいつをタダでやってもいい」
インベントリから金色に輝く歯車を取り出す。
「金のスチーム・ギア!?」
パルチが歯車に触ろうとしたので、俺は右手を天高く上げる。
「おいおい、お前はさっき銀の歯車買ったんだろうが。いいか、俺は傷を負ったらやってもいいと言ったんだぞ。お前にその覚悟があるのか? 勿論、ビビリ散らかして敵前逃亡してもやらんし、わざと傷を負っても駄目だからな」
「じゃあ、どうすればいいんだニャ?」
「どうすればいい? 簡単なことだ。俺が教えたことを実行するんだ。お前は今まで敵にビビっていたがそれももう卒業しろ。今度はお前が敵をビビらせる番だ」
「オレっちが……」
「そうだ、俺達こそが捕食者だ。敵を殺せ。両目をえぐり、耳を斬り落とし、鼻を削ぎ落としてやれ。お前は弱くない。戦い方を知らんだけだ。いいか強いから勝つんじゃねぇ。勝つから強いんだ」
「兄貴、オレっち頑張るニャ」
まぁ多分今回はパルチとエスカの出番はないだろうが、やる気になってる奴の士気を下げる事もないだろう。
「早速アドバイスをやろう。お前の爪が敵の躰に刺さったら、一瞬でもいい、電気を流してみろ」
「分かったニャ」
「では2人とも行くぞ」
金の歯車をインベントリに戻し立ち上がり、搬入用のエレベーターへと通路ヘ進む。そのままエレベーターに乗りしばらくして地下へ到着する。
控室と化した倉庫へ入ると周りにいる獣人達が一斉に道を開けた。
もうこいつ等では相手にならんな。序列とかいうナンバリング制度ヘとっとと挑戦したいんだがな。今から殺り合う奴等の結果によっては序列への直訴でもするか。あれだけ目立つ行動したんだ。何らかの反応が合ってもいいはず。
俺は完全に萎縮している獣人共を無視し闘技場ヘ真っ直ぐ進む。
闘技場ヘと立つと歓声が響き渡った。
『さぁやってまいりました! 前回苛烈な戦いを見せたデス・ウィッシュの登場だー!』
「大した人気だな。きっと前回俺達が勝ったことで懐が暖まった大穴狙いの奴等が大量にいたんだろう」
『デス・ウィッシュを迎えるは【スティール・テイル】の面々だー! 今回リーダーのウェイブ達っての希望により序列戦が開幕するぞー!』
ほう、恐らく前回の戦いを見て潰しに来たか。だが、こいつは都合がいい。当てが外れて残念だったな。今度は俺がいる。自身の運のなさを恨め。
向こうから3匹のリザードマンが姿を現した。オレンジ、赤、青と実に毒々しい色をしている。軽装な出で立ち。腕に付けた丸い盾に皮製の胸甲のみを着けている。動きを重きに置いた装備といった出で立ちだ。
「じょ、じょじょ序列戦!? 聞いてないニャ! 絶対ムリだにゃ!! 死ぬのはイヤだニャー!!」
「おいパルチ! 敵前逃亡したらわかってるんだろうな!!」
「やるニャー! 死ぬ気でやればいいんだニャー!?」
「そうだ! ヤバくなったら俺が助けてやる! エスカお前は好きに戦え!」
「ハッ! お兄様への愛の為に!」
「……や、やるぞ!」
もう俺への愛情炸裂具合いをいよいよ隠さなくなってきたな。いかん、集中しなければ。リザードマンか、丁度いい。タバコでも吸うか。
インベントリからタバコを取り出す。詠唱で炎魔法を起動させ、人差し指に火が出現。そのまま火を点け指を軽く左右に振り指の火を消す。
3匹のリザードマンは妙な色をした歯車を手に取り、煙が噴出する。
紫の歯車? このスチーム・ギアとかいうここでしか売っていないという武器も謎だな。まぁどうでもいいっちゃどうでもいいんだが。あれ外格と少し似てるんだよな。試しに撃ってみるか。
間髪入れず愛銃をインベントリから取り出し、発砲するが手応えがない。
「兄貴スチーム・ギアは展開中に攻撃しても無駄ニャ!」
「ほう、変身中の攻撃は無駄という事か。フッまるで特撮ヒーローだな。良いだろう」
俺は銃口を上に向け変身が終わるまで待つ。パルチも少し遅れて煙を噴出しだした。
「エスカ、煙が終わるまで攻撃するのを待て」
「わかっています。お兄様」
変身中に攻撃を加えるのは無礼だからな。ハガセンでも変身中のヒーローには攻撃を加えてはならないという暗黙の了解が存在していた。まぁヒーローの変身エフェクト中は完全無敵になる為攻撃しても無駄なのだが。それと同じだった為少し懐かしさを感じてしまった。
現れたリザードマン達は3匹共ナイフが握られていた。
「お前等は敵と距離を詰めつつ動きながら戦え」
「承知しました!」
「ヒイィィィ!!」
各自行動を開始した瞬間、3匹が揃って俺に向かって突撃してきた。俺はインベントリから抜き身の打刀を取り出し左手で持つ。瞬歩を使い、一瞬で距離を詰め先頭のオレンジの首に突き刺し右足で蹴り飛ばす。その隣にいた青いリザードマンに銃弾を脳幹に向けて2発撃ち、顔面が弾け飛んだのを視認。左手で持った刀を手放し、生き残りの赤い鱗が目立つ奴の首を引っ掴みそのまま持ち上げる。
「弱い。全くもって弱い。ちょっとは期待したんだがな。序列とはこんなもんなのか? お前等は何位なんだ? フゥ~」
「貴様……グッ」
「確か爬虫類はタバコの煙の臭いが大嫌いなんだよな。どうだ気分は? せっかくだからお前には実験台になって貰おう。別に攻撃してもいいんだぞ」
「グアアアアアア!」
リザードマンが手に持ったナイフで俺の手に付いた膜を斬り裂いた。緑色の液体が勢い良く噴出し、リザードマンがもろに被ったところで俺は手を離す。
「なんだ? この液体は!?」
「……」
症状はすぐに表れた。
痙攣を起こしながらその場に座るようにして尻もちをついた。
「どうだ? 手足に力が入らんだろ? こいつはエグいぞ。進行速度は最強の寄生虫である芽殖孤虫と同等だからな。すぐに次のステージへ向かう。自殺するなら今だぞ。まぁとっくに手足は痙攣して使いもんにならんがな」
「ッ……」
「脳みそが動いてるうちに教えといてやる。今はステージ1だ。ヤバいのは次からだぞ。お前の体中の穴から侵入したこいつ等はお前の細胞や臓器皮膚全てを食い荒らし始める。そして最終ステージへ進行する」
「最終ステージ……?」
「お前は別の何かへ生まれ変わる。それがどの様にして変わるのかはこいつらの気分で決まる」
俺が喋り終わった瞬間、リザードマンの鋭い爪が剥がれ落ちた。それを皮切りに両手足の爪がどんどん剥がれ落ていく。
「始まったな。お〜らどんどん来るぞ」
「な、なんだ……? これは……」
そして躰中が砂そのものになっていく。
「嫌だ……こんな死に方は嫌だあああ!!」
自身の結末を悟ったのかリザードマンは声を張り上げ始めた。もう無駄なのにな。
「良かったな。まだ絵的にはマシだぞ。俺のパーティメンバーだった奴なんてスカベンジャースライムだったんだ。あの時はもう大変だった。躰はドロッドロに腐っていくわ臭いがキツイわでなぁ」
「助け……たす……はふげべふべぇ」
口から大量の砂を吐き出しながら俺にすがり付いてくる。俺はそれを軽く足を動かすと砂になった手が千切れてそのまま砂になり、リザードマンだったそれはタダの砂となって脆くも崩れさった。
一仕事終えた為、タバコの煙を一気に肺にため放出する。
「フゥ~あータバコうめぇー。帰るか? それとも続行するか? 俺はどっちでもいいぞ」
「私は……その気分が優れないので……帰りウッ――」
「ニャ……ニャんだ……今の……」
「おい、パルチ」
「フギッ!?」
「俺の言うとおりだっただろうが? ただ残念だっだな。あまりにも雑魚だったから俺がまとめて処理しちまった。次だな次! なんか皆ドン引きって感じ? なんか我が妹グロッキー状態だし、じゃあ帰りますか」
タバコを鉄板でできた地面に捨てて全身の毛を逆立てながら俺の方を見るパルチと、気分が悪いというエスカを連れてホテルに帰還する為、床に落ちた砂にまみれた刀を蹴り上げて左手でキャッチし闘技場を後にした。




