第99話 俺、聖女の涙の秘密を知る
「ちょ、ちょっと待て! ハイエリクサーは超希少アイテムだぞ! 何でアイツがんなもん持ってるんだ!」
「私に聞かれても答えることは出来ません。彼女に聞いていてみては?」
「おい! じゃじゃ馬聖女! ちょっと待て!」
聖女はほんの一瞬俺と目があったがそのまま部屋へと入っていく。
「あんのクソアマ、明らかに無視しやがった! 今一瞬目があったのに!」
俺は螺旋階段を降りて彼女の部屋の前に立つち死角から右腕を掴まれた。
見ると女スパイが何故か俺のメイドと同じ服を着て突っ立っている。
「その格好はなんだ?」
「私もここでメイドとして働くことにしました。服は他のメイドにその節を伝えたら私の元へ持ってきてくれたのです」
「あっそ、好きにしたら? つーか手ぇ離してくれる? 俺こいつに用があるんわ」
「失礼。腕にゴミが付いていたので、つい」
「……」
俺がドアに手を掛けようとすると連動するかのように彼女は俺の腕を掴んでくる。
「あの……手ぇ離してくれない?」
「すいません。体が勝手に」
何度か同じ動作を繰り返し続けるメイドと俺。
「もー! 面倒くさい事この上ないんだけどこの人ー!どうすればこの中に……ハッ! そうだ! アーサーカモン!」
俺が叫ぶとバーからアーサーが飛び出し俺の元へ全速力で近付いてきた。
「ハイお師匠様! 何でしょうか!」
「よく来てくれた。ちょっと聖女を呼んでくれないか? 今手が放せないんだ。あっ、俺が呼んでるって言わなくていいぞ」
「わかりました! セリーニアちょっといいかい?」
「アー君! すぐ開けるわ!!」
開かれた扉の入り口に俺はすかさず左足を突っ込んだ。
「よぉ、ちょっと聞きてぇ事があってな? 入らせてもらうぞ?」
「ゲッ……ゴキブリ……」
「アーサーも一緒に来い」
「僕も? わかりました」
俺は腕を握られたままメイドと一緒に部屋へと入り、それにアーサーが続く。
「さてと、やっと聞けるわ」
「おい、じゃじゃ馬聖女」
「アー君の前でその変なあだ名を言うな!」
「あ~ん? お前人のこと害虫扱いしといてその言い草とはどういう了見だ? あっ、はは~ん? そういう事か。ふ~ん、っていうかいい加減離れろって!」
俺は女スパイの手を振りほどいた。
「あ、あのケンカはやめましょう~」
あたふたしながら、アーサーが俺と聖女の間に立ち両手を左右に振っている。
「まぁ、その事は百歩譲って良いとしてだ。これをお前にやる」
俺はインベントリから柄頭がルビーの様に赤いメイスを取り出し聖女に手渡す。
「どうだ?」
「どうって……綺麗ね。宝石みたいに輝いてる」
「それだけか? そのメイスはお前の餅武器だ。そのメイスの輝きはお前が持つからこそ強く輝いてるんだ」
「モチ……なんですって?」
「何でもない気にすんな。悪癖が出ただけだ。それよりアーサー! こいつの横に立って剣を構えろ!」
「え? アッハイ!」
アーサーは鞘から剣を抜き、聖女の横へ立つと俺に向かって剣を構えた。
「聖女、お前もメイスを持て」
「何なのよ、こう?」
聖女は渋々メイスを構えた。メイスの柄頭はキラキラと輝いている。
俺は二人の周りをゆっくり回り元の位置へと戻る。
「なるほどなぁ。餅武器が反応したってことはやっぱり――」
「ちょっといい加減にしなさいよ。気持ち悪い男ねホントに! この武器構えるのが何になるのよ!」
「もうそれは良い。2、3質問いいか? お前親は?」
「いたわよ! それが何!?」
「いた? 死んだのか?」
「同じようなものよ! 私の能力を怖がって化け物扱いした挙句、奴隷商人に売り飛ばしやがったクソ親共のことなんぞ知ったことか!」
「セリーニアそれは本当!?」
「アー君……。うん、本当よ。私のこの能力のせいで沢山辛い目にあったの……」
「セリーニア……怖い思いをしたんだね。もう大丈夫だよ」
「そう言ってくれるのはアー君だけよ。ありがとう」
俺は中指と親指で指パッチンをする。中々小気味よい音と共に二人の視線は再び俺に注がれた。
「おい、またさっきみたいに何十分も無視されるのは御免だ。お前の親は妙に強かったりしなかったか?」
「いいえ、記憶が正しければただの臆病者よ。私の親は」
「ふ~ん。で、ここからが本題なんだがお前はハイエリクサーを持っているのか?」
「ハイエリクサー? 何それ?」
「語弊が合った。紫ツインテールに飲ませた液体は何だ?」
「聖女の涙のこと? 嫌よ」
「何が?」
「教えたくないって事」
「何故だ! 理由は!」
「アー君の前で言いたくないの!」
「僕?」
「そうか! じゃ、アーサーが聞かなきゃいいんだな!? ノイズ!」
空間がひび割れると空間から絶音精霊のノイズが顕現した。
「よう、ノイズ久々。悪いけど俺とこの嬢ちゃんを絶音界に包んでくれ」
「ザー!!」
「こ、これは何!?」
「怖がるな。別に取って食おうってんじゃねぇ」
ノイズの両手から黒く小さな球体が放たれ、俺と聖女の中心で止まりみるみる大きくなっていき、俺達を飲み込んでいく。
「さぁ、二人っきりになったぞ。教えてもらおうか?」
「この空間は?」
「こいつは絶音界つってあの妖精から放たれた専用の結界みたいなもんだ。
この結界内にいる限り一切の音は外に漏れることはない。ヒソヒソ話するにはもってこいなんだコレが」
「そ、そう。聖女の涙はね……私の体液なの」
「は? 体液? え、ほんとに涙なのか?」
「涙でも良いけど……大体はおしっこね」
「冗談だろ?」
「だから、アー君の前で言いたくなかったんだよ! クソが!」
「いや……マジか。もう良いわかった。この事知ってるのは?」
「あの豚とてめぇだけだ! 文句あんのか!?」
「いや…別に。お前のユニークスキルは2つあるのか?」
「これは私の体質だよボケ! 能力は予知だけだ!」
「体質ねぇ、あっそ。大体わかった。ノイズ! 絶音界解除!」
俺達を覆っている黒い膜の様なものに次々ヒビが入り音もなく絶音界は消え去った。
「ノイズご苦労」
ノイズは俺に向かって深々と礼をすると消え去っていった。
「じゃ、聞きたいこと全部聞いたんでダンジョン攻略と行こうか。お前たちの戦い方俺が見てやる」
「ハイ! よろしくお願いします! お師匠様!」
「うむ、しっかり戦うが良いぞ!」
「アー君頑張ってね。何やるか知らないけど応援してる」
「うん! 頑張るからね!」
「何言ってんだお前ぇも行くんだぞ?」
「は?」
「は? じゃねぇよ。お前ヒーラーだろうが? おめぇも頑張んだよ!」
「ちょっと何言ってんの!? 私が戦えるわけないでしょ!?」
「しょうがねぇなぁ」
俺は聖女を脇に抱きかかえる。
「いざダンジョン攻略へ、イクゾー!」
「人の話聞けやこのゴキブリがああああああああ! ゴラァァァァァァァァァ!!」
叫ぶ聖女を無視し、俺とアーサーは部屋を出たのだった。




