第128話 俺、黒猫に連れられ地下闘技場に行く
細い管にコインの投入口がついた物体をしげしげと見つめる。
どう見ても料金メーターだよなこれ。
「さ、兄貴! これを入れるにゃ!」
「お、おう」
パルチは金色のコインを1枚俺に手渡してきた。それを受け取りそのまま投入すると、ポータルの宝石に光が灯った。
「行くにゃ」
俺は彼と共にポータルに触れ、辺りの景色が一変したのを確認。
全体的に暗く、そしてジメジメした印象を受ける。
「ここは……」
「ここが俺っちのホームグランド、アンダーだにゃ!」
アンダーってそのまんまじゃねえか。
「グランドパレスってのはどこにあるんだ?」
「ここから少し歩く必要があるにゃ。案内するにゃ」
「ははぁ……」
パルチの後をついて歩くと、しばらくして大きな通りに出た。そこら中獣人だからで人間の姿は確認できない。
まじで人間が一人もいない。これは悪目立ちするな。
「おっと悪い」
「あぁん? どこ見て歩いてんだよ? この虫やろうが」
「あ? んだとコラ。文句あんのか?」
「あ、兄貴! ここで闘っちゃ駄目だにゃ! やるんだったらグランドパレスで……」
突っかかってきたのは馬面の男……もとい馬の男だ。
「俺にぶつかっておいて、謝りもしないとは許せん! 蹴り殺してくれる!」
「チッ……面倒くせぇな。早く来いよ」
馬は地面を脚で蹴り、俺に向かって急接近し飛び蹴りを繰り出してきた。
飛び蹴りか。安直な攻撃だ。速さこそあれリーチがない。
「おーっと危ない」
俺は半歩横にズレ、楽々回避。
後ろにいた野次馬の獣人に激突した様だ。
「よくもやりやがったなぁ!」
「てめぇが避けないからだろうが!」
馬が甲冑を着込んだ獣人と取っ組み合いを始め、それをきっかけに周りの獣人が喧嘩を始めた。
なるほど、ここがどういう所なのかわかりかけてきた。
「行くぞ」
「あ、兄貴――うわ!」
俺はパルチの拾い上げ、そのままそこを後にした。
「でさ、結局どこな訳よ」
「もうすぐだにゃ」
周りを見ると土塊でできた建造物が増えてきた。
「あれだにゃ!」
「おいおいこれマジ? 悪い冗談だろう……」
「マジだにゃ! あれがグランドパレスだにゃ!」
「ありゃ……ありゃシークレットベースじゃねえか!」
「シークレットベース? 違うにゃ! グランドパレスだにゃ!」
「元はそういう名前だったんだよ!」
管に覆われてはいるが、壁に大きく描かれたJ=20の文字。あれは正義サーバーの20番目と言う意味合いの番号だ。
小走りで近づき、出入口に備えつけられたコンソールに触ると、壁が斜めに亀裂が入り、機械音と共に壁がなくなり入口が出現した。
「やっぱ間違いねぇ! ここはヒーローのロビー! つー事は!」
「あ、兄貴! ちょっと待って欲しいにゃ!」
内部の構造はどうやら然程変わっていない様に見える。何故シークレットベースがここにあるんだ!?
「地下闘技場グランドパレスだぁ? ふざけやがって!」
「兄貴……あれが闘技場入口だにゃ」
「あそこは……」
「兄貴グランドパレスを知らにゃいんじゃにゃかったのかにゃ?」
「俺が知ってるのはここの構造だ! 一時期だが、ここにいた事がある! こんな管だらけの気色悪くなる前のな! 闘技場はどこだ!」
「え、えっと右の通路を行った先だにゃ!」
「右の通路だと? なるほどな。確かにお誂え向きだ。ドームが闘技場とはな!」
「ドームって何だにゃ?」
「ヒーローが呼び出す事のできる巨大ロボットの整備工場だの呼称だ。もういい行くぞ」
勝手知ったる通路を通り、ドームへ向う。
コンソールに手を当て、扉が開くと同時に歓声が耳に届いた!
《突如として現れた人族の3人組み! しかし仲間の1人がなんとモンスターへと変身を遂げ、周りの選手を燃やし尽くしてしまったーッ! 一体どうなっているのかーッ!?》
錆びたクレーンやボロボロに朽ちたロボット達がそこかしこに放置され、獣人達が腰を降ろす。ドームの中央では紫の炎に包まれた人を模した何かが、聖女のナイトメアによって束縛されているのが見える。そしてアーサーはトライデントを発動させ、聖女を守っているようだ。
俺はあいつらの間にめがけて跳躍し着地する。
「お前等一体何やってるんだ!」
「師匠さま!? お願いします! リンさんを止めて下さい!」
「リン……だと? あの炎の化け物がリンだって言うのか!?」
間近で見てわかった。紫の炎を纏いながらも、女性的なフォルムが見てとれる。顔は溶岩から這い出てきた様な化け物にしか見えないが、その溶岩が途切れる際、あの特徴的なハート型のマスクを確認する事ができる。
「急に呪文喋り出してあの姿になったと思ったら、周りの獣人さん達が燃えだして消えちゃったんです!」
燃えだして……消えた? 蒸発したということか。
画面上のインジケーターの数値がどんどん上がっている。まずい。このままだとあれが起きる。
あの姿は恐らく……だったらやる事は1つ。早くケリを着けなければ、例外なく皆あの世行きだ。
「じゃじゃ馬! あとどの位束縛できる!?」
「クソが! あと5分で魔力が切れちまうぞ!」
「それだけありゃ十分だ! 俺が合図したら束縛を解除しろ! アーサー! お前は俺と同時にエンディミオンのレーザーをあいつに当てるんだ!」
「で、でもリンさんが!」
「良いから俺の言う通りにしろ! 殺すつもりなんぞ最初からない!」
「わ、わかりました!」
俺はインベントリから、レーザーライフルを取り出し、そのまま構える。
「着氷弾!」
トリガーを引き、銃口から薄蒼色のレーザーが発射され、即座に当たった部分が凍り付く。
「今だ! 束縛を解け!」
彼女を束縛していた赤い骸骨達が魔法陣と共に消え去るのを確認し発射を継続。レーザーが彼女の躰を凍らせていく。
炎の化身となった彼女が、とても人間の声とは思えない金切り声を上げながらもがき苦しんでいる。
前にもこいつはタコの化け物みたいなマスコットを召喚した事があったが、あれと今回のは間違いなく関係があるとみて良いだろう。
今はとにかくこいつを一刻も早く凍らせなければならない。
アーサーもエンディミオンのビームで彼女の躰攻撃を続ける。
「いいか、アーサー! 絶対にやめるな! 動きが止まるまでそのまま当て続けろ!」
「ハ、ハイ」
着氷弾とエンディミオンのビームにより、徐々に動きが鈍くなり、やがて完全に動きが止まった。
「よし、お前達は離れていろ」
『どないするん?』
「そりゃあリンを助け出すんだよ」
ライフルを構えたまま、氷漬けとなったリンに近づき躰に触れたその時、目が見開き、2つに分裂した瞳孔が俺を捉えた。
「気に入らねぇ目つきだ。しかし逆に安心したぞ? 俺を睨む元気はある様で何よりだ」
「……せ……んぱ……」
「アマテラス、良いか。ほんの少しだけアヌンナキを覚醒させろ。ランダム設定から任意効果ヘ変更の後、右手の培養液から放出」
『ほんまにダーリンは仲間思いのええ子やなあ。自分も死ぬかもしれへんのに』
「い、良いからやれ!」
右手が熱を持つのが感覚でわかる。
俺はレーザーライフルをインベントリヘしまい、手の甲から鈍く光を発する右手をそのまま氷漬けとなったのか彼女の肩にのせるオレンジ色の液体が氷に付着し内部に浸透していき、やがて全体に広がった瞬間、氷がひび割れ音を立てて崩れていきリンが俺の肩に倒れ込んできた為、受け止める。
「なんスか先輩……セクハラッスよ。NTRのエロドージン……ッスか」
「うっさいアホ」
そして彼女はそのまま気絶した。




