第113話 俺、新しい剣を授ける
「わ……私の剣が……お兄様から頂いた宝物が――」
エスカは両手で剣を抱きかかえ、その場にへたり込んでしまった。
俺はすぐまさジャンプしエスカの側へ降り立つ。
「大事ないか?」
「申し訳ございません! 私が未熟であったばかりに!」
「良いんだ。ノイズのアイン・ソフ・オウルでカースドブラッドが発動した。あのスキルは自らの闇の力を召喚者の血液に変換し物質を崩壊させる血を作り出す。お前はその能力の事を知らなかった。それだけだ」
「し、しかし……」
「それにニーベルングスレイヤはもう十分にお前の役にたった。新しい武器をお前にやる」
「新しい武器ですか!? 私に!?」
「あぁ、幾つか候補を見せるから、その中から選ぶといい」
俺は簡易武器用インベントリを起動させ、ボックス内にある2つの剣を取り出す。
一方の剣は鞘に入っておらず、何の変哲もない剣だ。柄が黒く握り込める様に銃のグリップの様な形状をしている。
もう一方は蒼い鞘に収まった剣だ。宝飾がなされており、露出している鞘は実に見栄えがいい。
「さて、じゃあまずこの何の変哲もなさそうな剣から行くか。アーサー悪んだけどこの剣持っててくれるか」
「ハイ! わかりました!」
アーサーに鞘に収まった剣を預け、抜身の剣を構える。
「アルジャ・岩本。ドッペルゲンガー君起動して貰えねぇか!」
「いいよー! ステータスは適当でいいかい? 動作はなし?」
「あぁ! それで頼む!」
倒れていたドッペルゲンガー君が立ち上がり、木人のままファイティングポーズをとる。
「この剣はこんな感じで使う」
脚に力を込め、ドッペルゲンガー君の懐ヘ入り、何度か適当に切り刻んで切り上げ上空へと吹っ飛ばす。
宙を舞う木人を確認したら、切り上げのモーションで起こったディレイをキャンセルし、即座に剣の柄に力を込める。
すると柄のグリップ部分が斜めに変形し、刀身の真ん中からバレルが出現した。
バレルが出現したと同時にオレンジ色のレーザーが放たれ着弾し、ドッペルゲンガー君は爆散する。
「うん。まぁ、こんなもんだろう」
「今のは……」
「これが1つ目のオススメ武器。ガンブレードエンディミオンだ。こいつなら遠距離と近距離を瞬時に切り替えられる。優れもんだぞ?」
「私に扱えるでしょうか?」
「そこは慣れだな。何とも言えん」
エスカは少し迷った様な素振りを見せる。
「もう1つの方を見てから決めようかと思います」
「道理だな。アーサー、こっちと交換」
「ハイ!」
アーサーに預けていた剣とガンブレードエンディミオンを交換する。
「こいつはなぁ」
鞘から剣を取り出す。
「刀身に刃が付いて――いませんね」
「あぁ、一見そう見えるかもしれんが、こいつは魔力をほんの少し剣に流してやると――」
蒼い刀身から緑色の刃が出現した。
「更にはこいつはだな!」
俺が振りかぶると刀身がいくつかに別れレーザー状の刃が鎖となり、刀身を繫止める。伸びていくレーザー状の刃がコロッセオの壁を削り斬っていき、刀身が元に戻るとレーザーの刃は消えてなくなる。
「こ、これはニーベルングスレイヤと同じ!?」
「同じではない。あちらはただのガリアンソードだったがこいつはレーザーガリアンソードだ。おまけにこいつは魔剣だ。こいつの射程距離は無限大だぞ。前のとは訳が違う。名をアストラルスレイヤ。ニーベルングスレイヤの最終進化形態と言っていい剣だ」
「これがいいです!」
「長い事ニーベルングスレイヤに頼っていたからな。こいつの方が良いかもな。ほれ」
アストラルスレイヤを鞘に収め、エスカの方へ放る。
「え、あ! あの前の剣なんですが!」
「あぁ、もう必要ないだろ」
「い、いえあの……その……できれば手元に置いて置きたいのですが!」
「え? 何で?」
「どうしてもその……お願いします!」
エスカは跪き、動かなくなった。
「わかったわかった。元々お前のもんだ。好きにすればいい。だから立て。な?」
「はい! ありがとうございます! より一層の努力を誓います!」
「お、おう。期待してるぞ? よし、アーサーもう大丈……夫」
アーサーに預けた剣を貰おうと手を伸ばすと、何故かアーサーが後ずさりし距離が開く。
えっと、あのちょっとアーサー君?
「ぼくも……しぃです……」
「え、なに? 何て?」
「僕もお師匠さまから新しい剣欲しいです!!」
アーサーは顔を真っ赤にし剣を握って離さない。
「え、お前も剣欲しくなっちゃったの?」
「この剣が欲しいです」
「良いよ別に。欲しいならお前にやるよ」
「ほ、本当ですか!?」
「でも、お前は既に魔剣キクリヒメの慟哭を所持してる。言っとくがガンブレードエンディミオンは片手で扱える様な代物じゃないぞ。ダンガンと一緒に使えば2丁拳銃的な扱い方も俺ならできるが、お前の今の腕力でそれは不可能だろうな。あとその剣はかなり隙がデカくなる。扱い安く見えてそいつはかなりの暴れもんだぞ」
いや、待てよ。こいつならあれ覚えられるんじゃないか? ものは試しだな。
「――じゃけん、アーサーには居残りを命じる。一緒に上手く使う為の特訓しましょうね」
「ハイ! お願いします!」
「まぁ、結論を言うと色々雑な戦いだった。まぁ最初から上手く動ける奴なんてそうはいねぇからな。場数を踏んで慣れて行く様に! 終わり! 閉廷! アーサー以外自分の部屋に戻って寝ろ! あ、アルジャ・岩本も残って」
「え〜、戻る気満々だったのに〜」
「っせぇオラァ! お前しかドッペルゲンガー君設定出来ねぇだろうが!」
「今日はこれで最後にしておくれよ?」
「良いからほらドッペルゲンガー君出すんだよ。おう、あくしろよ」
「ハイハイ。わかったよ」
俺とアーサー。そしてアルジャ・岩本だけがコロッセオに残るのだった。




