第105話 俺、聖女と仲直りする
セリーニアを抱きかかえ、今俺は夜の帳が下りたダンジョン入り口前の広場の上空で静止していた。
「よし、広場に着いたぞ」
「ちょっと待って、入り口前で降ろしなさい」
「何だションベンか?」
「ちげーよ。良いから降ろせ」
「はいよ」
入り口までゆっくり着地しすると彼女は俺から半歩離れ、何やらブツブツ言い出した。
「えっと、なぁ、その……うぁー! もう!」
真っ白な頭を両手で掻き乱したかと思うと俺を睨みつける。
「なんだよ? あっ、やっぱりションベンがしたいのか。いや大きい方――」
「ちげーよ! その話題から離れろ! クッソ! 良いか1回しか言わねぇからよく聞け! スゥーッハァ……」
セリーニアは大きくため息をつき俺の元へと歩を進めたかと思うと、顔を伏せ俺の右手を両手で掴み出した。
「色々言って悪かった。ゴキブリとか言って……。あんたのおかげで……アー君に会えた訳だし。その……感謝……してる。――私を救い出してくれてありがとう――」
彼女の表情は屈託のない少女そのものだった。
不覚にも可愛いと思ってしまった。
「お、おう! 超余裕!」
やべ、呆気にとられてイミフな返答してしまった。
「んだよそれ。意味わかんねぇ」
「何が余裕なのじゃ? あ~あ、よく寝たのじゃ〜」
脳裏にイザナミの青白い顔が浮かび上がった。
「お、イザナミ起きたか。じゃ、名残惜しいがしばしの別れと行くか」
「そうか、ここでのお前様のやりたい事は終わったんじゃな」
「ああ。そういう事だ」
「イザナミを暗闇から救い出してくれたが、お前様はもう一人救い出したのじゃなぁ。それでこそイザナミのマスター流石じゃ」
イザナミのにこやかな笑顔が脳裏に浮かぶ。
「こっ恥ずかしい事言いやがって。そんなんじゃねぇよ」
「謙遜する必要はないのに、お前様も素直じゃないの」
「言ってろ。――じゃあなイザナミ。ご苦労だった」
俺はからアジュラスⅦ式の外格が液状になり、そのまま地中へ消えていった。
「で、どうするの?」
「もう遅い、飯食って風呂入って寝ろ」
「ご飯? どこで食べるのよ?」
「俺が飯作ってやる」
「は? あんたが料理? 風呂は?」
「エントランスに青い暖簾と赤い暖簾があっただろうが赤いほうが女風呂だ。間違えて男風呂入ったりすんなよ。そうだ、お前新しい服やる。今から一緒に地下の宝物庫行って適当な服見繕ってもらえ」
「よくわかんないけどわかった……」
俺とセリーニアは広場に入り、例の少年の隣のテントに身を軽くかがめはいっていき、インベントリから鍵を取り出し回すと白い扉が現れ眩い光に包まれるとエントランスに立っていた
「あ、お帰りッス先輩。外格装着してないなんて珍しいッスね」
「おう、ただいま。大きなお世話だよ。飯にするから皆をエントランスに集めといてくれ」
「了解ッス。アーサーきゅーん!」
リンはアーサーの部屋に突撃していった。
「てめぇ! アー君に触れたらマジぶっ飛ばすからな!」
「あーハイハイ、お前は俺と来るの」
俺はキャンキャン叫んでいるセリーニアを連れて階段を降り地下へと進む。暫く降り続け金色に輝く巨大な扉が目の前に現れた。
「なにこの扉」
「宝物庫だよ」
『この扉の前に立つ者は誰ぞ?』
「扉が喋べ――!?」
相当驚いたのかセリーニアの声が裏返っている。
「ウォホン!」
俺は右手の人差し指を立てくるくる回す。
『――あのすいません。やはりゲイン様と言えどルールはルールですので――』
「知ってた。どうせ無理なんだろうなって思ってたわ」
『では僭越ながら――ゲインの飯は?』
「クソ不味い」
俺がそう言うと徐に扉が開いていく。
ちくしょう俺が何したっていうんだ。
放心状態のセリーニアの背中を押すと、奥から2足歩行の亀が近づいてきた。
「おうタートル久々。こいつに似合う服を見繕ってやってくれ」
「ゲイン様お久しゅうございます。もちろん誠心誠意お手伝いさせて頂きます。さぁ、こちらへどうぞ」
「ここの亀に付いていけばいいの?」
「そうだ。面倒な事は全部タートルがやってくれる。女ってのは服がどうのこうのってのは時間食うからな。おれは一緒には行かね。自分が気に入った衣服がありゃ勝手に着ていいぞ。お前にやる」
「女性物の衣服や装備、とりわけヒーラータイプでしたらシリーズやタイプ、季節限定のイベント物等、考慮致しまして、おおよそ467億着程ございますが、如何致しますか?」
「は? い、今なんて?」
俺は踵を返し階段へと向かう。
「じゃ、頑張って自分に合いそうな服見つけてくれや。あ、言い忘れたけどもし宝物庫の中でタートルとはぐれたらたぶん一生外には出られないと思ったほうがいい。覚悟決めろ?」
「ちょちょっと待て! 私一人でそんなに膨大な数捌けるわけない! お前面倒くさくなっただけだろ!」
「だから言ったじゃねーか。困ったらタートルに頼め。全部こいつがやってくれる。ここで待っといてやるよ」
「では、参りましょう。足元に気をつけてお進み下さい」
「クソッタレが……わかったわよ……」
タートルにエスコートされながらセリーニアは宝物庫の奥へと消えていった。




