第145話 俺、エルフの射撃場ヘ行く
銃声のなった地点へ向かうとそこは木の根で出来た射撃場言うべき所だった。
「お兄様彼が?」
「ああ俺のマブだ。しかし凄い光景だな。これは……」
「神様! よく来てくださいました!」
ビーディの横から例のポニーテールのエルフが顔を出し俺に近付てきた。
「えっと……名前は……」
「クリーレと……もうし……す」
ビーディが対物ライフル両手に立ったまま撃ちこんでいる。
けたたましい銃声のせいで相手の声が聞こえない。
「うるせぇ! 試し撃ちするのやめろ!」
『えーなんだって?』
「撃つのやめろってんだよ!」
ビーディは銃口を下に向け、俺の隣ヘやってきた。
あいつは浮いている状態のまま撃ってるんだよな。良くバランス崩れねぇなあれで。
『これマジヤバすぎだよ! 最高すぎる!』
「何そんなにテンション爆上げしてんだよ」
『いいから撃ってみなよ! そこら辺の銃全部好き使って良いんだって!』
吊るされてる銃器類を見るに特に変わった所は見られない。強いて言えばここにある銃器は恐らく全て実在するものばかりだ。レーザーライフル等の所謂、仮想タイプが一切存在しない。
「この銃器の数は」
「全て我々が雛形を元に作った銃です。是非撃ってみてください」
俺は数ある中から、彼女が使っていたSVDを選択。銃を手に取り軽く引っ張ると上から垂れ下がり、銃をに絡めていた木の根が、引っ込こんだ。
銃を地面に置き、伏せ撃ち姿勢を取る為自分も地面に躰を密着させる。
「大体15メートルといったところか」
スコープを覗き込み、豆粒の様に小さな標的をサイトの中心に収めるよりも気持ち上に向けて引き金を引く。
銃声と共に標的が砕け散ったのを確認する。だが、撃った瞬間強烈な違和感を躰で感じ取った。
「なんだ……? 今のは?」
『立って撃ってみなよ。一発でわかるから!』
俺は立ち上がり、再び銃を構え同じ所を狙って引き金を引く。発射された銃弾はさっきと全く同じ場所に着弾した。
そして俺が感じた違和感は確信に変わった。
「撃った時の反動が全くない……」
『ね!? ね!? ここにある銃全部そうなんだよ! マズルブレーキで抑えられてるとかじゃなくてアンチコイルが存在しないんだ』
「そんなバカな……。俺が持ってるデザートイーグルだって普通に反動はあるぞ」
俺はインベントリから自分の持つ拳銃を取り出し、正面に構える。
「ラピッドファイア」
引き金を引くと超連続で発射された銃弾と共に腕が軽く引きつりそうな程の反動が返ってくる。
俺の持っている銃は普通にリコイルが起こった。ということはこの空間が何らかの作用や特殊な条件でこうなっている訳ではないという事か。
よく見ると拳銃もぶら下がっているのが見える。その中からブラックメタリックのデザートイーグルを発見した。手に取り、マージンからカートリッジを取り出し、玉のを確認してみる。
使われているのはごく普通のマグナム弾に見える。
「特殊なのは銃の方か」
普通に構え撃つ。
やはり一切の揺れが発生せず弾が発射された。
やはりこいつもアンチリコイルか。
俺も銃の知識は持ってはいるが、正直詳しくはない。蒸気都市に戻ったら専門家に軽く聞いてみるか。
『けんちゃん相変わらず、音声認識タイプの弾丸をシルバーのデザートイーグルで使ってるんだね』
「あぁこれが1番汎用性が高いからな。素の破壊力あるし、手入れがし安い。そしてデザートイーグルはシルバーメタリック。グリップはブラックと相場が決まっている。今撃ったこいつも中々だ。アンチリコイルの件を差し引いてもしっくりくる」
『そうだけどさぁ。弾も小さいし威力も低めじゃん。やっぱ男は黙って大口径だよ』
「俺はお前とは向いてる方向というかコンセプトが違うんだよ。体内に銃弾を残す為に弾道係数抑えてナンボなの。殺すだけなら幾らでもできるだろ」
『浪漫がわかってないなぁ〜けんちゃん』
「どっちがだよ」
「あの……お兄様、そろそろ紹介して頂けると……」
あ……やべぇ、つい男の世界に入ってしまった。
「ビーディ、俺の妹のエスカ。エスカさっきも言ったけどこいつが俺のマブのビーディ」
『えっ遂に出会えたの! はえ〜すっごい大きい……。ピクチャーログでしか見た事なかったから忘れてたよ! ブレイクダウンです! 長ったらしい名前だからビーディって呼ばれてる。よろしくぅ』
「こちらこそよろしく頼む」
両者は軽く挨拶を交わした。
『いやー良かったねけんちゃん。いっつも会えないって愚痴ってたし』
「お兄様がそんな事を仰っていたのですか」
『そうだよ。もー事あるごとに自慢してきてさぁ。どう? 凄いダルルォ? 俺の理想の妹〜なんて言っちゃって――』
俺はビーディの頭をもぎ取り地面に落とし思いっきりサッカーボールキックをかました。
『マイボディーーーーーー……!!』
「おっとごめーん。つい足が滑っちゃって〜。わざとじゃないから〜」
頭をなくしたビーディの躰があたふたしだした。
ビーディは射撃場を突っ切り、自身の頭を拾い上げはめ込むと戻ってきた。
『全くまいっちゃうよね〜。親友の頭もぎ取って顔面に蹴りかました挙げ句、取ってこいって犬扱いする人は早々いないよ』
「お前が余計な事言うからだろ……。エスカ今のは――」
彼女の方を見ると両手で下半身を抑えている。
興奮で汗が垂れて肌がしっとりしているのが目に見えてわかる、明らかに目付きがヤバイ。
いかん……いかん。危ない危ない危ない。
こんな所で発情されたらたまったもんじゃないぞ。
「お……お兄様私の事をり……理想の……」
「ちょちょちょちょっと落ち着こう! な! もうそろそろ戻らないと皆も心配するし!」
『行くなら銃貰っていこうよ』
「いや勝手にそんな悪いだろう」
「神様とそのご友人に使っていただけるなんて光栄の極みです! どうぞ全てお持ちください!」
「全部!? いやいや流石にそれは……」
『じゃあ、遠慮なく』
そう言って彼はありったけのライフルを自分のインベントリヘしまった。
じゃあ俺もこれ貰っておくか。
手にしたエルフ製のデザートイーグルをインベントリへしまう。
「しかし何故エルフである君たちが銃なんて作ってるんだ?」
「それですか……。遥か昔、機械人がここへやってきてホスゲン様や我らの先祖に銃の作り方を指南し、しばらくこの土地へ滞在した後東の方へ旅立っていったそうです」
ロボットが銃の作成方法をエルフ達に伝えたのか……。
目的がわからん。ただの興味本位だったのか……? それとも……。
そもそもここへ来る前のあのバリアはなんだったんだ? あれもその機械人が伝えたものなのか?
「お、お兄様……躰が……熱い……」
あっやべぇ、こんな事考えてる場合じゃねぇ! どうにか彼女を沈めなければ!
「だ、大丈夫です……! 下着が……その……」
絶対大丈夫じゃないよぉ。目ン玉ハートマークになっちゃってるもん。
そこからエスカをなだめるのにむちゃくちゃ苦労したのは言うまでもない。




