第二十七話 妹の旅立ち
雫は事務所で高校の勉強をしていた。
仕事の合間で勉強しないと間に合わないのだ。
雫が問題に集中していると部屋のドアが開いた。
ドアから聖慈が入ってきた。
雫はまさか聖慈が入ってくるとは思ってもみなかったので驚いている。
「雫、話があるんだ」
聖慈はまだ驚いている雫に声をかけた。
雫はその声に正気に戻り聖慈に答えた。
「話?」
「あぁ、雫。悪いけど親父達のところに行ってくれないか?」
そう聖慈が出した答えとは雫を両親のところに行かせることだった。
聖慈は雫が日本にいると傷つく可能性がある。
だから両親のところで暮らさせることを選んだ。
だが、雫はその言葉に傷ついたような顔をした。
聖慈に出て行けと言われたのだ。
当然雫は理由を聞きだそうとする。
「待ってよ!?どうしてお父さん達のところに行かないといけないの!?」
「親父達からさっき連絡があってな。やはり外国でお前と暮らしたいんだそうだ」
聖慈はここに来る前に外国にいる両親と連絡をとっていた。
今の日本の状況を伝え、そっち側に雫を行かせることも伝えた。
最初両親も「こっち側に連れてこなくても」と言ったが聖慈の雫を傷つけたくないという気持ちが伝わってきたので聖慈の頼みを聞くことにした。
両親のところに行かせる理由として「両親が外国で一緒に暮らしたい」という理由で合わることにしたのだ。
「私は日本にいたい!」
「駄目だ!お前は親父達と一緒に外国で暮らせ」
「どうして!」
聖慈は雫が叫んでいるが部屋を出た。
聖慈が部屋を出た後部屋の中から雫の泣き声が聞こえた。
雫が泣いている声を聞いて聖慈も涙を零しながら後のことを朝倉に任せ事務所を出た。
そして優慈の事務所に説明をしに行った。
優慈も聖慈の言い分を聞いて反論した。
「兄貴!何で雫を親父達のところに行かせるんだよ!」
「それが雫のためなんだ」
「どこが雫のためなんだよ!」
「じゃあ雫に全部話せって言うのかお前は!」
聖慈が優慈の方を見る。
優慈は聖慈の顔を見て何も言えなかった。
聖慈の顔は自分が何もできない無力感に襲われていた。
「こんな状況で雫に全部話してみろ!あいつは傷つくに決まってる。でも、今親父達のところに行かせれば向こうで親父達が守ってくれる!俺だったらあいつを守ることなんかできやしないんだ!」
「兄貴…」
「俺だって…俺だってできればあいつを日本にいさせてあげたいよ!でも無理なんだ!俺だけではあいつを傷つけるだけなんだ!」
優慈は聖慈の言葉に何も言えなかった。
「雫が日本を発つのは明日だ。優奈ちゃんと一緒に来てくれ」
そういって聖慈は優慈の事務所を出て行った。
優慈は聖慈に声をかけようとしたが何と声をかければいいか分からなかった。
次に聖慈が向かった先は智子の家だった。
大竹は学校に、陸は幼稚園に行ってるので家には智子一人だけだった。
聖慈は自分と雫の関係を智子に伝えた。
そして雫が明日、日本を発つことも。
「そっか。雫ちゃん外国に行っちゃうのか…」
「あぁ、それしかあいつを守ってやる方法が俺には分からないんだ」
聖慈が智子の家を出ようとしたとき智子が声をかけた。
「伊集院君、一つだけ聞いてもいい?」
「なんだ?」
「伊集院君はそれで後悔しない?」
「…あぁ。あいつを守れればそれでいいよ」
聖慈は無理やり微笑んで去っていった。
智子はその顔を見て呟いた。
「嘘つき」
彰人には会社終了後に彰人の自宅にお邪魔させてもらい事情を話した。
「え!?お前雫ちゃんを外国に行かせるのか!?」
「あぁ」
「お前が守ってやれば良いじゃないか!」
「簡単に言うなよ!俺が守れなかったからこういうことになったんじゃないか!」
「だからって…」
「あいつは親父達のところに行かせる。もう決めたんだ」
彰人も優慈と一緒で聖慈の顔を見ると何も言えなかった。
「雫の出発は明日。よかったら来てくれ」
そういって聖慈は彰人の部屋を出て行った。
そして、次の日。
雫は日本に発つことなった。
見送りには聖慈、優慈、朝倉、優奈、彰人、大竹家族が集まった。
「じゃあ雫、親父達によろしくな」
「…うん」
「雫、絶対メール頂戴ね!」
「…うん」
「雫ちゃん元気でな」
「…はい」
そして雫の乗る飛行機の搭乗が始まった。
「じゃあ、行ってきます」
皆「元気でな」や「頑張れ」と声をかけているが聖慈は声をかけようとはしない。
雫が聖慈の目の前に来て話しかけた。
「お兄ちゃん、行ってきます」
「あぁ…」
それだけしか聖慈は声をかけなかった。
雫はそのままこちら側を見ずに行ってしまった。
雫の後姿を見送って皆が「何故声をかけなかったのだ」と文句を言おうと聖慈の方を向くと聖慈の目からは涙が流れていた。
自分は両親に雫のことを頼まれた。
なのに何もできなかった。
その無力感で泣いてしまったのだ。
その聖慈の頭を大竹が何も言わずに聖慈の頭に手を置く。
聖慈が落ち着いたのを見計らって大竹が声をかける。
「さ、飛行機を見送ってやろうじゃないか」
「…はい」
聖慈達が見送る中、雫は外国に住む両親の元に旅立っていった。
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