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第二十九話 兄の気持ちの自覚

優慈と優奈が聖慈の部屋を出て行ってからも聖慈はずっと考えていた。

聖慈が考えているとまた部屋のインターホンが鳴った。

聖慈は考えるのを止め、部屋のドアを開けると大竹と彰人が立っていた。


「伊集院、お前無事だったのか!?」

「は?何が?」

「何がって聖慈、お前携帯に出ないから彰人にも連絡して心配して来たんじゃないか」


聖慈が携帯を見ると確かに二時間前から大竹から着信があった。

考えすぎて気づかなかったらしい。


「すいません。考え事しすぎて気づかなかったようです」

「そうか。無事でよかったよ。いつもなら電話をかけて出なくても二時間も連絡してこないっていうのは無かったから倒れたのかと思った」

「すいません。また心配かけちゃって」

「それよりもお前考え事って何なんだ?」


とりあえず聖慈は大竹と彰人を家に上がらせお茶を出した。

そしてついさっき優慈、優奈との会話の内容を話した。


「へぇ〜、優奈ちゃんが」

「あぁ、雫を外国に行かせたのは俺の我がままなのかな…」

「伊集院…」


聖慈の顔がどんどん暗くなっていく。

彰人は何と声をかけたらいいのか分からなくなった。

彰人が大竹のほうを見ると大竹の顔が教師の顔になっていた。


「聖慈」

「はい…」

「今更そんなことを言ってどうする?」

「でも…」

「行かせた事を考えたってもう伊集院は帰ってこないだろ。じゃあ、お前はここでうじうじ悩むだけしかしないのか?」

「だから、ここで頑張ろうと…」

「そんなことを言っているといつまでたっても伊集院を守ることなんかできないよ。お前が伊集院がいる前といない後では全然違うよ。それは理解しているのだろう?」

「ええ」

「じゃあ、何故そんなに伊集院がいないとおかしいのか考えてみろ。それが分かればきっとお前がしなければいけないことは分かるさ」


聖慈は大竹の言葉について考えた。

だが、一向に答えは出てこなかった。

聖慈の頭の中ではすでに『雫が妹』ということに囚われている。

だから、他の答えを出すことができないのだ。

それを察知した彰人が一か八か荒療治を試みた。


「なぁ、伊集院」

「何だ?」

「俺雫ちゃんに告白していいか?」


彰人の言葉に大竹は耳を疑った。

聖慈を励ましにきたのに何故雫に告白などするのか。

大竹が彰人のほうを見ると彰人と目があった。

『俺に任せてください』

彰人の目はそう語っていた。

大竹は何も言わずに彰人に任せることにした。

聖慈は当然彰人に詰め寄る。


「ふざけんな!お前には春美っていう人が好きなんだろ!」

「でも、俺は今雫ちゃんのことを好きなんだ」

「お前みたいな奴に雫を渡せるもんか!雫は俺の…」


聖慈は今自分が言おうとした言葉を口に出せなかった。

それほど聖慈自身自分の言葉に驚いている。

そして、やっと自分が雫への気持ちを理解した。


「そうか…。俺は雫のことが…」


今となっては優奈の言葉が理解できる。

雫に本当のことを言えなかったのは雫に拒絶されるのが怖かったから。

接点がなくなるのを恐れたのは雫と会えなくなるのが怖かったから。


大竹の言葉も理解できる。

雫がいることが聖慈にとって当然だから。

雫がいることが聖慈にとって力になっていたから。


あの笑顔を、あの声を、そして雫本人を自分は欲している。

聖慈は雫のことを好きなのを自覚した。


「伊集院…」

「聖慈…」

「彰人、先生。やっと分かりましたよ、俺。俺は雫のことが…」

「はい、そこまで」

「え?」


彰人は聖慈の声を遮った。


「その先の言葉は雫ちゃん本人に言いな。俺らに言わずに」

「そうだな…」


それから聖慈は優慈と優奈、智子も呼び出した。

そして、自分の気持ちを伝えた。


「皆、心配かけてごめん。俺やっと分かったんだ。何で自分が自分じゃなくなったみたいになっていたのかを」

「そっか。やっと分かったのか」

「ああ」

「聖慈さん…」

「優奈ちゃん。ありがとう。君の言葉をやっと理解できたよ。雫に本当のことを言えなかったのは雫に拒絶されるのが怖かったからなんだ」

「聖慈さん。遅すぎですよ、それを分かるのが」

「ごめんね、心配かけて」

「いいですよ。これでやっと元の聖慈さんに戻ったんですから」


優奈は笑ってそう言った。

聖慈も優奈の顔を見て雫が日本を発って始めての笑顔を見せた。

その顔を見て皆安堵の笑顔を見せた。


それから食事会が始まった。

聖慈が皆に心配をかけたからとお礼のつもりで開いたのだ。

その場で聖慈は皆にいつから自分が雫の事を妹以上に思っているのを分かったのかを聞いてみた。


「私はかなり早かったと思いますよ。聖慈さん、雫を迎えに来たときに虫除けしたでしょ?」

「そういやしたね」

「私はあの時です」

「え?あの時から?」

「ええ。だって、聖慈さんあれはどう見たって嫉妬ですよ。山本が雫に対して馴れ馴れしかったから嫉妬した行動だと私は思いましたよ。あと、「好きな人に付きまとうな」っていうオーラも出てましたし」

「全然自覚なしだ…。智子は?」

「私は高校の文化祭だね。だって、伊集院君ずっと雫ちゃんのことを見てたもん。だから、これはきっと何か感情があるなって」

「俺は合コンの時。俺の友達が雫ちゃんに文句言ったときにお前怒っただろ?お前は今まであんなに女のことで怒ることはなかったからな。最初は妹を侮辱されたからかと思ったけど、あれは自分の彼女を守る行為に似てたからな。ついでにファミレスで会ったとき、俺と一緒にいた友達はお前達のことを家族と思ってたぞ」


聖慈はどれほど自分が鈍感で無自覚だったかを思い知らされた。

そして、恥ずかしくなった。

そんな聖慈の姿を見て皆笑った。

聖慈もそんな皆をみて笑った。


その日の晩、聖慈は両親に電話をかけた。


「もしもし、親父?」

「おぉ、聖慈か。どうした?」

「雫を迎えに行きたいんだ」

「ほぉ」

「兄としてではなく、雫を愛している一人の男として」

「ふぅ〜ん、やっと答えを出したか」


聖慈は最後のほうの言葉を章吾がボソッと小さい声で言ったため聞き取れなかった。

聖慈は聞きなおした。


「え?」

「いや、とりあえずこっちで話を聞こう。いつ迎えに来るんだ?」

「明日…。いや今から行く」

「今から?」

「あぁ、今から行く」

「分かった」


聖慈は電話を切り、一番早い飛行機のチケットを予約し家を飛び出した。

その顔には今までの聖慈とは違い希望に満ちた顔をしている。


あとがきはYAHOO!blogで書いております

興味があればお越しください

URL↓↓

http://blogs.yahoo.co.jp/in_this_sky

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