第152話 俺、舐められる
「でよぉ……統率者はあそこにいんのか」
「あぁ、クソ……。そうだ」
巨大な城の様な建造物が遠目で視認できる。
「あの城ん中に魔王バエルがいる筈だ」
「筈だってなんだよ。正確な情報じゃねぇのかよ」
「俺は1度も見た事ねぇんだ……クソ。城からめったに出てこねぇしな」
「お前さ……さっきからうっとおしいんだが」
彼は自身の頭を両手で持ち、首に乗せようとしている。
「何回やっても無駄だって! そもそもなんで首切断されてるのに普通に喋れてんだよ!」
「うるせぇダボがぁ! 気づいたらこの状態でここにいたんだよ! お前も持ってみろ! 結構重いんだよ!」
そう言って彼は頭を俺に手渡してきた。
しかめっ面で俺の方をまっすぐ見ている。
なんかムカつくな。
俺は頭を上下に振ってみた。
「やめろボケぇ!」
「脳みそちゃんと入ってのかなぁと」
「入ってるから重てぇんだろうが!」
「あっそ。あぁそうだ、良いのがあった」
インベントリを開き、まばゆい青色に光る小さな宝石が付いた指輪を取り出し、彼の親指にはめる。
「なんだいきなり? 指輪なんて付けて」
「その指輪にはサイコモジュールっつう特殊なツールが付いててな? こいつを装備すると簡単なサイコキネシスが使える様になる」
「何言ってんだお前……」
「百聞は一見にしかずだ。ほれ投げるぞ、受け取れー」
俺はロンメルの頭を彼に向かって放り投げた。
「わー! バカバカ!」
放物線を描きロンメルの頭が躰を追い越していく。
彼の躰はメジャーリーガーさながらのダイビングキャッチを決行したが盛大に自爆を果たし、彼の躰はゴツゴツした地面に腹部を強打したのか、もんどりを打ち転げ回っている。
「フッ……」
「てめぇ笑ってんじゃあねー!」
あまりにもダサい光景を見てしまったので、つい口元が緩んでしまった。
「いや笑ってない。良かったじゃねーか。ちゃんと頭は無事だぞ」
問題の頭は地面スレスレの所で静止している。
「お……おぉ……浮いてる」
「あっそうだ。いい忘れてたけどそれ元々はロボットっていうジョブに搭載するパーツを削って指輪にはめただけだから割とすぐに落ちる」
「は?」
ロンメルの頭が地面に転がる。
「地味にいてぇ……」
「早く起きろよ。俺お前みたいに暇じゃねーんだよ。早くしねーとルシファーとはぐれちまう」
「あ? 誰とはぐれるって?」
「良いから早く起きろよ」
仰向けになったロンメルが立ち上がるのを確認し、髪を引っ掴んで手渡す。
「これずっと継続できねぇのか?」
「文句言うなよ。あるだけで有り難いと思え」
「チッ……」
しばらくロンメルについて行くと狼煙の様な白い白煙が上がっているのが目に入った。
「何だありゃ?」
「ソドムの市だ」
「ソドムの市?」
「あぁ、俺達亡者達の憩いの場ってやつだ」
またしばらく歩き、市は亡者で溢れていた。泥が混ざった様な水で躰を洗う者、例の黒い液体を一心不乱に手でかき込む者。ぶつぶつと言葉をささやきながら地面に倒れこんでいる者。大半が虚ろな目で道をゆっくりと歩いている。
これのどこが憩いの場なんだ。
「あの黒い液体がここでの唯一の食いもんだ。あれ食うと躰の痛みが消えてよ。クソ不味いんだが、不思議とまた喰いたくなるんだ」
「そりゃあお前ラリってるだけだ」
「ラリってるってなんだ?」
「なんでもねぇ。ところでいつまで歩けば城に着くんだよ」
「ここを抜ければすぐだ」
市を抜けるとまず巨大な城が確認出来る。血のように真っ赤な城だ。入り口には行く手を阻むかのように三ツ首の黒く艷やかな毛並みの犬が鎮座している。その6の眼と6つの鼻孔と3つの口腔からは蒼い焔が迸っている。
「うわーケルベロスがいんじゃん」
「お前ケルベロスの事知ってんのかよ!?」
「知ってる知ってる。あいつ超レアな魔物なんだよ。ほとんどエンカできねぇんだ。初めて見た。よし初エンカと行こう」
「正気かよ。あれはマジでやべぇんだ。大半の奴があいつの吐く鼻息一つで消し炭にされちまうんだぞ!」
「へぇ~そうなん」
「何で他人事なんだよ。マジでイカれてるぜお前!」
俺は速歩きでケルベロスの元へと急ぐ。よく見ると、ケルベロスの足元には金髪の少年が立っていた。
「我が主! ここから先が城の出入り口となります! 無知蒙昧な番犬がおりますが、我にお任せ下さい! すぐに消滅させてご覧にいれましょう!」
ケルベロスはルシファーに向かって口から3つの蒼い焔を放射するが、特に気にも止めてない様子。
「バカめ、我にその様な攻撃通じる道理があるか」
ルシファーが手を天高く舞い上げると空から鮮血に染まった大剣が降り注ぎ、地面に突き刺さった。その剣を手に持ち振り上げる。
「咎人よ。この我の洗礼を受けるがいい」
瞬歩でルシファーの懐に割って入り剣先を摘む。
「ちょっと待てよ。勝手に殺すな」
「し、しかし我が主!」
俺はインベントリからネクロノミコンを取り出す。
本が独りでにページがめくられ、声を発する。
「このモノ、ケルベロス。弱点ハなイ」
「弱点がない!? そんな魔物がいるのか……。他に何か情報は!?」
「三ツ首の煉獄狼の異名ヲ持ち……」
「んな事聞いてんじゃねぇんだが!」
「ハァ……好物はケーキである」
それだけ言うと本は閉じられ、手元から消えてしまった。
今絶対ため息ついたよね!? つーか好物がケーキて、女子か!
「……」
俺はインベントリからショートケーキを取り出す。
ケーキを取り出した瞬間ケルベロスの鼻孔がひくひくと動き、3つ顔が一気にケーキに注目ししっぽを猛烈な勢いでふりふりし、各々の口からよだれが滝の様に流れ出ている。
ちょっと効果的面過ぎません?
ケーキをわざと右に方に向けると3つの顔がそちらへ釣られるように動く。
もしかして腹減って苛ついていただけなのでは……。
「よーしポチ。ケーキ欲しいか?」
「ワン!ワンワン!」
「何か犬っぽくねぇなぁ」
「いやあれどう見ても狼だろ。つーかポチってなんだよ」
「よーしポチ投げるぞ! オラァ取ってこーい!」
俺は渾身の力を込めて遠くへケーキをぶん投げ、ケーキは地平線の彼方へ飛んでいった。
「ワン!ワン!ワン!」
ケルベロスがケーキを追って走り出そうとしたその時、巨大なゴツい無駄にトゲトゲしい首輪が炎と共に現れ、ケルベロスは首を引っ張られる形となりその場に尻もちをついた。
「何だ首輪されてんのか」
「クゥーン……」
「わかったわかった。外してやるよ」
所々が赤熱化されたぶっとい鎖が地中から6つ伸びており、鎖に直結している様だ。
「なんだこんなもん」
俺は鎖にパンチをお見舞いすると見事に鎖は砕け散った。
俺は全ての鎖を砕くとケルベロスが全力で俺の顔というか陽炎を舐めようとした瞬間、勝手に着装が解除され、俺は全身ポチの唾液まみれになった。満足したのかケルベロスは轟音を轟かせながらケーキを追いかけていった。
「フッ所詮地獄の番犬だろうと犬っころよ」
「狼の唾液で全身ぐしょ濡れでなにカッコつけてんだよ。ダボか」
「うるせぇこの脳天乖離野郎の癖に! つーかさぁアマテラス! なんで着装解除したの!?」
「申し訳あらしまへん。犬と仲良うされとったさかい。つい」
「いや、あのとりあえずプットオンしていいですか」
「へぇ」
心なしかアマテラスの笑顔が引きつっている様な。あれ? もしかして怒ってる?
'
「あのぉもしかして怒ってる?」
「さっぱりわからしまへん」
「そ、そう? じゃ、じゃあとりあえず城に入れる様になったし行こうか……。ハハハハ」
外格を再び着装した俺とロンメルとルシファーの3名は冥府の城へと歩を進めるのだった。




