第五話 兄の秘密
雫が聖慈の部屋に住むようになって一ヶ月たった。
聖慈は父親である伊集院章吾に実家に一人で呼び出された。
「ただいま」
「おぉ、聖慈。久しぶりじゃないか」
聖慈が玄関から入ると章吾が出迎えた。
どうやら母親は出かけてるらしい。
とりあえず聖慈は家に上がってリビングに入った。
「呼び出したのはそっちだろ。いったい何のようだよ」
「ところで、雫は元気にしているか?」
「よくやってくれているよ。結構あいつ家庭的だな。いいお嫁さんになるよ、あいつは」
「そうか・・・」
やはり娘をほめられるのはまんざらでもないようで章吾は笑みを浮かべた。
だが、少ししてから迷ったような顔をした。
「何だよ。なんかあるのか?」
聖慈が聞くと章吾は少しためらったが決心したようで聖慈に向き合った。
「聖慈、お前は優慈や雫のことをどう思ってる?」
「どうってどういうことだよ」
「いいからどう思ってる」
聖慈は質問の意図が掴めなかった。
あれだけためらったのにいざ出てきた質問が『弟と妹』についてだ。
何か意図があるのだろうけど分からないので聖慈は正直に答えた。
「普通に弟と妹と思ってるけど何でだよ」
「実を言うとお前はもともとこの家の子じゃないんだ」
「は!?意味わからねぇよ!ちゃんと説明しろよ」
いきなり優慈と雫の話から自分がこの家の子供ではないと聞かされた聖慈は立ち上がって章吾に詰め寄った。
章吾に「落ち着け」といわれた聖慈は納得がいかないが椅子に座り章吾の話の続きを待った。
章吾は聖慈が落ち着いたのを見てから言葉を続けた。
「父さんと母さんは結婚してから10年間子供ができなかったんだ。そこである託児所にいって一人養子として家に引き取ってきたんだ」
「それが、俺・・・?」
「そういうことだ」
「そんなでまかせ信じられるか!」
「聖慈!聞き入れろ!もうお前も今日で18だ。だから話した」
聖慈は自分がこの家の子ではないことにショックを隠しきれないようだ。
それもそうだろう。ずっと家族と思っていた人たちが血のつながりがないのだ。
聖慈はまだ納得できていないようだが優慈達はこのことを知ってるのかどうか章吾に問いかけてみた。
「優慈や雫は知ってるのか?」
「言えるわけないだろ。優慈はともかく雫はまだ10歳だしお前を本当の兄のように慕っているしな」
優慈と雫はどうやらまだ知らないらしい。
とりあえず優慈と雫は本当の兄妹ではない。
自分と雫は今一緒に暮らしてるが帰したほうがよさそうだ。
それに、あそこの部屋も借りる時に章吾の力を借りてるので自分で家を探さないといけないようだ。
とりあえず今の考えを章吾に伝えてみた。
「じゃあ雫は家に帰すよ。あの部屋ももう出て行く」
「いや、そんなことはしなくていい。お前にはあの二人のこれからも兄でいて欲しい」
聖慈は章吾の言葉を聞いて少し驚いた。
てっきり『もうこの家から出て行け』と言うつもりで伝えてきたのだとばっかり思っていたが章吾が考えていた意図と自分が考えていた意図はどうやら違うらしい。
「いいのか?」
「あぁ、かまわん。どうせ雫も帰る気はないだろ」
雫の話が出たので、聖慈は章吾に優慈と雫のことを話してみた。
何か章吾が知ってるかもしれないからだ。
「そういえば雫がいってたぞ。優慈に変な目で見られるって」
「だから、雫をお前に任せるんだ。しっかり相談に乗ってやってくれ」
どうやら章吾は何も知らないようだ。
やはりいつか優慈本人に聞いてみないといけないようだ。
「お前には本当に悪いと思ってる。でも、お前にしか頼む奴はいないんだ。頼む、聖慈!」
章吾が聖慈に頭を下げている。
聖慈は今まで章吾が頭を下げているところを見たことが無かった。
だから聖慈は戸惑ったが、すぐに自分の気持ちを章吾に伝えた。
「親父・・・。分かったよ。これからもあいつらの兄貴でいるよ。むしろいさせてくれ。血のつながりはないけどこれまであいつらの兄貴だったわけだし」
「聖慈・・・。ありがとう」
章吾は頭を上げて聖慈に顔を見せた。
章吾の顔には安心したような表情が見える。
目には少し涙が見える。
「いまさら他人行儀はやめてくれよ。俺は本当の親の顔を知らないけど、間違いなく親父・お袋の息子なんだから」
「そうか・・・。お前には本当に悪いと思ってる」
「もういいって。ところで、俺の生みの親って生きてるのか?」
聖慈は自分は章吾の息子だとしてこれからも生きていこうと決めていた。
それがいつまでかは分からない。優慈や雫にもこのことをいつか打ち明けないといけない。
そのときに二人に拒絶させられるかも知れない。
そうなったら聖慈はこの家を出て行くつもりだ。
だが、何故聖慈が託児所にいたのかはまだ分かっていない。
生みの親が生きてるのかどうかはやはり気になるところだ。
「さぁ、それは知らんが、この前お前のいた託児所に最後の成長記録を送ったけどそういう話題は出なかったし」
「成長記録?」
「あぁ、そこの託児所の決まりで写真にとって送らなきゃいけないんだ」
「その写真を生みの親に送るらしいんだがその辺は教えてくれないからな」
「そっか。道端で生みの親とあったりしてな」
「そんなこともあるだろ」
「でも、そん時はきちんというさ。俺の親は親父とお袋だって」
「聖慈・・・」
聖慈のその言葉に章吾の目から涙が出てきた。
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