第116話 俺、過去を語る
「俺の事が知りたい? 何のメリットもないぞ?」
「良いのよ。暇つぶしだから」
さて、どうする。下手な事言うと怪しまれるし、かと言って真実を行った場合黒い神に察知されるんじゃないか? いや、待てよ? これは逆に奴を釣るいい機会なのでは? パーティメンバー全員いた場合、やっかいだが最悪こいつ1人なら確実に助けられる自信がある。
「ちょっとタバコ吸わせろ」
俺は親指と人差し指くっつけ離すと、インベントリが現れたのを確認。お気に入りのタブをタップしタバコを選択。右手の人差し指と中指の間に白い小さな棒状の巻きたばこが顕現する。
俺はタバコを口に持っていき、次にミニマムファイヤを無詠唱で詠唱し中指をタバコに軽く押し当てると、チリチリという音と友に白い煙が出た為、吸い上げ、一気に煙を口と鼻から放出させる。なんとも言えない幸福感に一瞬包まれるがすぐに我へと還る。
「あぁ〜飯食ったあとのタバコはべぇな。うん、ッべぇわ」
「早く話しなさいよ」
「そう急かすな。昔々ある所におじーさんとおばーさんがいました。じーさんは山に芝刈りにばーさんは川に洗濯に行きました。ババァが川の畔で洗濯をしていると上流からクッソでかい桃が流れてきました。クソババァはそれを見た瞬間、バイブス上がった感じでシャウトをカマしながら桃を蹴り上げ、超絶技巧によるマジぱねぇ手刀を繰り出し、中にいた子供を取り上げ、洗濯していたカゴの中にシュートを決め、子供の名前を桃太郎と名付け――」
「おい待て。モモタロって誰だよ。私はあんたの過去話せつってんだよ。ボケ」
「しまった。つい本筋に戻ってしまった」
「てめぇ調子こいてんじゃねぇぞ。一瞬桃から生まれたのかと思ってわくわくしちゃったじゃないの」
今の話でわくわくできるのか。すげぇなこいつ。
「わかったわかった。話せば良いんだろ。俺の誕生にはな、ある1人の男が関係してる。そいつの存在が今の俺を作った。と言っても過言ではない」
俺は口に咥えたタバコをもう一度吸い、軽く吹き出す。
「そいつは魔法の変わりに科学っていうこことは全く別のベクトルの進化をした国で産まれた」
「魔法の変わり? でも勿論行使できるんでしょ?」
「いいや、生きとし生けるもの全てが魔法を行使する事ができない。その男も例外ではなかった」
「どういう事よそれ。だってあんたはできてるじゃない」
「まぁ、聞けや。そんな世界で産まれた男の世界にはな、長年の研究の結果ある進化を人類に促した。リモートサイバネティックスディメンション通称、R.S.Dと呼称された技術だ。脳内の電気信号をある領域まで自由に拡張できるようにする為の技術。これのおかげで年中無休、どこに居ようが何をしようが好きな時にある種のエネルギーを得る事が可能になった。ありとあらゆる文化、技術が飛躍的に進歩したんだ。そんなある時、男はもう一人自分を作るという計画を立てた。膨大な時間と金。そして仲間達との邂逅を得て、作り出されたのが俺だ」
「……じゃあ何? あんたはその……ある男によって作られた存在だって言うの? そんなのあり得ない! 人間が人間を作るなんて神への冒涜じゃない! その男はそれからどうしたのよ!」
「死んだ」
「え?」
「だから死んだんだよ。あっけなくな。一瞬であの世行き」
「そう……悲しいわね」
タバコを足元に捨て、消火する為に踏みつける。
「仕方ない。魔法があれば生き返らせる事も出来たんだろうが。そうだ、お前のわがまま聞いてやったんだから次は俺の願いを聞いてくれ」
「良いわよ。何?」
「お前の能力を使わせてくれ」
セリーニアは一瞬俺の目を見るとすぐに目線を外し、俯いた。
「じゃ、始めましょ。ここでいいわよね」
そう言うと彼女はパンツに手をかけ、脱ぎだした。
「何パンツ脱ぎだしてんだよ!」
「は? するんでしょ? 良いわよ1発くらい。そんじょそこらの男なら30秒あればイカせられるから」
「違うわ! そっちの能力じゃねぇよ!」
「は? あぁハイエリクサーの事――」
「じゃない! そっち関係の能力じゃなくてだな!」
「あ〜、予知の事? 多分無理よ。だってあの豚の所であんたの事予知した時満月だったもの」
なんとなく予想してたがやっぱ条件付きか。
「満月じゃないとお前の予知は発動できないんだな?」
「そうよ。あの能力は強力だけど制約が多いのよ」
「満月以外にもまだあるのか?」
「えぇ、まず大前提で満月の夜である事、そして私が泣かなきゃいけないのよ」
「泣く? お前が? 想像できん」
セリーニアは大きくため息を吐き、白髪の髪をかき上げる。
「今考えるとわざと私にストレスをかけたのね。泣かないと予知は発動できないもの。チンカスクソ豚野郎が」
泣く必要があるだと? やべぇよやべぇよ……。俺絶対無理だよぉ。
「そうか……泣く必要が……そっかぁ」
俺がどうしようか考えていると彼女が椅子から立ち上がる。
「もう寝るわ。おやすみなさい」
「あぁ……おやすみ」
セリーニアはそう言うと食堂から出ていった。
どうしよう。泣かせる必要があるなんて思わないだろ常考。
「もう俺ももどるか」
1人になった食堂を出て、自室へと戻りドアを閉める。
「おい魔王! 出てこい!」
部屋の中央に青い炎が現れ、ニヤついた魔王が顕現する。
「どうだ? 久方ぶりの食料は美味だったであろう? よく食べていたな。 お前の歓喜の声が我の耳にも届いたぞ。フフフ……」
「んなこたぁ今は良いんだよ! この目どうしてくれんだ?! あぁん!?」
「完璧に融合している。何が不満なのだ?」
「悪目立ちしてしょうがねぇ!」
「そんな事か。気にするな。そのうち慣れる。そんな事より全て読みきってしまった。飽いたぞ。おい、これはどうやって使うのだ?」
魔王が興味を示したのは、大賢者から貰ったポータブルBDプレイヤーと機動猟兵メウロスのブルーレイボックスだった。
「それをどうやって!? インベントリの中に突っ込んでそのままの筈!?」
「フフフ……。我とお前は今一心同体だ。お前のインベントリなる、隔離空間の回廊を繋げる事など我には児戯に等しい。そして使い方も既にわかっている」
そう言うと魔王はボックスの中からパッケージを取り出し指を引っ掛け、中のディスクを取り出し、プレイヤーの挿入口にディスクを入れた。黒い画面が青い画面に変わり、プレイと書かれた画面をタップしメロウスの無駄に熱いBGMが流れ出した。
「お前知らねぇんじゃなかったのかよ」
「もう一度言う。我は貴様と一心同体だ。教授させるつもりがないならそれでも構わぬ。貴様の脳から直接知識を得るまでの事。貴様が得た知識はそのまま我のものにもなり得る。おぉ、これが主人公機か。フフフ……またしばらく楽しめそうだ」
「俺はもう寝る!」
そのままベッドでふて寝する。
精神的に疲れていたのか、それとも満腹だったからなのか。俺の意識はすぐに夢の中へ誘われていった。
★★★
仄暗い地下、特殊な電磁フィールドの中に緑色の仮面を着けた漆黒のスライムが幽閉されていた。
「飽キましタねぇ」
彼が独り言をポツリとつぶやくと、上空から羽根がグルーヴの側に落ち、鷹の躰と機械の躰を持ったモンスターが超高速で下降し華麗に片脚で着地する。彼、オルタナは羽から風を巻き起こし自由に空を飛び、全てを引き裂き吹き飛ばす風を無限に精製できる。彼はテンペストイーグルというモンスターとロボットのデュアルである。機械化された左半身の羽からは微弱な風が吹き出ている。機械化の影響で数段鋭く進化した左足の爪に囚われているのは、片腕のみが機械化されたティメリント。
彼はエルメンテとの戦闘の後、オルタナの手によって拉致され、実験と言う名の腕の改造手術を受けさせられた。この腕は大気をマナに変換し躰に突き刺さっているオルタナの足の爪から彼の魔力へと変換される。ティメリントはさながら彼の生体マナコンバータと化している。
件の影響で運動機能と言語能力の大半を失う事となった彼が今何を考え、何を見ているのか、それは誰にもわからない。
「やぁ、グルーヴ。まだ君そんな所にいるんだ。律儀だねー」
「今度ウソつキますと、八つ裂きにスると言われマシたので……」
「そっかー、実はちょっと僕もちょくちょく外に出ててさー。面白いゲームが始まりそうなんだー。ニヘヘ、いいでしょー」
「ゲームとハ?」
「戦争だよー。帝国に馬鹿な人間がいてさー。そいつに僕が試しに作ったロボあげて、反応見てたら調子ノッちゃってさー。世界征服するんだってー。ほんと馬鹿だよねーニヘヘ。僕が作った超大型ロボットエンジェルヘイローが誰かにぶっ壊されちゃってさー。マジムカつくよー。だから憂さ晴らししないとやってらんないーって感じぃ?」
黙って聞いていたグルーヴの首が僅かに痙攣した。
「壊さレタ? 貴方のロボットがデスか? ソんな事があり得ルのデスか?」
「そうなんだよー。びっくりだよねー」
「実は私のモルモットもいきなり反応が消失したのデス。これには何カ因果関係がアルに違いありマせん。気ヲ付けてクださい」
「マジぃ? うん、わかった気をつけるよ。サンキュー。よーし行くぞ、ウンコ」
室内に突風が吹き荒れると、オルタナの姿がかき消え、数本の鋼で出来ている羽根が残されたのをグルーヴは見つめるのだった。




