第四話 兄と弟と妹
ロケ現場の近くで聖慈のマネージャーと雫のマネージャーと合流した。
この二人のマネージャーは聖慈と優慈と雫が兄妹ということを知っている数少ない業界の人たちだ。
四人が現場に着いたときスタッフがざわざわ騒いでいた。
聖慈と雫は顔を見合わせた。二人のマネージャーも何も聞かされていないようだ。
とりあえず聖慈が近くのスタッフに何かあったのか聞こうとしたら現場に監督の声が響いた。
「今日から主演変わりま〜す」
「え・・・」
「お、聖慈さん・・・」
「主演の優慈さんです」
聖慈も雫も二人のマネージャーも何も聞いていないので呆然としている。
しかも、自分の代役が優慈だ。
聖慈はすぐに監督にかけよった。
「ちょっと待ってください。何でですか?」
「優慈さんから頼まれたら断るわけにはいかんだろ。だから君はクビっていうこと」
監督は聖慈から離れていった。
スタッフも皆聖慈に哀れみの目を向けるだけで反論しない。
雫やマネージャーが何か言ってるが無視してよろよろと現場を後にした。
現場では監督の声が響いている。
「じゃあ撮影開始します」
「ちょっと待ってください」
雫は監督に駆け寄った。
その顔には怒りの表情が浮かんでいる。
「どうしました?雫さん」
「相手が変わるなら私は辞退します。私は聖慈さんだからお受けしたんです」
「でもね〜、雫さん。もう時代は聖慈さんより優慈さんなんですよ。優慈さんの方が視聴率も取れますし・・・」
「それでも私は聖慈さんのほうがいいんです」
「失礼します」
雫は聖慈を追って現場から立ち去った。
それを見ていた優慈も雫を追っていった。
雫のマネージャーは顔を抑えているがこうなるだろうとは思っていた。
雫がこの仕事を引き受けたのは聖慈と競演するからだ。
確かにこの仕事の内容は良い。だが普段会うことのない兄に会えるので引き受けた感もある。
聖慈のマネージャーと雫のマネージャーは顔を見合わせて苦笑し、監督の所に向かった。
「雫!ちょっと待てって」
優慈は雫の手を捕まえた。
「優慈兄ちゃん。何?」
「何ってことはないだろ!なんで辞退なんかするんだよ!」
「私は聖慈兄ちゃんだからこの仕事うけたんだよ」
「だからってなんで断るんだよ!なんで兄貴なら良くて俺じゃあ駄目なんだよ!」
「どうしても!もうほっといてよ」
「雫・・・」
雫はまた走り出した。
優慈はその後ろ姿を見て壁を殴りつけた。
「お兄ちゃん!」
雫は聖慈の後姿を見つけて叫んだ。
「雫!?お前撮影は?」
聖慈は雫の姿を見て驚いている。
撮影中のはずの雫がここにいるのだ。驚くのも無理はないだろう。
雫の息が整うのを待って答えを聞き出した。
「断ってきた」
「え、なんで?」
「相手が変わったから」
「だからって・・・」
聖慈は雫がこの仕事をもらったときにすごい喜んでいたのを覚えている。
だから共演者が優慈に変わったからといって断るとは思っていなかったのだ。
「お前この仕事決まったときスッゴク喜んでたじゃないか。今ならまだ間に合うから現場に戻って監督に謝って来いよ」
「嫌!」
「何で!」
「実際思ったより面白くなかったし・・・。それに・・・」
「それになんだよ!」
雫は聖慈の顔を見ている。
聖慈は雫を現場に戻そうとするが雫は戻ろうとはしない。
聖慈は雫に断った理由を聞き出そうとするが雫は答えようとはしない。
1分ぐらいにらめつけた後、雫が聖慈の3歩前に出て振り返った。
「もういいの」
「さ、早く帰ろ?」
雫の顔には後悔の表情は無く満面の笑みを浮かべている。
聖慈は雫の顔を見て説得するのを諦めた。
雫は顔に似合わず頑固な面も持っているのでこうなったらてこでも意見を変えないのが雫だ。
聖慈はため息をついて、雫に聞いてみた。
「帰ろってどこに?」
「もちろんお兄ちゃんの部屋」
「また俺の部屋に来るきか?」
「いいじゃない。駄目?」
当然のごとく答えた雫。
『一泊だけではなかったのか?』と思ったが言わないことにした。
「親父やお袋には聞いたのか?」
「まだだけど雫がいたほうがいいでしょ?」
「どうせ、お兄ちゃん彼女いないんでしょ?」
「別にいいじゃないか」
聖慈には確かに彼女はいない。
というよりも作る気がないのだ。
「雫、掃除もするし、洗濯もするし」
「それに・・・」
「それに?」
「優慈兄ちゃんと一緒の家にいたくないの」
「まぁ確かに雫がいたほうが助かるけど」
「でしょ?じゃあ決まりね」
「その前に親父やお袋に伝えとけよ」
「うん」
『やはり雫には甘いな』と自分に苦笑しながら聖慈は雫に手を引かれながら自分の部屋に帰っていった。
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