第101話 俺、スゲー奴と出会う
「体力∞だと……冗談じゃねぇ……。こんなことが出来る奴がこの扉の奥に……」
何の変哲もない木製の扉にオーディーンが手を掛け、ゆっくりとドアが空いた。
「さぁ、待たせるでないぞ。我が主はこの中だ」
「よし……行くか」
俺が歩を進めようと一歩前に出たその時、肩を誰かに掴まれた。
後ろを振り返ると、聖女が俺の肩を思いっきり掴んで離さない。
「ゴキブリ……やっぱり帰りましょう」
「は? 意味わからん。何でここまで来て帰らなきゃいかんのだ?」
「そのなんていうか……一度入ったら出られない気が……」
「嫌だね。俺は気になる事は解決せな気が済まん性格なんでな。出られなくなる訳ねーだろ。ほら、行くぞ」
「わいのよ……」
「何?」
「怖いのよ! 何かよくわかんないけどさっきから足の震えが止まらないの!」
「じゃ、ここで待ってな。お前以外の皆――」
よく見ると、俺以外の全員が得体の知れない何かに怯え、その場で動けないようだった。
「何だ? これは一体どういう事だ? アーサーお前らもこいつと同じなのか?」
「お、お師匠様は何も感じないのですか!?」
「別に、特に何も」
「怖いんです! 足が動かないんです」
「ネメシス、フィアーチェックの感度を最大にしろ」
「感度最大にしましたが、この空間及びダンジョン全域に恐怖系を司るモンスター及び、魔術等の反応ありません」
「もういい。よくわからんが俺だけで行くとしよう。土産見つけても独占しちゃうからな!」
俺は扉に手を掛け中へと入る。
部屋の内部に入ったと同時に視界全体が赤くなった。どうやらネメシスが気を使ってくれたようだ。
ナイトヴィジョンを起動しても奥の方は漆黒が支配しているのがわかる。
「何? どんだけでけぇんだこの部屋? ん? 何だ今の?」
目を凝らすと先の方でうごめく物体を見た気がした。
近付いていくと木製の机の前でうずくまる白衣を来た褐色肌の男性がいた。
「あっれ~? おっかしいなぁ。確かにここにしまった筈なんだけど。また勝手に持ち出したのか?」
「おい」
「ん? 今人の声が聞こえたような……。んな訳ないか」
「おいつってんだろうが! 思いっきり聞こえてんだろ!」
男性はぴくりと動きを止め、顔を上げ俺をガン見している。
彼は何故か工事現場で被るようなライト付きの黄色いヘルメットを着用している。
今そのライトがモロに俺に当たっている。眩しい。
「おい?」
男性は両腕を広げると思いっきり俺に飛びついてきた。
「おおおおおおおおお! 遂に! 遂に僕以外の人間がこの部屋へやってきた! 苦節7該飛んで10年と15日! 長った! やったあああああああああああ!!」
「離せ! 気色が悪い!」
「あ! ごめんよ、嬉しさのあまり抱きついてしまって。
ん! その軍服を模したデザインはアジュラスⅦ式!
しかも専用の規制解除アタッチメントである、狂気のペストマスク付きとは!
中々やり込んでくれてるみたいだね!」
「え、お前何でアジュラスⅦ式のペストマスクの事を知ってる?」
「そりゃそうさ。だって僕生みの親みたいなものだもん」
「はぁ? 何を」
「あぁ、ごめんごめん。名前を言ってなかったね。僕の名はアルジャ・岩本」
俺はその何聞き覚えがあった。
しかし何処でその名前を聞いたのか思い出そうと脳みそを振り絞る。
「アルジャ・岩本? アルジャ……アル……天才プログラマーA!?」
「懐かし~その肩書!」
思い出した。彼はハガセンのメインプログラマーだった男だ。
彼はフリーのプログラマであり、その腕は神をも超えると称され、
彼が作り上げたゲームは必ず大成するという謎のジンクスが生まれるほどであった。
「あれ? アルジャって確か行方不明になったってニュースで見たぞ」
「あ~、それか。実はとある国の地下にあるサーバーのメンテナンスとプログラムの改良を頼まれてね?
サーバールームに入って仕事してたんだけど――」
「お……おう」
「――なんとなんと地上ではクーデターが起きてたっぽくてね? 実は国に土産としてある兵器を献上したんだけど、その国に献上した僕の兵器が使われちゃってさー。
その兵器ってのが超弩級の電磁波を発動させて、電気で動くものを片っ端からダメにするっていう人道的な兵器でね? その影響でサーバーは勿論空気を送るダクトの中のプロペラファンまで止まっちゃってさー。
人知れずそのまま死んじゃったんだよね僕」
「待て、それどんだけ範囲広いんだよ」
「お、いい目の付け所だね。あれはプロトタイプだったんだけど国一個くらいなら余裕で届く範囲は合ったと思うよ。
まぁ自らその人柱になるとは思ってなかったけど。まぁ、僕のメインは兵器開発であってプログラマを世を忍ぶ仮の姿ってやつ?
もう死んでるし自分からバラしてるから意味ないけどハハハハ」
ケラケラと他人事の様に笑うアルジャ。
兵器開発? プログラマが仮の姿?
しかしこいつならモンスターの数値を弄るのは造作もない事だろう。方法なんぞ知ったこっちゃないが。
そもそも何故アルジャがこんな所に?
「おま――あんたがマジもんのアルジャなのはわかった。何でこんな所に一人でいるんだ?
あんたも転生したらな神と出会ってるだろ? 白かったか? それとも黒の方か?」
「転生か。まるで日本のコミックで起きるようなことが実際起きてびっくりしたよ。
でも、君が言うのと僕はちょっと違うみたいだね」
「違うだって……そういえば何であんたは生身なんだ?」
「1つ面白い話をしよう。君はこの世界に転生してきてどの位経つのかな?」
「えっと、半年とちょっと?」
「うむうむ。では最近来たのだね。ここからだが本題だがこの異世界であるローゼス、まぁ前はメイタリオだったが何故、鋼戦記で使われていたスキルや能力、その他諸々がそのまま使えると思う? おかしいと感じたことは?」
「そりゃまぁ、でも白いソフトボールが媒体にしてくれるって言ってたぜ。その影響なんじゃねぇのか?」
「最初」
「ん?」
「――最初この異世界へ来た時、周りには何もなかった。暗い、ただひたすら漆黒が支配する丁度ここと同じ空間で、僕は見た。黒と白が入り交じった太極図の様な球体と戦う魔王の姿」
「な……に……」
「この異世界に転生を果たした記念すべき第一号はね? 僕なんだよ」
アルジャは机に腰を降ろし、淡々と続ける。
「何故、鋼戦記のスキルが使えるのか? それはこの世界の創造主に僕が入れ知恵したからさ。だから使えるんだよ」
「その創造主ってのは球体か!」
「いいや、違う。彼――いや彼女は特定の形を持たないんだ。何処にでもいるし、何処にもいない。それが創造主さ。この世界のね」
「どういう意味だ」
「さてね。ところでもし創造主に会えるとしたら、君ならどうする?」
「ああ! ぜひ会ってみたいね! 後光でも刺してんのか? だとしたら拝んでやるよ」
「そうか、良かったな。気が合いそうじゃないか」
そう言うとアルジャは人差し指を上空へと向けた。
「な、なななな何だありゃあああああああああああああ!?」
「あれがこの世界の創造主、魔王ヴァジュラさ」
釣られる様に目線を上に向たその先には、超巨大な金色に光る眼が俺達、いや俺を血走った目で見続けていた。




