第158話 デス・ウィッシュvsプレデーション
そこそこ広い場所に出た。
ここは荷物置き場として使われていた区画だ。その名残りが随所に確認できる。朽ちたロボット用のパーツが乱雑に放置してある。
元々あんま綺麗な場所でもなかったが、ゴキブリの巣みたいになってるな。嘆かわしい。
周りにいる獣人達の影響なのかは知らんが、獣臭さエグいな。
「衛生面は最悪だな。お前等、周りに落ちてる変なもんに触ったりすんなよ」
「わかりました」
「わかったニャ……」
古巣の変わりように軽くやきもきしていると、前からネズミが近吹いてきた。ネズミと言ってもネズミの獣人だが。
「スケベな躰してんなぁ。エルフねぇちゃんこんなパッとしない奴らじゃなくて俺と組まないか?」
「ん? すまない。お兄様に今し方、変なものに触るなと忠告を受けたばかりなのだ」
彼女の悪気ない煽りにネズミの顔がみるみる赤くなる。
「て、てめぇちょっと……いやだいぶエロい躰してるからって調子こきやがって!」
ネズミが右の手首にはめた歯車に手をかけた為、俺はエスカとネズミの間に割って入る。
「なんだてめえ?」
「あー悪いんだけど、俺の妹から離れてくれる? 臭いんで」
「て、てめえ俺を舐めてんのか……?」
「いや、舐めてない。臭いって言っただけ」
「俺の1番気にしてる事を言いやがったな! 許せねぇ!」
ネズミが右手にはめた小さな歯車を回すと、一気に蒸気が発生し、煙が収まるとネズミの手には鉄製のパチンコが握られてた。
パチンコて。世界観がん無視にも程があるだろ。
「いいか? 俺を怒らせたお前等が悪いんだぞ? 俺のこの炎球玉で穴だらけにしてやるぞ!」
俺はインベントリから銃を取り出し、ネズミを見据えたままノールックで廃棄されてたガラス状のパーツ類に向かって発砲。ガラスが砕け散りください中に入っていた液体が散らばる音が聞こえる。
「穴が何だって?」
「ひぃぃ! よ……用事を思い出した。命拾いしたな。今ちょっと魔力が足らないみたいだ」
ネズミが後ずさりをし、逃げようとしたためしっぽを踏んで銃口を鼻先に突っ込む。
「俺の大切な妹に卑猥な台詞を吐いといて謝罪もなしか。てめぇ俺の妹を舐めてんのか?」
「も、申し訳……ございませんでした」
俺は突きつけた銃口と足をどかすと真っ赤に火傷した鼻先を抑えながらネズミは去っていった。
「全くここの住人にまともな奴はおらんのか」
「お兄様〜」
「エスカ大丈夫だっ……」
あっまずい、彼女の瞳がハートマークになっている。
「いかん、いかんいかん。あぶないあぶないあぶない。エスカさん!正気保って! 今から戦うんだよ!? ほ、ほらこれからが本当のデートだよ!? 今欲望全解放するのは勿体ないッスよ!」
「ハッ!? た、確かにお兄様のいう通り。私はなんて愚かなんだ!」
発情しかけたエスカを素面に戻せたの何気に初じゃね? よかったぁ。こんなところでスーパー乱行タイムにならなくて。
軽いトラブルはあったものの、どんどんこの区画にいたチームが消化されていき遂に俺達だけになった。
「チームデス・ウィッシュこちらへ」
呼ばれた声の方へ行くと、例のコウモリがいた。
「どうも旦那。次は旦那達ですよ」
「おう、コウモリ。1つ聞いていいか?」
「へぇ、相手が待ってますからね。軽くで頼んます」
「俺達以外のチームが帰ってきてないが、どこにいったんだ?」
「あぁその事ですか? 簡単ですよ。死んだんすよ。旦那のチーム以外」
「ここにいた全員がか?」
「その様で。さ、相手が待ってやすよ。精々頑張って」
目の前には青く光るポータルが設置されている。
俺がそれに触れると、目の前が一瞬で景色が変わりライトの眩しい光に照らされる。
けたたましい歓声轟く中で、中央では対戦相手の3匹の虎が血に染まった巨大な牙をむき出しにし両手を天高く上げている。
『まさに獰猛! 無慈悲! チームプレデーションまさかの全勝! 残るは1チームのみ! 念願の序列入りなるかぁ!』
「む、無理だニャ! あ、あんなの相手に戦うなんて自殺行為だニャー!」
あいつ等が持っている武器は……鎖か?
「お兄様……」
「いずれにせよ戦ってみればわかるか」
『さぁ両チーム揃い踏み! 心ゆくまで殺し合えー!』
3匹の虎が一気にこちらへ距離を詰めてきた。
「おうおう、やる気満々じゃん」
「兄貴ー! 死にたくないニャー!」
「いざ尋常に勝負!」
エスカが剣を抜き、パルチが泣き叫ぶ。
「よし、お前等! 頑張ってね〜」
俺はインビジブルを発動させ、2人から離れる。
「お兄様!?」
「あ、ああ兄貴ーッ!!?!」
『おーっとまさかのチームデス・ウィッシュ敵前逃亡。3対2になってしまった。さぁどうなるのか?』
うるせー。好き勝手言ってんじゃねーよ。
パルチは半狂乱になって逃げ出し、2匹が追っている。エスカと残った1匹が戦闘を開始した。
俺は両者を無視し壁沿いに向かって歩く。パルチを追った2匹はある程度の距離を保ちながら付かず離れず、どうやら舐めプしている様だ。
「バカな奴らめ。手痛いしっぺ返しを食らうことになるとも知らないで」
あいつ等は……いやここにいる誰もがこの施設の本当の姿を知らない。俺の古巣がどういう場所なのか。壁や床に刻まれた文字の意味を教えてやろう。
俺は壁に備えられた四角形のいくつもボタンがつけられたコンソールのボタン類を操作する。
通電は既に確認済み。
あとは待つだけ。
パルチの方へ歩を進める。
あいつは壁に追いやられ、小さく震えている。
「ここ、殺さニャいで……」
「食うところなさそうだなぁビッツ」
「そうだなぁ、デルニア。とっとと食っちまおう。しね!」
「ヒイィィィ!」
「邪魔」
パルチが身をすくませ、ビッツと呼ばれた虎が彼に飛びかかった瞬間、俺は虎の後頭部を引っ掴み壁に押し付け、壁からせり出てきた丸鋸刃に飛び込んだ形になり、手を離すと頭が真っ二つになった。鮮血に染まった丸鋸刃とこぼれ落ちた脳がやつの死を物語る。
突然の出来事に施設内は静寂に包まれた。
さぁ、捕食されるのはどちらかな?




