第161話 俺、まいっちゃう
今の掃射の音、ビーディか。
「何だニャ……今の轟音は?」
「ちょっと見てくか」
俺は再び闘技場へと戻り、観客に混じって立ち見する事にした。
闘技場の端でビーディが6機のミニガンを肩辺りに3つずつ、手にはエルフの里で弄っていた対物ライフルを2丁を両手持ちし2丁拳銃の様に運用している、足元には薬莢が山のように積もっていた。
両肩の6つのミニガンはサイコキネシスで浮かせて無理やり運用している。あいつの十八番だ。
敵は1匹のカエルを残し一瞬で肉塊と化したのだろう。
『な、なんとこの闘技場始まって依頼、初のソロ参加者レッドフードが登場して、たった数秒のうちに2体を亡き者にしてしまいました。あまりに速すぎて何が起こったかぁ。周りも静まり返っております。何者なのかレッドフード!!』
『だから赤ずきんだって。もういいやそれで』
あいつが使ってる銃弾は確か、アダマンチウム性劣化ウラン弾だったか? 劣化ウラン弾の特性を可能な限り再現した。特殊弾。それを魔法で小型化して運用している。俺の属性形状記憶スライム弾とは大きくコンセプトが異なっている。
俺の玉はスライムに声を記憶させ、その声の周波集によって異なる色々な弾頭を使えるというバリエーションを楽しめるが、あいつのあれは如何にロボットやモンスター、はたまた人間もしくは生物に風穴を開けるかをのみ執着し作られたあいつ専用の銃弾だ。
そんな銃弾がミニガン1機と考えて、秒間8000発という圧倒的物量を以って標的に襲いかかってくる。圧倒的物量、圧倒的攻撃範囲、そして事実上不死身というこの3つのメリットの完全調和こそが、ロボットというジョブの最大の強みだ。それを6機、しかも両脇に完全アンチコイル仕様の対物ライフルを抱えている。そんじょそこらの動物が束でかかったところでどうにもならん。そして、最も恐ろしいのはここからなんだ。
『もう終わりか。はっや。少しは楽しめるかと思ったんだけど、まぁいいや。カエル君、ちょっとこっち来て』
始まった。
「か、躰が勝手に!?」
小さなナイフを持ったままカエルが彼の元へやってきた。遠くて確認し辛いが、その顔は恐怖で引きつっているだろう。
「ひぃぃ、サレン……んー! んー!」
『だめだめ、サレンダーなんてさせないよ。お口にチャックしようね。鼻の穴開けといてあげるから、息できるだろ? さて、カエル君、俺さカエルを見る度思い出すんだ。小学校の理科の実験があってね? そこでメスを入れられたカエルを見て、俺はじめて勃起したんだ。あの時の感動は筆舌に尽くし難いんだけど……カエル君聞いてる?』
どうやらカエルはとっくにショック死したようだった。
『んー何が言いたいかって言うとね? 初めて気づいたんだ。俺は君達、生物が垂れ流す血液が大好きなんだって。さあカエル君、俺にあの時の感動を呼び起こしてくれ』
カエルの躰が宙に浮き、高く舞い上がるとその躰がまるで雑巾を絞るかの如く回転していく。ベキベキと骨のひしゃげる音を闘技場に響かせたかと思うと赤色液体が彼に向かって一直線に降り注ぐ。
そこには1人の赤鬼が立っていた。
『ンフフフ、ありがとうカエル君。生き返って本当によかったよハハハハハ! はぁ、満足満足。エレクチオンもできたし、俺はもう良いかなぁ。次控えてるしねぇ』
俺はチャットを起動させ、ビーディを強制入室させる。
『おい、ビーディ帰るぞ。もうニコチン切れてタバコ吸いたくてしょうがねぇんだよ』
『あぁけんちゃん。見てた?』
『そら見てたよ』
『っぱ生物撃つなら劣化ウラン弾が一番いいよ。速攻で穴開くからさ』
『お前ホテルまではそのままでいーけど、ちゃんとクリーンで全部落としてから入れよ。くっせぇしきたねーんだよ!』
『えー良いじゃん』
『良くねぇよボケ。ブッ飛ばすぞ』
『本当に帰るの? 俺の次控えてるのアーサー君のチームだよ』
『マジか、じゃ見てから帰るか。戻る時伝えといてくれるか。あと俺の隣来てもいいけど、インビジブル起動してから来いよ。談合してると思われる可能性がある』
『りょ』
俺はチャットを終了させる。すると同時に血まみれのビーディが真紅に染まった右手を上げた。
『飽きたんで帰りまーす。対ありでしたー』
そう言い、宙に浮いていた臓物が溢れ出た肉塊がべちゃりと地表で音を立ててから、深々と礼をして戻っていった。
『今の悪夢の様な光景は一体何だったのか……』
あまりにも凄惨な光景に皆我を忘れているようだ。パルチなんてビーディの姿を見た瞬間から、今の今までずっと気絶している。
「おいコラァ、天の声仕事しろー」
「――ハッ! そうだ、次……次は【チーム勇者】です!」
遂に来たか。どれほどのものか。ここで見せて貰うとしよう。
そういえば軽くどよめきが一瞬起こったな。アーサー達は先発だし、そこそこ名が売れてきているんだろうな。
ビーディが戻っていた所からアーサー達が現れ、向かい側から重厚な鎧に躰を包んだ山羊のチームが現れた。
『鳴り物入りで現れた【チーム勇者】に対して【怒り狂う角】どう出るのか! 試合開始です!』
「では、行きます!」
「アーサーきゅん! 期待してるッスよ!」
「アーくん! こんな意味のわからないアーくんの頭皮嗅ぐだけの変態豚女よりも私の方がずっと期待してるからね!」
アーサーだけが前に出ると剣を構えた。
女共は口喧嘩に終始している。
何やってんだあいつら。全然真面目にやってねぇじゃん! アーサーソロで行かせてどうすんだよ!
「バカめ! 我らの連続突進攻撃を受けてみよ!」
アーサーの手が青色に光が光ったかと思うと、剣を逆手持ちにし、刀身を地面に擦り付けるかの様にして相手に向かって振りかぶり。剣が空を切ったかと思うと、蒼い電気を纏い可視化された斬撃の様な物がまるで、地中を往くサメの背びれの如く相手に向かっていき、ヤギがそのまま白煙を上げたかと思うと、ぶっ倒れた。
「クソ、ブガルーがやられた!」
「足を止めるな! こいつをそのまま我らで空中に飛ばせば、勝機はある!」
やられた仲間に目もくれず、2匹のヤギが彼に突撃を仕掛け、アーサーとの距離がどんどん縮まる。
アーサーが逆手持ちから、剣をいつもの両手で持つスタイルに戻り、彼が小さく吸い土を紡いだかと思うと彼の姿が一瞬で消え、一迅の風と共に羊達の後方、に背を向けた状態で現れた。彼に握られた剣は血に一滴も染まっておらず、静かに剣を鞘に納め金属音がなったと同時に羊の片割れの全身から鮮血が吹き出し、サイコロの様にバラバラになった。
アーサーが踵を返し最後の1人になったヤギの元へ静かに歩み、そして口を開けた。
「山羊さん、貴方の負けです! サレンダーして下さい!」
「こ、この一瞬で……い、一体何がどうなって……」
「僕が仲間お2人を殺しました。貴方を殺しても意味がありません。僕は後方の仲間を守ったに過ぎません。続けますか?」
「お前本当に人間かよ。化けもんだ……クソふざけんなよ。……俺はサレンダーする」
「ありがとう御座います!」
「金髪がトラウマになりそうだ。クソ、足が震えてうまく動けねぇ」
「大丈夫ですか!? 肩を貸しましょう。捕まって下さい」
「お前、俺は敵だぞ」
「関係ありません」
羊がアーサーの肩に捕まり、2人揃って出入り口へと戻り、アーサーは彼女等の元へと戻っていった。
「今起こった光景は一体何だったんだ? 俺はまだ地獄に居て、知らず識らずのうちにレッサーデーモンの汁でも口にしてラリってんのか?」
『何の話してんの?』
「ビビったぁ! いつの間に隣に来たんだよ」
『アーサー君がビーム放つ辺りから』
「かなり最初じゃねーか」
『いやいや、びっくりしちゃってさぁ』
「お前、あれ何だと思う?」
『あれってさぁ、多分最初のヤツはロボットのエレクトリガー問屋似てるよね。謂わば、剣版エレクトリガーだね。あと消えたやつはウルトラスピードモードで見たらわかったけどむちゃくちゃ瞬歩連発しながら斬りまくってるだけだね』
「そんなからくりが……。全部俺が教えた技じゃないか」
「お兄様、私は幾つか助言をしましたが、あれは全て彼自身の努力によって生み出したものです。私はいつも朝4時に起きて日課の自重トレーニングをしているのですが――」
「えっエスカ、そんな早起きなの」
「ハイ、それでですね、私よりも早く起きていた彼に技を見てほしいと頼まれ、斬撃を放つあの技ですが、逆手持ちをした方が良いと進言したのは何を隠そうこの私です」
「上には上がいた。マジかぁ」
勇者パワーにはまいったな!




