第130話 俺、アルジャ・岩本の隠された特性を知る
『ちょっと待ってよ。 偶然の一致である可能性も十分ある。そもそも君の友人だと100%言い切れる根拠は?』
『手の塗装が剥げるほど俺とハンドサインをしまくって、青い塗装を施していたロボットは3人しかいない。そして大体の奴は気になって暫くすると塗装し直すが、それを面倒くさがって放置していたのは俺のマブダチだけだ』
『わかったよ。じゃあ、フレンドコード頂戴』
『いいぞ。あっ――』
『何、どうしたの?』
『俺がアーサー達と出会った時に前世とけじめ付ける為にフレンド枠全部消去したんだった』
『えー、じゃあ無理だよ』
『なんとかならんのか? あっいい事思いついた! 確かぁこのアームに刻まれた無駄にイキったデザインの十字架はマッドネス級装備の賢者エルレイシリーズだ。このシリーズはセンサー感度を好きなように弄れるのが特徴だったはず』
『見た目はいい感じにかっこ良くて僕は嫌いじゃないよ。でも、マッドネス装備の癖にえらく塩っぱい効果なんだね』
『何いってんだよ。エルレイシリーズは各パーツにサイコモジュールを組み込んで、サイコキネシスを始めとするキネシス戦法が軸なんだぞ。その威力はセンサーの感度を弄ることによって強弱を決めれるんだ。まぁ今あるアームだけじゃ意味ないけどな。マッドネス級の武具は複数同じシリーズである程度統一しないと、強力なパッシブスキルを発動できねぇから。マッドネス一個だったらレジェンダリーで固めた方がまだ無難だ』
俺はチャットに写し出されている握りこぶし状態にあるアームの手をひらく。手のひらの中心には緑色の宝石が埋め込まれているのが確認できる。
『あったぞ。あとはあれに魔力を限界流し込み、最大出力で起動させればいい。感知できたらそこに俺が特攻仕掛ければ良いだけの簡単なお仕事だ』
『あの〜1ついいかな』
『なにせっかく人がテンション上げてるのに』
『そのアームにセンサー感度があって、つまりはその周波数帯域に向かうって話だよね。足らなかったらどうするの?』
『は?』
『だから、君のセンサーで捉えられなかったらどうするのって話。向こうがいくら強くてもこちらで捉える事ができなかったらそれでお終いだよ?』
『え、そういうルールっつーか法則みたいなのがあんの?』
『当たり前だろ? 虫取りに行こうってんじゃないんだから。まぁまずは試してみよっか。ここで話してても仕方ないし』
そう彼が言うと一方的にチャットは終了した。
「じゃあ外行こうか」
「お、おう……。ちょっと待て外格外すわ。例のアレ使ったばっかだしもしもの事があると行けないから」
「え!? あれを使ったの!? この中の中で!?」
「んな訳ねーだろ! あいつが何か暴走してたから助ける為にやむを得ず使ったんだよ! 少量だから問題はない。温度も今は下がってるから大丈夫だ」
ベットで寝ているリンヘ向かって思いっきり指を指す。
「え、暴走って何があったんだい?」
「いや、あいつがさ炎の魔神みたいになってたから助けたんだよ。前にもタコの足みたいなのが背中から生えてた事があったわ。何か知らんうちにコウモリの羽生やしたねずみ色のタコ的なマスコットがいてさ」
「――それは隠し師匠の1体だね。ハガセンには隠し要素が幾つも盛り込まれてる。彼女はとても運がいい」
「え、あれ師匠やったんか。でも、おかしくねぇ? 弟子入りできるのは1人1体で掛け持ちなんてできないはずだが」
「あれは複数で1体の扱いなんだと思うよ。隠し要素に関しては僕も把握しきれていないからね。プログラマー達のお遊びみたいなものだし。ちなみに僕が作ったものじゃないよ」
「いくつもの技を覚えられるって事? めっちゃ汎用性高いやん」
「そんな事よりも、その外格脱いで行こうよ。色々心配だから」
「ハイハイわかったよ」
外格を脱いでから俺とアルジャ・岩本は部屋を出ると階段を降り、そのまま外に出た。
「ちょっとロボットのアーム貸してくれる?」
「あぁ、ほいよ」
インベントリからアームを取り出し、アルジャ・岩本の方に放り投げる。
「重っ――」
彼の手からツルリとアームが滑り落ち、足に直撃したアームはミシミシと音を立てながら地面にめり込んだ。
「大丈夫か!? いや、パッと見どう考えても足が潰れてる!」
「まいったねこれは」
「いや、どんだけあっけらかんとしてるんだよ! 無痛性かお前!?」
「ちょっと待ってよ。よいしょっと」
引きずり出された彼の足は見事にぺちゃんこになっていた。
足の形したせんべいですって言われたら速攻で信じるレベルでぺしゃんこだよこれ。
しかし不思議だ。彼は痛む素振りを見せないどころか、足自体に外傷や出血が一切見られない。
「まぁこの位だったらすぐ治せるから問題ないよ」
彼の足首辺りの関節から銀色の細い触手が2本出てくると、水色のレーザーを足首に照射。潰れた足とすぐに分断され、銀色の液体が足の形になり褐色の肌が形成された。
「言ってなかったけ? 僕は躰の8割をサイオーグメンテーション化させてあるんだよ」
「お前サイオーグ人間だったのか!?」
「そうだよ。僕の裏の職業は知ってるだろ? 色々ヤバい連中とも関わってきたから自己防衛策としての施した――言わば保険だね」
「はぇ~すごいカッコイイ……」
「そんなにいいもんじゃないよこれ。形成するのだいぶ疲れるし。生まれたての赤ん坊並みにデリケートなんだよ」
「ほーん。サイオーグ化って確か法律違反じゃなかったか?」
「バリバリのイリーガルだよ。当たり前だろ? まぁどうでもいいじゃん。それよりも――」
そう言えばこいつ会ってからずっと裸足なんだよ。サイオーグだから裸足でも平気でダート歩いていたのか。
彼が腰をかがめ指先から光を照射。何やら作業を開始し暫くしてアームに埋められたサイコモジュールを取り出し俺に向かって放り投げた。俺はそれをキャッチする。
「そのサイコモジュールは君のフレンドの物だ。であれば――これを持って周波数帯域に入れば何かしらの反応を得ることができると思う」
そうして引き続き彼は作業を進め、やがて立ち上がった。
「今このアームのセンサーをサイコモジュールに組み込んで、ついでに感度と出力の上限を取っ払っておいたよ。何かわかるかい?」
画面上のマップが一定のリズムで乱れが生じていた。そしてそれはアームの発光と一致している。
「恐らく北西の辺りか。ちょっと行ってくるわ」
俺が行動を起こそうとしたその時、突如として俺の周りに魔法陣が発生。俺は半透明のクリスタルの中に閉じ込められた。
「何だこれは?」
思いっきりクリスタルを殴りつけるも傷一つ付かない。
陽炎の攻撃力ではこのクリスタルを破壊できないか。
「これは……」
「ゲイン君!? 大丈夫かい!?」
「あぁ、大丈夫だ」
「若けぇの久々だな。ちょっと俺の言うとおりにしてくれねぇか」
声のした方を見るといつかの馬車に乗せてくれた商談の親びんと呼ばれるドワーフがそこにいた。
「親びん!」
「お前に親びんと呼ばれる筋合いねぇ! んな事よりも今から俺の故郷に連れていく。問答無用でわるいがな」
「今からか? 今立て込んでるんだが」
「もう遅いぜ。そのクリスタルは特別な魔法障壁で出来てる。解除できるのは谷にいるお頭だけだ」
「なになに? 俺をどうしようっての?」
「悪いな。お頭本人から話をきいてくれや」
クリスタルが揺れると徐々に地面に埋まっていく。
「――って訳で、何か拉致られるっぽいからあとは頼んだ」
「えっ? いやいやいや、僕1人じゃ無理だよ! サイオーグ化してるって言ってもこの世界のスキルとか持ってないし、攻撃力とかないに等しいんだから!」
「そうなの!? 口からミサイルとか出せるんじゃないの!?」
「そうなの! 僕の事何だとおもってたんだよぉぉぉ!」
「サイオーグだるるぉぉぉ!?」
そうして俺は土の中へと飲まれていった。




