バレンタイン企画’08
今日はバレンタインである。
聖慈が食堂で雫の手作りの弁当を食べていると彰人が近づいてきた。
「よぉ、伊集院」
「うっす」
そして聖慈の横に座り聖慈が食べている弁当を見る。
野菜と肉がバランスよく入っており、彩りも鮮やかな弁当だ。
「相変わらず雫ちゃんの弁当はおいしそうだな」
「『おいしそう』じゃなくて『おいしい』んだ」
「はいはい、ごちそうさま」
彰人は聖慈の言葉に笑いながら言った。
聖慈も彰人に釣られて笑った。
彰人は聖慈に気になることを聞いてみた。
「お前いくつもらった?」
「何を?」
「え?お前今日何の日か分かってねぇの?」
「今日?」
聖慈は今日が何日か考えた。
今日は確か二月の十四日。
「そういや、今日はバレンタインだっけ…」
「お前にチョコ持って行った女子社員いたんじゃないか?」
「あぁ、来たな。けど、バレンタインって知らなかったから『いらない』って言って返した」
「うわ!?お前最悪だな」
「うるせぇ。知らなかったんだからしょうがねぇだろ。まあ、でも知ってても『いらない』って言って返したと思うけど」
「なんで?」
聖慈は彰人にその理由を話し始めた。
聖慈が大学生のとき、雫が中学生のときのことだ。
聖慈は大学でバレンタインのチョコレートを食べきれないほどもらったことがあった。
そのチョコレートを聖慈は実家に持って帰った。
聖慈が家の玄関を開けたら雫が走ってきた。
家に帰ることをあらかじめ電話していたから待っていたのだろう。
「お兄ちゃん。おかえり」
「ただいま。雫、これやるよ」
「何これ?」
雫が聖慈から手渡された袋を開けるとそこに入っていたのはもちろん大学でもらったチョコレート。
雫は甘いものが好きだから喜ぶだろうと思っていた聖慈だが雫の顔は見る見るうちに暗くなっていった。
「雫?どうした?」
「え?ううん、ありがとう」
雫は袋を持って自分の部屋に戻っていった。
聖慈はその後姿を首を傾げながらリビングに入った。
そこには章吾と真美がお茶を飲んでいた。
「親父、仕事は?」
「ん?休んだ」
「いいのかよ。そんなホイホイ休んで…」
「馬鹿言え。俺は重役だぞ」
「だったらなおさらなんじゃねぇの…」
聖慈は章吾と話しながらリビングのソファーに座る。
真美はお茶を入れて聖慈の前に置く。
聖慈は「ありがと」とお礼を言って口に含む。
「そういえば聖慈、雫は?」
「あぁ、自分の部屋なんじゃない」
「雫からもらった?」
「へ?何を?」
聖慈の言葉に親二人は顔を見合わせた。
「あんた雫に何かした?」
「別に」
「ホントか?」
「だから別に何もしてないって。むしろ喜ばれると思うんだけどな」
「何で喜ぶの?」
「大学でもらったチョコあげたんだよ」
「「原因はそれだ〜〜〜!」」
聖慈の言葉に両親は声を揃えて叫ぶ。
その両親の様子に聖慈は驚いた。
「急にどうした?」
「あんた雫にチョコあげたの?」
「あぁ、食いきれないし雫は甘いもの好きだろ?」
「聖慈、お前は本当にどうしようもないやつだな…」
「はぁ!?」
「雫に謝ってきなさい!」
「何でだよ!」
「いいから!謝るまでこの家に今後一切あげないわよ!」
「はぁ!?」
「いいから早く行く!」
真美の言動に意味が分からない。
だが、真美の顔を見るとマジだ…
章吾の顔もマジだ…
聖慈は意味が分からないがとりあえず雫に謝りに雫の部屋に向かおうとした。
リビングを出ようとしたとき、真美が一言聖慈に声をかける。
「あんた雫の部屋に行く前に台所に行きなさい」
「は?何で?」
聖慈は台所に行かせる真美に聞きなおしたが真美は何も言わない。
とりあえず聖慈は台所に向かう。
台所からは甘い匂いが漂っている。
聖慈は台所を歩いて回る。
流しにおいてあるボウルから甘い匂いがする。
ゴミ箱にはチョコのゴミがある。
「まさか…」
聖慈はダッシュで雫の部屋に向かう。
その足音を聞いて章吾と真美はため息をついた。
聖慈が雫の部屋を開けると雫はベッドに横になっていた。
急にドアが開いたので雫は驚いたが開けたのが聖慈だったのでさらに驚いている。
「ちょっとお兄ちゃん。ノックぐらいしてよ」
「雫」
「何?」
「チョコ頂戴♪」
聖慈がいきなり部屋に入ってきていきなりチョコをくれと言い出した。
雫は意味が分からない。
とりあえず雫は聖慈からもらった紙袋を渡した。
「はい、ひとつもまだ食べて無いよ」
「これはいらないの」
「え?だって今チョコ頂戴って…」
「まだあるだろ?雫のところには?」
「…ないよ」
「ふぅ〜ん」
聖慈はそれが嘘だと気づいた。
えらい意地固になってるな…
さて、どう攻めるか。
聖慈が雫の部屋を見渡すと机の上に何か乗っている。
あのサイズは…
聖慈はニヤリと笑い雫の机に近づいていく。
雫はそれに気づかない。
そして、聖慈は雫の机の上のものを手に取り雫を呼ぶ。
「なぁ、雫」
「…何?」
雫はまだそっぽを向いている。
「これな〜んだ」
「え?」
雫は聖慈の方を向く。
そして、聖慈の手の中にある箱を見て驚いた。
「返して!」
「これ何か教えてくれたら返すよ」
「…チョコ」
「え?何だって?」
聖慈はニヤニヤしながらもう一度聞きなおす。
「チョコだってば!」
「やっぱりチョコあるんじゃないか」
「これは他の人にあげるの!」
「…それって男か?」
「いいじゃない!お兄ちゃんにはあんなに一杯チョコあるんだから」
「あれよりもこっちのほうが俺は欲しい」
「あれをあげた人たちがかわいそうだよ」
雫の気持ちも分かるが、聖慈は何故だか分からないがこのチョコを雫が他の誰かに渡すのが不愉快に感じた。
どうにか雫からチョコをもらいたい。
聖慈は今その気持ちで思考を開始した。
一つの考えが浮かんだ。
「分かった。来年からは一個ももらわない」
「え?何でそんなことになるの?」
「だって、もらってもかわいそうだろ?俺には気持ちないんだし」
「まぁ、そりゃそうだけど」
「だから、来年から俺にちゃんとくれよ。一個もないとか嫌だから」
なんでそういうことになるんだろう…
雫は意味が分からない。
が、聖慈は笑顔で雫に微笑みかけている。
その顔を見たら何も言えない雫だ。
雫は自分の手の中にあるチョコを見た。
「…はい」
「え?いいのか?」
「いいの!」
「マジ!?サンキュウ〜」
聖慈はさらに笑顔になった。
雫もその笑顔を見て笑った。
彰人は聖慈の話を聞いて呆然としている。
が、聖慈は昔に浸っているのか気づかない。
「あれから雫にチョコもらうために他の人からはチョコもらわなくなったんだ」
聖慈は彰人のほうを向いてやっと彰人が呆然としているのに気づいた。
「彰人、どうした?」
「お前本当に鈍感なんだな…」
「え?何が?」
「お前そのときから雫ちゃんのことが好きなんだよ」
「はぁ?それはないだろ。だってあの時雫は中学生だぞ」
「じゃあ、何でお前は雫ちゃんが他の人にチョコを渡すって言ったとき不愉快に感じたんだ?」
「え?それは…なんでだろ」
彰人はその聖慈の言葉にため息をついた。
聖慈はムッとした。
「じゃあ、お前は分かるっていうのか!」
「嫉妬に決まってるだろう」
「は?嫉妬?」
「そ。お前は雫ちゃんがチョコをあげるって言った男に嫉妬したの」
「そうなのか?」
「と俺は思うけどね。ところで今日ももらうのか?」
「え?さぁ、どうだろ?」
「『どうだろ?』とか言いながら顔は自信満々だぞ」
「だって恋人だし。そういうお前はどうなんだ?」
「ど、どうでもいいだろ!じゃあな!」
今度は聖慈が彰人に詰め寄ったが彰人は逃げ出した。
聖慈はその後姿を笑いながら見送った。
そうか、今日はバレンタインだ。
毎年雫からもらってるから今年ももらえるだろう。
聖慈はやる気が出た。
さっさと仕事を終わらせて家でゆっくりしよう。
聖慈が仕事をはじめるために自分の机に行くと隣の奴が雑誌を見ていた。
その雑誌の特集を見て聖慈はあることを決めた。
その特集とは…
雫は学校が終わるとすぐに家に帰った。
昨日は聖慈がいたのでチョコを作ることができなかったのだ。
優奈がチョコを優慈に渡したいから作り方を教えてくれと言ってきたので一緒に作ることにした。
優奈と雫は手を動かしながら話をしている。
時々雫が優奈にアドバイスをしているが二人とも楽しそうだ。
「ねぇ〜、雫?」
「ん〜、何?」
「去年も一昨年も聖慈さんに送ってたんでしょ?」
「うん」
「いつからあげてるの?」
「え〜と、私が中学生のときからかな」
「それって義理で?」
「ううん、本命だよ。お、じゃなくて聖慈さん以外には今まであげてないもん。義理は優慈兄ちゃんとお父さんにあげてるけど」
雫は聖慈と付き合うようになって『お兄ちゃん』から『聖慈さん』と呼ぶようにしている。
まだ慣れていないようだが。
「へぇ〜、じゃあそのときから聖慈さんのことを?」
「うん。もうそのときには聖慈さんのこと知ってたから。聖慈さんはそれが本命とは知らなかったと思うけど」
「聖慈さん鈍感だもんね…」
「うん…」
「でも、恋人同士になったんだしねぇ?」
「う〜ん、多分聖慈さん今日がバレンタインってこと自体忘れてる気がするんだよね」
「さすがにそれはないんじゃない?」
「去年だったかな、朝に渡したら忘れてたもん」
「…鈍感だね」
「…鈍感だよ」
それから作業に戻って夕方にはチョコレートも完成した。
優奈はこれから優慈とデートで着替えに帰っていった。
雫は夕食の仕度を始めた。
もうすぐ夕食が完成するというときに聖慈は帰ってきた。
「ただいま〜」
「あ、おかえりなさい」
「晩飯できてる?」
「もう少しだよ」
「腹減ってるから早くしてくれ」
「はいはい」
聖慈は着替えに自分の部屋に入っていった。
雫は夕食の仕度を続けた。
いつチョコ渡そう…
雫がそのタイミングを考えていると部屋着に着替え終わった聖慈が雫に話しかけてきた。
「雫?」
「え?何?」
「いや、何かボーとしてたけど大丈夫か?」
「う、うん。大丈夫だよ。ご飯出来たから悪いけどお皿準備してくれる?」
「あぁ、分かった」
聖慈は食器棚から必要な皿を取り出して雫に渡した。
渡されたお皿に料理を盛り付けテーブルに置いた。
「さ、食べるか」
「うん」
「「いただきます!」」
二人は今日あったことをいつもと一緒のように話しながら食事を終えた。
雫は洗い物をして、聖慈はその横で雫が洗ったお皿を拭いている。
洗い物を終え、聖慈は風呂に入った。
雫は冷蔵庫に冷やしてあるチョコを取り出し聖慈が風呂から上がってくるのを待った。
風呂場から物音がする。
聖慈が風呂から上がってきたようだ。
風呂から上がった聖慈は冷蔵庫に近づき牛乳をコップに入れ飲み干した。
牛乳を直した聖慈に雫が話しかける。
「お、聖慈さん」
「ん、どうした?」
「えっと…これ」
「雫。これは何かな?」
聖慈はもちろんこれが何だか分かっているが雫にその名称を答えさせたいようだ。
意地悪な笑みを浮かべて雫に問いかけている。
「聖慈さん、最近意地悪になってきてない…?」
「そんなことない、そんなことない」
「CMで言ってるじゃない。人間本当のことは一回しか言わないって…」
「そんなの嘘だよ。それよりもこれは何かな?」
「チョコ…」
「ん?」
「チョコだってば!今日はバレンタインだから!」
「ん、ありがとな」
聖慈は笑みを浮かべて雫の頭を撫でる。
雫は不機嫌に聖慈のなすがままになっている。
だが、心地いいのか段々笑顔になってきた。
聖慈は雫の頭を撫でるのをやめ、自分の部屋に戻りカバンからあるものを取り出し雫の元に戻っていった。
「じゃあ、これは俺から」
そういって聖慈は雫の目の前に小さいラッピングされた箱を出した。
雫は聖慈の顔をうかがいながらそれを受け取った。
「聖慈さん、これは?」
「ん?俺からのプレゼント」
「え?どうして?」
「いいから開けてみな」
聖慈に言われた雫はプレゼントを開けてみる。
その中にはネックレスが入っていた。
雫は驚いて聖慈の顔を見る。
聖慈は照れながら事情を説明する。
「今日隣の奴が見てた雑誌に載ってたんだ。外国では男性からも女性にプレゼントを贈るって。付き合いだして雫にプレゼントしたこと無いし、いつも雫には助けられてるからお礼も兼ねてプレゼント」
「で、でも…」
「でも、とかはいらない。俺が欲しいのは一言だけ」
雫は笑顔で聖慈の胸に飛び込む。
「ありがと!お兄ちゃん!」
「うん。その顔が見れただけで十分!ただ、俺の呼び方は『お兄ちゃん』じゃなくて『聖慈さん』だろ?」
「あ、まだ慣れなくて…」
「早く慣れてくれな」
そういって聖慈は雫に顔を近づける。
雫も目を閉じて聖慈のほうを向く。
そして、お互いの唇を重ねた。
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