167話 俺、知ったかぶりをする
謎のコードが次々現れては消えていく。
「あとはシングルモードで再起動してルート取っちゃえばこっちのもんだな」
「そうなのか」
「うん。所でゲイン君はコード書いたことは?」
「逆に聞くわ。あると思うか?」
「ですよねー」
一度画面が暗くなり、すぐに明るくなったと思えば謎のログが現れた。
「ログイン画面か?」
「そうだね、あとはもう僕のパス入れればオッケー」
端末のVRキーボードを打つ手が止まり、そのまま動かなくなった。
「どうした?」
「パスが書き換えられてる。間違いなくこれをいじったのは――」
「同郷か」
「いや……その可能性は低い。僕以外にこれを操作できる人間は……ごめん、ゲイン君。ちょっと本気出す。今から脆弱性をついて無理やり突破する」
「そんなパワープレイができるのか?」
「できる。僕が昔作ったバックドアが領域内のどこかにある筈」
「何でそんなもん作ったんだ? 他人のPCやゲームならともかく鋼戦記はお前のゲームと言っても過言じゃないだろ」
「……これにはプロト・ゼロが関係してる」
「またあいつかよ」
「あぁ、機密裏に作ってたプロト・ゼロなんだけど、異常者の脳を使用しているのが元老院のクソジジイ共にバレたんだ。当時僕は武器の密売の関係で元老院には逆らえなかったからね。領域にプロト・ゼロのデータをそこに隔離して事なきを得たんだ」
またアルジャ・岩本が再び手を動かし、別の見たことのない真っ黒なウインドウが現れそこに次々コードが書かれていく。
「前にも言っていたが、その元老院ってのは何なんだ?」
「元老院は6人からなる超特権階級の老人の集まりさ。裏から世界を操作してるクソジジイの掃き溜めだよ」
「なんだよそれ。フリーメイソンの親戚か? はたまた特撮ヒーローの悪組織みたいじゃん」
「まぁ君に伝えるならそっちの方がわかりやすかったかもね。いいかいゲイン君、この世の中にはね正義なんておべんちゃらは存在しないんだよ。あるのは悪かもっとヤバい悪のどちらかなのさ」
はえ~、実際に悪の組織が世界を動かしてたなんて何それ怖い。
「その元老院の奴等がこれをやったのか」
「いやいや、余裕で平均年齢90超えの連中だよ? 流石にそれは……」
そう言うと、また手が止まった。
「そういえば、何故黒澤大五郎は僕なんかに仕事を寄越した? あの頃僕は全くの無名だった。どこで僕の名を知り得た? そういえば、いつも1箇所だけ空席だった。まさか……」
そういって、文字列を消去しまたログイン画面へ戻っていく。
「お、おい良いのか? せっかく色々打ってたのに」
そしていくつかのログイン画面に*がいくつか打ち込まれ、PCのいたって普通のデスクトップ画面が表示された。
「おっやったじゃん。流石ーエンジニア」
肩パンするが、彼はただ黙って画面を見つめている。
「何故このパスが通るんだ……? これの意味する所は一体なんなんだ?」
「なんだよ? 適当に入れたら通っちゃったのか?」
「大五郎だ……」
「なんだって?」
「黒澤大五郎がこの世界に来てる……」
「そうなのか? えっでもあのじーさんって確か――」
「試作機のヘッドギアを自分で試して、発生した電力サージで脳が焼ききれて即死した……」
「あれ当時すげぇニュースになったよな。株価めっちゃ暴落して次の日全世界の電車が止まりまくったって話題になっての記憶してるわ」
「大五郎の名前と生年月日入れたら通っちゃった……」
名前と誕生日て。ネット初心者かよ。まぁ爺ならそんなもんか。
「でも、90の爺さんだろ? どう客観的に考えても無理だろ〜、転生すると不老になるっぽいがこの異世界で生きていくには年を取りすぎているぞ」
「いや、可能な方法が1つだけある。君なら考えなくてもわかるはずだ」
アルジャ・岩本が受け取ったと言う脳と強化外骨格、そして人工知能……。
「ま、まさか」
「彼は自らを実験体となって、この世界に故意に転生した」
「ちょ待てよ。この異世界を作ったのはお前と魔王なんだろ?」
「僕はずっとあのダンジョンに籠もっていたから、その辺はわからない。ただ、間違いなく黒澤大五郎はこちらに来て、そして恐らく今もロボットもしくは外格を着込んで生きている可能性が非常に高い。そしてやはりこの施設は彼によって運営されている。この強烈なブリザードも彼が意図的に起こしているものだろう」
「おい魔王! 話がある! 姿を見せろ!」
俺が叫ぶと端末の前に相変わらず全裸の魔王が姿を現した。
「どうした人間」
「1つ聞きたい! この世界へ転生した者達は時間軸上別々なのか!?」
「知らぬ、我はマナの権化であって神ではない。転生に関する事は神に聞くが良い」
そんな事できたらこんな旅してねぇんだよ!
「もう良いか? お前の頭の中は中々愉快だ。今漫画と言う物語が書かれた蔵書を読んでいたところだ」
「お前俺の頭ん中で何漫画読んでんだよ!」
「今丁度いい所なのだ。ではな」
そういって魔王は俺達の前から姿を消した。
「なんなんだあいつはああああああ!!」
「まぁまぁ落ち着いて」
「あんの下半身熱帯雨林め。次見たら全部剃り上げてパイパンにしてやる」
「僕は嫌いじゃないけどね〜」
「てか、んな話どうでもいいんだよ! で、結局どうなんだよ!」
「今施設の強制再起動できるか試してる」
「再起動はさっきやったんだろ?」
「いや端末じゃなくて施設そのものを再起動した方がいい」
「それがだめだったら?」
「その時はシーモスクリアかなぁ」
シーモスクリアってなんだ?
「あーシーモスクリアね、あれ美味しいよな」
「シーモスクリアって言うのはね、物理的にBIOSをまっさら状態にするスイッチみたいなものだよ。施設毎一気に再起動させる位ならもうこれやって初めからやり直した方が早いんだ。食べ物の名前じゃないよ」
「知ってた」
「ゲイン君、知ったかぶり続けてると友達なくすよ?」
「うるせぇ! 早く再起動しろよ!」
「本当に可愛げないなぁ君は〜」
しばらくキーボードを打っていたが、三度彼の手が止まった。
「駄目だこりゃ」
「できないのか」
「というかたどり着けない。ユーザーインターフェースがむちゃくちゃに改ざんされてるし中のコードもヤバい位スパゲティになってる」
「スパゲティなら知ってるぞ。俺はナポリタンが好きだ」
「良いよねー僕はミートソースも好きだよって違うよ。こういうのをスパゲティコードって言うの」
「知ってた」
「もういいよ……。あーもう面倒くさいなぁ! 端子探すか!」
そういうと彼は端末から離れ、画面下部の黒い空間を触りだした。そして扉の様なものが現れた。
「じゃあ、ちょっとマザーボード見てくるね」
そう言うと彼は奥のへ向かっていった。
数刻の後、彼の叫び声が聞こえ走って戻ってきた。
「なんだどうした!? 敵でもいたのか!? 物理的なバグか!?」
「し、シシシーモスクリアの端子がゴッソリなくなってるうううううううううううう!!!!」
大小様々なコードにまみれた彼の絶叫がこの空間中に響き渡った




