第136話 俺、帝に挨拶する
俺達の姿を見て叫び、逃げ惑う帝国の人々を尻目に見ながら道を進む。
帝国は王都と比べても引けを取らない位には栄えている様に見える。まぁ子供は泣き、大人達は叫び声をあげ、兵士達は無念にも血溜まりに沈んでいるが。
『皆スッゲービビリっぷりだねー』
「まぁ、事情知らん奴から見たら突如として現れたエイリアンと鬼のコンビが次々店を襲い、店内の人々を惨殺しながら歩き回ってる訳だからな」
『なんかC級のスプラッタ映画にありそう』
「わかるわー。絶対低予算だわー」
『つまらなそうで草』
「配給会社見つからなくてお蔵入りしそう」
周りの阿鼻叫喚の地獄を無視しバカ話に花を咲かせながら、俺達は帝国の城の前ヘ着いた。
城は緑色の膜に覆われている。どうやらバリアを貼っている様だ。
『邪魔くさいなー』
ビーディはグレネードが装着されたアサルトライフルをインベントリから取り出し、バリアに向けて数発放つとバリアは消え去り、矢継ぎ早に閉じられた城門に向かってグレネードをお見舞いし爆発と共に門には大きな穴が開いた。
『おっ開いてんじゃーん!』
「お前が開けたんだよなぁ……」
門を潜り中に入ると、眼の前にある巨大な階段の前には幾人もの魔術師を先頭に大きな盾を構えた重装歩兵がフォーメーションを組み、俺達を待ち構えていた。
バカかこいつら?
こんな大勢で出張ってガード固めたら一発で居場所わかっちゃうだろうが。
魔術師達が呪文を唱え、あらゆる属性の球体我俺達めがけ飛来してくる。
俺はそれを一切ガードせず甘んじて受け入れる。痛みはほぼなかった。
尻目でビーディを確認するが彼も同じ様だ。
魔術師達がたじろぎ、狼狽えているのがわかった。
「じゃ、つぎは――」
『――俺達のターン♡』
彼は引き続き黒光りしたアサルトライフルを構えばら撒く様に乱射し魔術師達は次々蜂の巣になっていき、重装歩兵達はグレネードの爆発でその身を飛散させられていく。
俺も彼に追従する形で銀色のデザートイーグルを取り出し、重装歩兵のバイザーに空いている隙間めがけ引き金を引いていく。
30秒後――地に足を着けているのは俺だけとなった。
『なんだ張りあいないなー。全然クソザコナメクジじゃん』
「おっそうだな」
俺は階段を登ろうと死体を踏み越え、階段に一段登ったところで何やら足に違和感を覚えた。どうやら運良く生き残りがいたようだ。彼は血だらけの手で俺の足に掴みかかっている。
「か……閣下……の元へは……」
俺は銃を兵士に向ける。
「離せ」
俺は足に掛けられた手を振り払い離れたのを確認し、再び階段を登り始める。
『ねぇ、とどめ刺さなかったの?』
「あの出血量じゃ保って2分てところだろうし、何より弾の無駄だ」
『もーけんちゃんって変なところで慎重だよなー。大体の奴は自分のキルレートを上げる為の数字としか思ってない癖にさー』
「言うに事欠いてよく言うな。お前が遊び過ぎなんだよ」
『だって俺血見ないと満足できないもん。当たり前だろぉ? しかしボロ雑巾になっても向かってくるなんてやるじゃーん』
確かに彼の言う通りだ。相当な覚悟と忠義心がなければああいう行動にはでないだろう。帝国の民達もそれなりに裕福に見えた。帝としての器は相当らしい。
階段を登りきり、左右から兵士達がなだれ込む。
「左やるわ」
『じゃ、俺右ぃー』
右手に銃を構え、左手にも新たにレーザー円月輪を取り出しフリスビーの要領で軽く兵士達の方へ放る。俺から離れたチャクラムは光を放ち、独りでに動き兵士達を両断していく。
チャクラムの標的とならなかった兵士は、俺自身が鉛玉を脳天へプレゼントし事なきを得た。
俺が左手を広げるとチャクラムは俺の元へと戻ってきた。
後ろではビーディが高らかに笑い声を上げながらミニガンの強烈な炸裂音と薬莢が絨毯に落ちる音が聞こえ、しばらくすると静かになった。
『あー楽しかった』
大体80人ってところか。かなり巨大な城だ。襲ってくる兵士の数があまりにも少ない。恐らく帝を護る事に重点を置いているのだろう。
「アマテラス、この城の生体反応をサーチしろ」
「ちょい待っとぉくれやす」
画面上に赤い斑点が色濃く点滅し、とある一画のみその数が極端に多い。
「おいこっちだ。道なりに進んで3番目の扉奥」
『へーい』
俺達は左ヘ進みお目当ての扉を開き、最奥にある大きめの扉を開けると大勢の色とりどり、個性豊かな兵士達や、大臣であろう裁判官が被る白いロールケーキが6個連なったかの様なかつらを着けローブを羽織った人物。そして中央の宝飾が成された椅子に座る子供が1人。
あどけない顔立ち、深緑のショートカットヘアーに首に似つかわしくない黄金の首飾りをしており、上は白いシャツに下は黒の短パン足にはサンダルの様な何かを着用という出で立ち。自身の身の丈の3倍はあろう黒いマントを付けている。
背丈は恐らくエルよりは高いといった程度140から145といったところか。
「不届き者め! 我ら帝国親衛隊が直々に相手を――」
「めんどくせえなぁー。ビーディこいつらサイコキネシスで1発でやれないの?」
『もちろんできるよ。パーンってしましてねアタマが――』
「バッカ! お前な、子供が見てんだぞ! トラウマ植え付けてどうすんだよ! 武器を壊せ!」
『えーヤダよつまんないもん』
この場にいる兵士達の手足が一斉にあらぬ方向へ曲がり、その場に倒れる。唸り声をあげてはいるが誰一人として叫ぶ者はいなかった。
「大した胆力だな。突然手足がへし折れたら俺だってビビる」
『なんだよ。つまんね~の〜』
俺は狼狽え、震えている大臣達を無視し、小さな帝ヘ軽く頭を下げる。
「余はクレジェン・プルイスト=カルセル3世である。お前達は何者か」
「俺ですか、俺は正義の味方1号と申します。閣下。本日はある件についてどうしても聞きたいことがあった為参りました。」
『俺2号でーす、どもども』
「中々面白い者達だ。申してみよ」
なんだ意外と話がわかるガキだな。それに何故か楽しそうだ。足バタつかせてるし。
「ハイ、実は私達はドワーフの使いでして……先日、ドワーフから贈られてきた物がございますでしょ?」
「ドワーフ……? なんの事だ? 余は聞いておらんが?」
何? このガキ何も知らされていないのか? あぁ、所謂お飾りってやつか。憐れだな。
「そうであらせられましたか。では政治や内政なんかは?」
「うむ、そういうよくわからんのは――」
「なりませんぞ閣下! この様な下郎共の事などと話しては! 大体何なのだ貴様等は! 突然やってきて兵士を殺し、あまつさえ閣下に大した無礼であろう」
バカ発見伝。こういう時声を荒げる奴大体黒幕説ー。
「良いではないかジュヴェルニア。兵士などいつでも補充すればよい」
ハイ閣下からのキラーパスを楽々キャッチ。それとなんかこの子俺にちょっと似てて親近感湧く。
「あ、実はジュヴェルニアって人探してたんですよー、ちょっとお借りできませんか?」
「うむ、良いぞ持っていくが良い」
「へ、陛下!? だ、誰かこいつ等を始末しろ! い、いいのか私がいなくなったらこの国は滅びるぞ! それでも良いのかぁ! こんな右も左も分からないクソガキに何ができる! ハッしまった!!」
大臣達は目を伏せ、誰一人口を開こうとはしない。
閣下はというとバカにされたのを理解したのか顔がどんどん赤くなっていく。
「余はバカじゃない! ふん! お前なぞいらん! 余の眼の前から消えろ!」
「くっ! 確なるうえは!」
ジュヴェルニアらしき大臣はローブから白い霧の様な物が入っている水晶を取り出し、地面に思いっきり叩きつけた。
「フフフハーッハハハハ! 貴様等はもうおしまいだ! 私の酒池肉林の夢を阻まれてなるものか! ハハハハハ! 皆死ねば良いのだ!」
何だこいつ気でも触れたのか。
『うるさいおっさんだなぁ。いいからこっち来いよ』
笑っていたおっさんの躰が浮き上がり、ビーディの前まで吹っ飛ぶと彼はローブをひっつかみ、引きずりながら退出した。
「じゃあ貰っていきますけど生死は問わない感じでオケすか?」
『うむ、あんな奴もういらん。好きにして良いぞ。よきにはからえ』
「あ、そうだ。最後に1つ良いですか?」
「うむ?」
「まともな大臣見つけてまともな産業作ってまともな国になってくださいね」
「ん? どういう事だ?」
「頑張って下さいって事です」
「おぉ、うむ! 余に任せておけ!」
俺達は来た道を戻り、城を出て帝国の入口付近まで戻る。そこで見た光景は暗雲に光指す白き巨大天使が現世に降臨した姿だった――。




