第134話 俺、ビーディと共に奴隷の店へ
『つーかさ、これって何かのイベント? 他のプレイヤーとか全然見なかったんだけど』
は? いきなりこいつは何を言い出してるんだ? まさかこいつ気付いてない?
「あのさ、このイベントが起きる前喋る球体に会ったと思うんだけど何色だった?」
『白くてうっとおしい口調のミラーボールだったけど?』
「あ~白い方ね。了解。異世界にようこそ〜的な事言ってただろ?」
『うん、言ってた』
「あれマジだから。ハガセンのイベントとかじゃないから」
『……え? は? マジで異世界なん? じゃあ俺もリアルで死んでんの? 聞いたところによると、760時間ぶっ続けてVRにいた結果エコノミー症候群にかかってそのままお陀仏って聞いたんだけど。マジならすっげぇ滑稽じゃない? 飯行かない用に点滴刺した上に尿道と尻にカテーテル入れてて、下半身丸出しなんだけど』
なんてこった。こいつ今の今までゲームのイベントだと思っていたのか。嫌それにしてもプレイ環境ヤバすぎだろ。
「それは色々な意味でエグいな……。というかログインする度にいるからどうやって飯食ってるのかなとたまに思ってたけどお前かなりストロングスタイルだったんだ」
『え、その位普通でしょ?』
「いやー俺はフルダイブ方式でやってたから……」
『さらっと金持ちアピールきたね〜。つーかいたなら何でチャットに反応くれなかったの?』
「え?」
『え?』
「あー、それはこの世界ヘ来てすぐに全部フレンド枠消去しちゃった」
『は? 意味不明なんだけど』
「いや……ほら……その……落とし前付けようと思って」
『えぇ……それなかったらもっと早く会えてたって事?』
「言っても俺つい最近来たんだぞ!」
『あぁ、そうなんだ』
「思い出話は一旦やめだ。もうそろそろ地上に出るぞ」
黒一色に染まっていたモニターが緑色に変化したのを確認。
『ゲイン様、地上にでやした。2キロ先に帝国の入口がありやすぜ』
「ご苦労さん」
俺はハッチを開け戦車から抜け出し地上へ降り立つ。続いてビーディが浮き上がり、そのまま俺のそばに降り立った。
こいつ地面スレスレを浮いたままだが、普通に歩いたりできないんだったか?
『あー無理。これが俺にとってのニュートラルだから。ちなみにブースターなくても4メートル位浮くことができるよ』
「察してくれてサンキュー」
『構わんよ』
「『うい〜』」
握りこぶしを突き出し、いつものサインをする。
彼はサインの終わりに拳を一回転させる。これがなければ、彼だと断定する事は難しかっただろう。そういえば、武器屋のドワーフが何か言ってたな。
『よし、じゃあ行こうか』
「なぁお前蒸気都市で何買ってたんだ?」
『あー半分ロボットの獣人……いや、鳥人? とか他数名が何かよくわからない部品買い込んでた。で、隙をみて手を置いてったんだよ』
「鳥人!? 半分ロボットってどういった感じだった?」
『けんちゃんなら知ってると思うけど、大昔やってた特撮の起人ロボティクスに出てきた機械人みたいな感じ』
「あぁ〜、人間を縦に真っ二つにして片方だけ機械で出来てるって事か」
彼は俺の返答に軽く頷く。
「マジか。超イカしてるじゃん。ハガセンプレイヤーじゃなかったのか」
『マジヤバのサイコパス野郎共だよ。ああいうのはとっとと殺したほうがいい』
「お前が言うと説得力ある。何人位いるんだ?」
『キチ○イは自分の事キチ○イだとは思わないからね。しょうがないね。人数は3人位いたかなぁ。鳥と狼とスライム。全員人語を喋ってたよ』
1体ではない? 組織化されているのか。と言うことは首魁がいると思っていたほうが良さそうだな。しかし鳥に狼にスライムだと。まんま特撮の敵キャラみたいだな。
「フフ……」
『なに笑ってんの?』
「いや別に。生かしておくメリットは?」
『ないね。見つけたら問答無用で処理でいいよ』
……スライムね。
王城で化け物と化したロンメルを倒した時出てきたあいつ……あれがそのスライムなのか?
「だな。よし奴隷商人を全員半殺ししに行こうぜ」
『楽しみ』
俺は彼と共に帝国に向かって歩き出した。歩いているのは俺だけだが。
『そういえば何でいつものじゃなくてバイオアーマーなんて着てんの?』
「よくわからん。この大陸に来てから色々な不具合が発生してさ。外格が使えなくなったりホームが起動しなくなったり、全く踏んだり蹴ったりだ。唯一着装可能だったのが陽炎のみだった」
『あぁ、あれってイベントとかじゃなかったんだ。俺もオートエイムが効かなかったなぁ』
「戦ったのか。いつの話?」
『10年位前だよ。紫の外格と戦ったんだけどめちゃくちゃ強くてあっという間に鹵獲されちゃってさ。躰中いじくり回された挙げ句に売り飛ばされたんだよ? ひどいよなぁ。けんちゃんはどうなの?』
「映像ログとか残ってねぇの?」
『ん〜どうだろ。サルベージすればあるかも』
「ふーん、まぁやる事やってからにしようや。どうせ時間はたっぷりあるわけだし」
そんなこんなで帝国へ着いた。
何故わかったか。入口のすぐそばに檻に入れられ足枷を嵌めたエルフがいたからだ。
服はズタボロのボロ絹を着せられ、あばら骨がくっきり確認できるほどやせ細っており金色の髪は色あせてしまっている。虚ろな表情でこちらを見ている。
「ご主人様……。望まれる事なんでも致します。靴を舐めて綺麗に致します。数は20まで数えられます。処女ではありませんが、夜のご奉仕には自信があります」
『これは……なんともはや』
「気が変わった。ビーディやりたい様にやっていいぞ」
『マ? じゃあ、そうさせてもらおうかな』
「ただし、女は殺すなよ」
『うっわ、まだその病気直ってないんだ』
「うるせぇ」
俺は店のドアを開ける。中は手狭だが男性客でいっぱいだ。
カウンター席から恰幅の良い角刈りの男性が目の前にやってきた。
「い、いらっしゃいませ……お客様……」
「今何故口籠った?」
「は? うぎっ!?」
俺は店主の首根っこを押さえ、そのまま持ち上げた。
「お前俺たちの成りを見て一瞬客達の方を見ただろ? あ? 人を見た目で判断するのかてめぇは?」
「決して……その様な……」
「ビーディ、好きにして良いぞ」
『マジぃ? じゃチェーンガン使っちゃお♡。歯ぁ食いしばれ! 俺がお前達ゴミカス共をオーバーホールしてやる!』
爆裂音と閃光が迸り、やがて店内から聞こえるのは檻の中のエルフ達の怯える声のみとなった。
「ここでこんな事をしてただで済むと思っているのか!?」
「こんな事ってどんな事だ? エルフをさらってきて銭儲けする事は良い事なのか? あぁ!? おいゴラァ!! 舐めたこと言ってんじゃねーぞクソが!!」
首を掴んでいた手を離し、頭を引っ掴み勢いそのままカウンターテーブルめがけてデブの頭をダンクシュート。
『ふぅぅ、気持ちいぃ〜。やっぱ銃って最高だよなぁ。人をぶっ殺す為だけに生まれてきたって感じ。洗練されたデザインと機能美の調和が堪らない。鼻孔をくすぐる血と薬莢の匂い! 目が覚めるわ〜』
「お前ロボットなんだから鼻ないだろ。首尾は?」
『大丈夫だよ。ちゃんとターゲットだけ処理したから』
「よし少しすっきりしたし、この店と外にいるエルフ全員解放しようや」
俺たちは檻を破壊し、店内の全エルフ達を一旦救出。外へ出たのだった。




