第132話 俺、開戦準備をする
俺はドワーフに付いていき部屋を出る。外は中と違い、外は普通に立てるどころか、かなりの高さを誇っている。
俺が今しがた出てきた建物を見やると、どうやら巨大な岩をくり抜き、そこに部屋を作りドアを取り付けたものの様だ。
「なんと大胆な……」
「さ、行きやしょう神様」
周りのドワーフ達は岩を削ったり、ハンマーの手入れや魔法を用いてミニサイズのゴーレムを錬成し、作った武具等を運ばせているのが目に入る。
ハガセンのドワーフと言えば、単純! 脳筋! 力こそパワー! 恐れを知らない肉体言語野郎の集まりってイメージなんだが、この世界のドワーフはそういった印象を受けない。
「なぁ、ちょっと聞きたいんだけどお前達は戦ったりはしないのか。俺の知ってるドワーフは酒と戦いが3度の飯より好きって感じなんだけど」
「そりゃあ200年前に存在していたオールド・ドワーフって種族ですぜ。俺達は戦闘能力を捨て、魔法と鉱物や宝石、武具なんかの加工や作成に重きを置いた新しい種族なんでさ」
なるほどなぁ。ハガセンでは設計図を手に入れて、自分で武具の作成とか宝石の加工なんかをやるからなぁ。そら、脳筋になるわなぁ。
こんな所にも時代の流れというか進化の系譜みたいなのが根付いてるんだなぁ。
「御大将はオールド・ドワーフの生き残りなんですぜ。何でも蒸気都市では闘技場で長らく頭張ってたらしいんですがね、ある日化け物との勝負で大怪我負っちまったらしく、そのまま引退して生まれ故郷を捨てて、1人で穴掘ってこの谷まで辿り着いたでさ」。
「え!? あのドワーフって蒸気都市の出身なの?」
「へぇ、そう聞いておりやす。おまけに他の大陸で武器屋まで始めちゃうってんだ。素晴らしい御仁でさ。ハッ!? す、すいやせん神様を前におらぁなんて不敬な」
そう言ってドワーフは俺に向かって土下座しだした。
いやいやいや、待て待て。どこに不敬なポイントなんてあった? 全然わからん。オールド・ドワーフ凄いって言ってただけじゃねーか。
「大丈夫! 無問題だから! 顔を上げてホラ!」
「不敬な態度をとったにも関わらず、寛大な御心……。まさに神様だぁ」
えぇ……、どうしてこうなった。
「立ち上がって、そろそろ行かないと!」
「神様のいう通りだぁ。こっちでさ!」
立ち上がった彼の後に続き谷の出入り口ヘ出た。
下を見るとざっと見て標高2000メートルはあるだろうか。谷というのは名ばかりで、その実岩で出来た雪化粧の城と言ったほうが正しいだろう。
「案内ご苦労さん。あとは俺1人で大丈夫だ。ドワーフの皆に脱出路の確保と、守備を固めろと言っておいてくれ」
「神様、ご武運を!」
「おう、任せとけ」
ドワーフは小走りで谷の中へと戻っていった。
俺はジャンプし、背中のブースターを起動させ、麓まで急降下し着地。後ろへ方向転換し手を翳す。
「絶対守護領域羅生門発動」
谷の周りに黄色い魔法陣が発生し、朽ち果てた木造の楼閣が谷を取り囲む様に出現した。
「絶対守護領域羅生門は防御魔法の中で最強の防御率を誇る。たとえ水爆が至近距離で爆発しようが中のドワーフ達は揺れすら感じないだろう」
北東へ向かってを進める。蒸気都市と違い、ブリザード等の異常気象の類いは起こっておらず、1面白銀の世界が広がっている。しばらく北東方向ヘ歩き続け後ろを向き、麓の茶色い岩肌が豆粒の様に見える位にには遠くまで来た。
俺は右手で腿を叩き、外格内に収納された歯車の入ったケースを取り出し、左手の手のひらに全ての歯車を乗せ、渾身の力で上空に勢い良く放り投げた。
「全パワードギア起動!!」
戦車や戦闘機、重火器を搭載した車やバイク、大型のスーパーロボットや小型のリアルロボット等が照らし合わせたかのように、俺の後ろへ次々と落下し見事に各兵装、車両毎に並んでいる。そして最後に俺のそばに幾つもの勲章を付けた軍服を羽織り、白い軍帽片手で抑えながら金髪碧眼の眼鏡っ娘が着地した。
「バトルコマンダー・チーフアイネ参上いたしました。ゲイン元帥殿!」
白いシャツに深緑のスラックスパンツを着用し、黒いハイヒールを履いている。
あれぇ!? 俺のバトルコマンダーって大正浪漫的なデザインで全身が常時セピア色の旧日本軍将校バージョンの筈!? 何で眼鏡っ娘アイネ司令官になってんの!?
「チーフ、1つ聞きたい。前回の戦争時の前任者は誰だ?」
「サーイエッサー! 蜜柑の妖精元帥殿でありますサー!」
へぇッ!? 蜜柑の妖精さん!? え? 意味がわからん! 何故ギルドメンバーだった彼女のバトルコマンダーが俺のケースの中に!? そもそも俺のバトルコマンダーは?
あぁ……思い出した。そういえば1度だけ皆のバトルコマンダーをランダムにトレードしたんだったか。
もうこうなったら眼鏡っ娘アイネ司令官でいくしかない。この娘何か言う度にサーイエッサーって頭に付けるからすこぶるテンポが悪いんだよなぁ。
「……チーフ、先ずはコマンダーマップを生成し、次に偵察機を飛ばす準備を」
「サーイエッサー! バトルコマンダーベースを建築いたしますか?」
「いや、必要ない。コマンダーマップのみをここに生成し、次に偵察機を飛ばした後、タイムアクセラレートを起動させろ」
「サーイエッサー! マップ生成開始!」
俺の前にこの付近一帯の詳細なデータが映し出され、随時更新されていく。
「よし、12時の方向ヘ偵察機を飛ばすぞ。ホワイトクォーツここへ」
白いカラーリングの偵察機が人型ヘ変形し俺とチーフの前まで来ると跪いた。センサーは盾を模しており左手に持ち、刺突剣を模した機首を右手に持っている。その風貌はアギス朝のスパルタ重装歩兵を思わせる。
『いつもの様に戦略偵察でしょうか?』
「いや、水爆や原子爆弾を使用するつもりではいるが、一般人を手に掛けるつもりはない」
『任務了解。では、戦術偵察を行います』
天高く飛び上がると、戦闘機ヘ変形し飛び去っていった。
「よし、お前達全員良く聞け! 今から俺は戦争という名の虐殺を行う。異論ある者は申し出ろ」
パワードギア達は一切動かず、誰一人喋らない。
そりゃあそうだ。んな事はわかりきっている。
「お前達は兵器だ! 敵を撃滅しろ! 兵士だろうが悪魔だろうが神だろうが一切の慈悲は無用だ! ロボットと特撮。そしてエルフを蔑ろにする奴は俺が許さん! 仕事を請け負ったからには完遂する! 全機、朝日が登ると同時に地平線から敵がやってる。視認後全ての武装の制限を解除し、迎撃態勢へと移れ。さぁ久々の戦争だ! ヨハネの黙示録が白紙に戻るレベルの地獄を見せてやれ!」
さてと、後は待つだけか。
指を鳴らすと地響きが大きくなり、地中から巨大な戦車が現れた。そのままハッチを開け、中に入り席に座る。
『ゲインのアニキ! すげぇ久々じゃあねぇか。戦争か?』
「よう、砂嵐。まぁそうなんだけど、トランスミッター付いてんのお前だけだからさぁ」
『あぁそっか。いつもみたいにメタルか?』
「いや、今回は気分を変えて違うのでいく。ヒューマンチェストの爆心地を最大音量で再生しろ」
『へい了解』
凶暴なブロステップがバックグラウンドミュージックとして白銀の世界に鳴り響いた。




