第14話 俺、vs勇者
しまったぁッー! ウトウトして、つい寝ちまってる内に勇者来ちゃったッー!
目の前には肩まで伸びた金髪。左右のもみあげ辺りの髪なんて胸の辺りまである。目はルビーの様に紅く輝いている様だ。つーか、まつ毛なっが! まるで女の子の様な……いや完全に女の子の顔をした少女? 少年? どちらかよくわからんが無駄に装飾された派手な剣を俺に向けている。
服装は比較的オーソドックスと言っていい、薄い緑色のチュニックに革のズボンを着用している様だ。同じく革製の小綺麗なマントが目に入った。よく手入れされている様に見える。
「さぁ! 僕と勝負だ! 人々の為に! 僕は貴様を倒す!」
声もたっけーなオイ。これ絶対女子だよ。まずいなぁ。俺は女の子殴る趣味ねぇんだよ。
ずり足でこれまた小綺麗な黒い色の革製ブーツを地面に擦りつける様にジリジリと距離を詰める勇者。
「待て! 落ち着け! 俺は悪魔じゃない! そいつならもう俺が倒した! ちょっと色々あって疲れてて、寝てただけなんだ!」
「見え透いた嘘を! その全身真っ黒な姿! 何より椅子に座っているのが何よりの証拠!」
「いや、俺の話を聞けってッ!」
「問答無用!」
訂正しようとしていた所で、勇者が飛びかかってきた。
飛び上がり唐竹割を俺にお見舞いするつもりらしい……らしいが、その攻撃速度は余りにも遅く、人差し指1つで余裕のガードが出来てしまう
うっわ! 弱ッ!
「チッ! やるな! 悪魔め!」
勇者は俺に対し剣を振り続けているが、そのどれもがただ単に振っているだけであり、今も人差し指で延々と受け止め続けている。
「ハァハァ、こ…こうなったら、奥の手をつかうしかない」
マジか。もう力尽きちゃったか。
「くらえ! 必殺! ファイヤーブラスト!」
勇者は剣を収めると魔法を俺に放ってきたが、その様な魔法はない。
恐らく火の初級魔法スキルであるファイヤーボールと 、同じく風の初級魔法スキルであるウインドブラスターの重ね技か。
しょっぱいなぁ。
勢い良く飛び出した火の塊が俺に着弾する。
「どうだ!? 悪魔め! これでひとたまりもあるまい!」
「はぁ~、発想だけは良かったが、他はダメダメだな。仕方がない」
俺は椅子から立ち上がり、そのまま一瞬で勇者の眼前に迫ると額にデコピンをかました。
「ギャンッ!」
癇癪を起こした猫の様な声を勇者が上げると、そのまま白目を向いてぶっ倒れた。
「ギャンって何だよ、モ○ルスーツかよ……」
「滑稽ですね」
恐らくこの世界では、俺しか理解できないツッコミを言うと、同時にずっと黙っていたネメシスが口を開いた。
「も〜、何もしてないのにどっと疲れた。さてと、ベローアに帰るか」
俺は気絶している勇者を担ぎ上げると、そのまま廃鉱山を全速力で駆け上がる。
廃鉱山を出た所でネメシスが口を開く。
「ゲイン様、その粗大ゴミをどうするおつもりなのでしょうか? そのまま道端に廃棄する事を推薦します」
ネメシスは悪魔扱いされた事に相当怒っている様だ。
「そんな訳にはいかないっしょ。一応、勇者だからね? お前ネメシスって名前なのに悪魔呼ばわりされるの嫌いなんだな」
「悪魔呼ばわりされて嬉しがる女性などいないと思うのですが?」
ネメシスの目のハイライトが消え、半目になっていく。
ヤバイ。踏まなくていい虎の尾を踏んでしまった。
「いや、違うんです。ネメシスさん落ちついて。君自身の事を侮辱した訳じゃないんです。君の様に有能かつ、可憐なAIはそうはいませんよ。君にはとっても感謝しているんです。俺1人じゃやっていけないから。君ありきのヤルダバオトⅧ式って所あるから。他のAIじゃこうはいきませんよ。うん。いきませんとも」
「嬉しくありません」
そう言っている彼女の顔は紅潮しきっている。ニヤつくのをかみ殺そうとしているのか、なんとも言えない表情を見せる。伏し目がちにし、チラチラと俺と地面を高速で交互に見ている。
「フ、フフ……仕方ありませんね。元々特に気にしてはいません」
遂に我慢の限界を超えたのか、ネメシスは紅潮しニヤつきながらの気にしてない宣言が飛び出た。
本人はこれニヤついてないって体なんだろなぁ。これで弄るとまた電気ビリビリ放ってくるから黙っとこ。さっきまでレイプ眼寸前だったのにこの変わりようよ。
根は素直なんだよ。優秀なのに感情表現下手っぴなのよなぁ。そこが可愛くはあるんだけど。
煽ると不機嫌になるから言いたくても言えないのがちょっともどかしい。
これ以外に特にトラブルもなく、ベローアへと戻ってきた俺はギルドヘ直行する。
「あ、ゲインさん! おかえりなさい! って勇者様!? 何故、ゲインさんが勇者様を担いでいるんです!? 一体、廃鉱山で何が!?」
「うん。えっとその……色々ありまして、とりあえずベッドとかってあります?」
「2階に空き部屋があります! こっちです!」
ウェンディさんが2階の空き部屋へと案内してくれる。
「ありがとうございます。後は俺一人で大丈夫です」
俺は気絶している勇者をベッドへ寝かせる。
「うーん、こうやって至近距離で顔を見るとマジで女の子にしか見えん。まさか――」
「いえ、ゲイン様が彼にデコピンを当てた際、指に付着したDNAを検査済みです。彼は正真正銘男性です」
「マジか」
「マジです」
「髪長いけど、左右の何ていうのかな……? こめかみ辺りの毛なんてむちゃくちゃ長いぞ」
「男です」
「この顔とこの声で?」
「所謂、男の娘というジャンルでしょう」
「ジャンルて、しかし何故こんな所に勇者がいるんだ……。これもうわかんねぇな」
どういう事なのか、俺は男の娘勇者のまだあどけない寝顔を見ながらひとり考えていた。




