第11話 俺、同郷の人とお話する
「あんたがイシスさん?」
「そうよ。ってあんた……その格好まさか!? フルメタラー!?」
「お! 正解! 皆俺の事騎士扱いするんだよね。もう参っちゃってさ~」
「はやく! 家に来て! ここじゃダメ!」
イシスさんは俺がフルメタラーと知ると急に焦りだし、俺の手を掴むと走り出した。
「何だ? 急にどうした?」
「良いから! こっちに来て早く入って!」
ぱっと見何もないが、どうやら認識阻害系のスキルがとても広範囲渡ってかけられているのがわかる。
「はぁ、とりあえずこれで安心ね。長かったわ。ようやく私以外のハガセンプレイヤーに出会えた」
「ああ、やっぱそうなんだ。で? なんでそんなに焦ってるわけ?」
「あいつに少しでも話を聞かせない為よ」
「あいつ?」
「神を名乗る球体よ。貴方もあいつから転生させて貰ったんでしょ?」
「そうだけど? あんたもそうなの?」
「ええそうよ。生前の私は体が弱くてね。満足に動ける体じゃなかったの。ハガセンの中だけが私の庭だったの。で、ある日医療ミスで私死んじゃったんだけど、例のあいつがハガセンのデータを媒体にして、生き返らせてくれるって言ったのよ」
「俺の時とほぼ一緒だ……。どういう事なんだ?」
「あいつは私達を閉じ込めて、反応を楽しんでるのよ」
「なん……だって?」
俺の思考は、停止寸前だった。
「私には当時、仲の良い友達が1人いたわ。私は彼女に異世界から転生してきたって伝えたの。そしたら、次の日どうなったと思う?」
「さぁな、どうなったんだ?」
「この世から彼女の存在自体が、なくなってたわ」
「な……」
「良い? 誰にもこの事言っちゃあダメよ」
「ヴァルガスはお前が急に発狂したと言っていたが?」
「あそこから離れる為に、わざと狂ったフリをしたのよ。いつか必ず私に飽きて、同じ様な存在に目を付けると思ってたわ」
「それが俺って事か……」
「ヴァルキュリアを彼処に立たせたのもわざとよ。元ハガセンプレイヤーなら、分からない筈ないもの。それに……私のヴァルキュリアは弱くはないわ。ヴァルキュリアの攻撃に対応してくる人を、ずっと待ってたの! 20年間ずっと耐えて待ってた! ようやく会えた元ハガセンプレイヤーがあなたの様な規格外に強い人で、本当に良かった!」
相当嬉しいのか、イシスさんは俺の手を両手で掴んでいる。
「なんとなく事態は飲み込めた、結局どうしたいんだよ?」
「良い? この世界に特殊ジョブを持つ住人は、今の所あたしとあなたの2人だけよ。というか、ここの住人は派生する為のジョブそのものを知らないの」
「――そういえば戦士や魔術師はいるが、ヒーローやロボットは一度も見なかった」
「でしょ? 逆に言えば、特殊ジョブの人間=転生させられて来られた人って事よ」
「なるほど、で結局どうすんだ? 保護でもするのか?」
「元ハガセンプレイヤーを集めて、あの自称神様を倒すのよ。あいつは、私の大切な親友を殺したも同然。絶対許さないわ」
「はぁ?」
俺の思考は、遂に停止した。
「そんな事して俺に何のメリットがあるんだよ。あんたの復讐に俺を巻き込むなよ」
「バカね、あたしの話聞いてなかったの? あんたはもう手遅れよ」
「何を言って――ま、まさか……」
「そのまさかよ」
こいつ俺を巻き込む為にわざと話やがったな……。
「冗談だろ?」
「信じられないと言うのなら、今日泊まると良いわ。暗くなるし、せっかくだから夕飯と寝床提供するわよ」
そうしてしばらくハガセン時代の話に花を咲かせつつ、夕飯をご馳走になりあっという間に夜の帳が下りる時間となった。
俺は床に枕を置き布団を被った。
「何でベットで寝ないのよ」
「男の俺がベットで寝て、女のイシスさんが床で寝るっておかしいだろ」
「ふーん、あんた口は汚いけど結構優しいところあるのね」
「俺はフェミニストだからな」
「何それギャグ?」
「いやマジだ」
「ふーん、じゃおやすみ黒いのに会ったら文句の1つでも言っておいて」
「そういや、イシスさんあんた自身はどうなん……」
上体をお越し、彼女のベッドを見ると既に寝息を立てていた。
「んだよ。寝ちまったのか……」
しばらくボーッと天井を見ていると、一滴の黒い水滴が俺の顔すれすれのところで落ちてきた。
なんだ雨漏りか?
尻目で確認するとその黒く濁った水滴から触手の様なものが出てきていた。
こいつがッ!
布団から飛び起きた瞬間周りの景色がぐわりと歪み、全ての空間が黒い液体で覆われていく。
液体が徐々に集まっていき黒い球体を形作る。
「なにもんだてめぇ!」
黒く球体は触手を俺に向かって伸ばしてくる。
外格を顕現させようとしたが反応がない。
「なに!? ヤルダバオトⅧ式が出せない!?」
ヤバイ、よくわからんがヤバすぎる状況だ。不意に足が動かなくなった。
「!?」
見ると足元にあの触手が絡みつき、俺の躰を地中に引きずり込もうとしていた。
「ク、クソが!」
為す術もなく俺の躰はどんどん埋まっていき、遂に目の前が真っ暗になった。
死ぬのか……。こんなところで……。まだ何も成していないというのに。
ざけんなよ。俺は無神論者でリアリストなんだよ。こんな所でよぉ、死んでたまるかってんだよ。
壊す。全て壊してやる。神だろうが悪魔だろうが、立ちはだかる壁は全てぶっ壊す。
漆黒の暗闇の中で、一筋の光明を感じた。目を見開き、光指す先を見据え右手を翳す。
独りでに口が動いたと思った瞬間黒い球体がバラバラに砕け散り、空間も元に戻っていく。
なんだったんだ……今のは一体?
精神的に疲労したのか、突如として強烈な睡魔に襲われそのまま気を失った。
4/21 イシスの台詞を追加




