第二十二話 兄と妹の無意識な行動
その元カノは聖慈に満面の笑みで話しかけた。
「きゃあ、聖慈君。久しぶりね。会いたかったわ」
「俺は会いたくなかったけどな」
聖慈は元カノにどっかいけというニュアンスで答えた。
だがそんな聖慈の嫌味には気づかないのか元カノはさらに話しかけてくる。
「こんなところで聖慈君何してるの?」
「お前には関係ないだろ」
聖慈は雫と陸と楽しい時間を過ごしていたのに元カノのせいで台無しになった。
その台無しにしてくれた元カノへの怒りは聖慈の顔を見ただけで雫には分かるほどだが元カノはまだ気づかないのか聖慈に話しかける。
「ねぇ、こちらは妹さん?私は聖慈君の彼女の…」
「誰が誰の彼女だって?」
とうとう聖慈が怒りを元カノにぶちまけ始めた。
聖慈がこんなに怒ってるのを雫は見たことがないので驚いている。
「だから私が聖慈君の」
「彼女って言いたいのか?」
「だってそうじゃない」
「お前とは確かに付き合ったことがある。だが、もうすでに別れたはずだ」
「私は別れた気は無いわ」
「雫、陸。行くぞ。こいつに説明してもムダだ」
聖慈はこれ以上元カノに説明してもムダだと判断し家に帰ることにした。
雫と陸を立たせ歩き始めたときに元カノが聖慈の手を掴まえた。
「どうして?もっと話しましょうよ」
「俺はお前と話すことは何も無い」
「いいじゃない。どうせ暇なんでしょ?」
聖慈は何言ってもムダだと考え元カノを無視して歩き始めた。
雫が聖慈の隣に並ぼうとした瞬間に雫を元カノが侮辱し始めた。
「あんたのせいよ!あんたみたいな子供が聖慈君に付きまとってるから聖慈君が困ってるんじゃない!」
「え?」
「あんた、どっか行きなさいよ!聖慈君はこれから私と遊ぶんだから」
そういって雫を突き飛ばした。
雫がこけそうになったが聖慈がこける前に雫を抱きかかえた。
雫は聖慈にお礼を言おうと思い顔を見上げたが声が出なかった。
それほど聖慈の顔は怒りで満ちていた。
「お前いい加減にしろよ」
「だってその子がいるから私と遊んでくれないんでしょ?」
「お前が嫌いだから遊ばないんだよ!」
元カノはその言葉にショックを受けた様子もなくまだ聖慈に話しかける。
「何言ってるのよ。私達は恋人同士なんでしょ?」
「それは昔にとうに終わってる。それからお前は俺がここで何してるか気になっていたな」
聖慈はそういって陸を抱き上げ雫の肩を引き寄せた。
いきなり引き寄せられた雫は顔が赤いが聖慈は気にせずに元カノに言う。
「家族サービスだよ。お前これ以上俺らの時間を台無しにしてみろ。殴るだけじゃ済まないからな」
そういってそのまま公園を出ていく。
元カノは呆然とその後姿を見送っている。
聖慈は部屋に着いてまず雫と陸に謝罪した。
「悪かったな、二人とも。せっかく楽しい時間を過ごしてたのに台無しにしてしまって」
「ううん。悪いのはあの人だよ。お兄ちゃんは何度も邪魔するなって言ってたのに気づかなかったあの人がいけないんだよ」
雫は聖慈が悪いんではなくあの女の人が悪いのだと言った。
陸はすでに気にしていないようで雫に昼食をせがんでいる。
「しずくねーちゃん。ぼくおなかすいた」
「すぐ作るから待っててね」
雫と陸は二人連れ添って台所に消えた。
二人の後姿を見送って聖慈はため息をついた。
まったくあの元カノには付き合っていた頃から苦労させられる。
少しでも他の女性と話しただけで嫉妬する。
さらに聖慈が元芸能人と知っていたのだろう。
どうしても聖慈を芸能界に戻したいようで勝手にオーディションに応募をするほどだった。
聖慈はそんなエスカレートしていく元カノの行動に耐えれなくて別れたのだ。
元カノはそんなつもりはなかったようだが聖慈にはもう気持ちなど残っていない。
それどころか雫を侮辱したのだ。
かなり鬱憤がたまっているが台所を見ると雫と陸が楽しそうに昼食の仕度をしている。それを見て鬱憤が晴れたようで聖慈にも笑顔が戻った。
昼食の間も陸は雫に話しかけている。
雫も陸の口の周りを拭いてあげるなどいい母親を演じている。
昼食後、雫と陸はリビングで遊び聖慈は自分の部屋で仕事を始めた。
聖慈が仕事を始めたときはリビングのほうが楽しそうに騒いでいたが1時間ぐらいすると静かになった。
仕事が一段落した聖慈がリビングに戻ると雫と陸が手をつないで幸せそうに眠っている。
恐らく最初に陸が眠り、手をつなげていた雫も睡魔に負けて眠ったのだろう。
聖慈は部屋に戻り毛布を二人の上にかけてあげた。
聖慈は雫の顔を見て笑みを零した。
最近雫の寝顔を見る機会をなくしたから新鮮な気持ちになったのだ。
そして雫の寝息がこぼれる唇から目が離せなくなった。そしてその唇に触ろうと手を伸ばした。
だが、雫が「うぅ〜ん」と寝言を言ったのを聞いたので聖慈は「はっ」と自分の今の行動を咎めた。
聖慈は自分を苦笑し雫とは反対側の陸の隣に横になった。
雫と陸の寝顔をみていた聖慈だがいつしか聖慈も夢の中に入っていった。
雫が目を覚ましたときに目の前には聖慈の寝顔があった。
雫は驚いて声をあげそうになったが間に陸が寝ていたのでなんとか声を出さずに我慢した。
「何故自分がリビングで寝てるのだろう」と疑問に思ったが陸の寝顔と昼間の陽気に負けて寝たのだろうと自覚した。
そして起き上がろうと思ったが陸が自分の手を握ってることに気づきとりあえず起こさないようにまた横になった。
そして自分の目の前にある聖慈の寝顔を見た。
寝顔を見ていると自分の心臓がはやくなるのが分かる。
そして聖慈の顔を触ろうと陸が握っている手ではないほうを伸ばして今にも触ろうかというときに聖慈が目を覚ました。
「あれ?雫なにしてんの?」
「え!?」
「俺の顔に何かついてる?」
聖慈は自分の顔を触っている。
それを見て雫はその言葉に乗ることにした。
「そうそう!ゴミがついてたからとろうと思ってたの」
「え?マジで?」
そういって聖慈は自分の顔を見に洗面所に行った。
雫は聖慈の後姿を見送って安堵のため息をついた。
そして陸の手を離して夕食の仕度のため自分も起き上がった。
雫が何をつくろうか迷っていると聖慈が戻ってきた。
そしてメニューを考えている雫に話しかけた。
「雫。今日はどっか食べに行かないか?」
「え?」
「たまにはいいだろ。お前も毎日食事の仕度は大変だろ」
そして、聖慈と雫は陸を起こして近くのファミリーレストランに行くことにした。
聖慈はステーキを、雫はパスタを、陸はお子様ランチをそれぞれ頼んだ。
聖慈はメニューを頼んで回りを見渡すと一人見覚えのある男を見かけた。
向こうも聖慈に気づいたのか手を上げてこっちに近づいてきた。
その男は彰人だった。
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蘭様、誤字報告ありがとうございました