第十九話 兄の怒り
この話には未成年の飲酒の記述があります
お酒は20になってから飲みましょう
聖慈と雫はお互い見つめ会ったまま固まっている。
その二人を見て彰人は話しかけた。
「あれ?伊集院。彼女と知り合いなのか?」
「まぁな」
聖慈はそういって雫のとなりに座っている男に話しかけた。
「悪いけどその席変わってくれないか?」
「あ?何言ってんだ?」
「な?頼むって」
聖慈の言葉は低姿勢だったがその顔には怒りの表情が浮かんでいる。
雫はその聖慈の顔を見ておびえている。
まさか、聖慈と同じ合コンに来るとは思っていなかったのだ。
「悪いけど変わってやってくれないか?」
聖慈と男が睨みあっていると彰人が助け舟を出した。
男は彰人に頼まれたので仕方なく席を移動した。
聖慈が雫の隣に座ったのを優奈が見かけて声をかけた。
「あれ?聖慈さん。なんでこんなところに?」
「彰人に頼まれてね。人数合わせだよ。ところで…」
聖慈は優奈に笑顔で話しかけていたが雫に向き直ったときには笑顔の下に怒りの表情が見えた。
優奈はその顔を見てこれ以上は話しかけないようがいいようだと思い食事を再開した。
「雫さん。友人と遊んでるはずの君がどうしてこんなところにいるのかな?」
「えっと〜…、私も友達に頼まれて…」
「ふ〜ん。じゃあどうして君がお酒を飲んでるのかな?」
「あのね、その…」
「うん?何?」
聖慈は満面の笑顔を見せて雫に尋問をしている。
それを見て雫はもう逃げれないと思った。
そこに雫に酒を勧めた男が戻ってきた。
「おい!雫ちゃんが困ってるだろうが!」
「雫?こんな奴に『ちゃん』づけさせてるの?」
聖慈は男が『雫ちゃん』と呼んでるのを聞いてムカッと来た。
雫はまだ困っている。
「雫ちゃん、こんな奴なんか放っといて俺と二人で抜け出さない?」
「ごめんなさい、それは無理です」
雫はその言葉はすぐに否定した。
そして聖慈に向き合った。
「お酒を飲んでごめんなさい!」
「うん。分かればいいんだよ。じゃあこのビールは俺がもらうね」
そういって聖慈は雫が持っていたビールを飲んだ。
そのビールは雫が一口飲んでいたので間接キスになる。
そんなことを知らない聖慈はゴクゴクとおいしそうに飲んでいる。
その横で雫は間接キスだと気づき赤くなっている。
男はそんな光景が面白くないようで聖慈に敵意の視線を送っている。
聖慈は男の視線に気づいてるが無視して雫や優奈に話しかけている。
そこに女性陣が集まってくる。
「ねぇ、伊集院さんそんな子供より私達と飲みましょうよ?」
「そうですよ〜」
聖慈はそんな女性陣を笑顔で交わしている。
「いえ、俺はここでゆっくりこの人たちと食事をしてますよ」
「えぇ〜何でですか!」
「そんな子供のどこがいいのよ!」
その言葉に今までゆっくり食事をしていた聖慈がキレた。
「あなたたち今の自分達の姿を鏡で見てみてください。とても醜い姿を見れることでしょうね。私が言ったことが気に障ったのなら謝りますがこの子達を馬鹿にするのは許せない」
そういって聖慈は女性陣を睨みつけた。
そして財布の中からお金を取り出して立ち上がった。
「おいおい、伊集院。もしかしてもう帰る気か?」
「言ったはずだろ?俺は気にくわないことがあったら帰るって」
「いや、だからって来たばっかで」
彰人が聖慈を引き止めてると雫に酒を勧めていた男が割り込んできた。
「いいじゃないか、彰人。帰りたい奴は帰らせれば」
「ほら。そういってる人もいるんだしね」
「おい、伊集院!」
聖慈は彰人が止めるのを聞かず帰る仕度を終えた。
「雫。帰るぞ」
聖慈は当然の如く雫に帰るように言った。
その言葉にまた男が気に触ったようで聖慈に詰め寄った。
「おい!雫ちゃんはまだここにいるんだよ!一人で帰れ!」
「悪いけどそれは無理だな。俺は雫の両親に雫を頼まれてんだ。まぁ、雫がここにいたいんなら別にいいけどね」
聖慈は雫が帰るのかここに残るのか問いかけた。
すでに雫の中では答えは決まってる。
「帰るからちょっと待って」
そういって雫も帰り支度を始めた。
聖慈は続いて優奈にも話しかけた。
「優奈ちゃんはどうする?」
「一緒に帰ってもいいですか?」
優奈も雫と一緒に帰り仕度を始めた。
二人が帰り仕度をしている間聖慈は携帯で誰かとメールのやりとりをしている。
二人の帰り支度を終えたのを確認して聖慈は二人を店から出して彰人と春美に向き合う。
今まで二人と話してた聖慈の顔とは一転してその顔には怒りの表情が浮かんでいる。
「人数合わせにあの子達を使っていいのか?あの子達の友人もこの中にいるんだろ?」
聖慈に問いかけられて夏美が手を上げた。
聖慈は夏美にも厳しい視線を送る。
「別に君が何しようと俺は構わない。でも、あの子達をもうこんな場所に連れてくるのは止めてくれ。それから君ももう帰りなさい」
聖慈が言った事を夏美はコクコクと頷いている。
さらに聖慈は雫に酒を勧めた男をにらみつけた。
「おい、お前も断られたのに酒を勧めるのは止めろ。雫は最初断ってたんじゃないか?」
「確かに断られたがおいしそうに飲んでたからいいじゃないか!もう21なんだろ!」
聖慈はその言葉を聞いて呆れたように彰人と春美に向きあった。
「年を誤魔化してたのか?」
彰人は何がなんだか分からない顔をしてたので知らなかったのだろう。
春美は申し訳ないように顔を下げた。
それを見て、聖慈はため息をつき男に向きなおした。
「あの子達は18だ。それにその子も友達だから18だろ」
男はその言葉に顔が青ざめていく。
その顔を見て聖慈は店の外に出て行く。
残ったメンバーは困惑の表情を浮かべている。
彰人が慌てて聖慈の後を追ってくる。
「伊集院!」
聖慈は彰人を振り返った。
聖慈は彰人は何も知らされていなかったのだと分かってるのでもう彰人に対する怒りは無い。
「悪い!俺何も知らなくて…」
「分かってるって。さっきのお前の顔見てたら分かるよ」
彰人はその言葉に安堵のため息をついた。
そしてさっきから気になってることを聞いてみた。
「お前あの子達と知り合いなのか?」
「お前覚えてない?俺の妹の雫」
彰人は昔の事を思い出していた。
そういえば高校のときに聖慈の家に遊びに行ったときに妹がいた気がする。
「あぁ、若干うろ覚えだけど覚えてるよ」
「さっきの雫だよ」
「じゃあ、もう一人は?」
「あの子も知ってるからな。それに彼氏の事も知ってるし」
彰人はそれで今までの聖慈の行動に納得できた。
あんなに聖慈が女性のことを守るのは珍しいからだ。
「じゃあ、雫たちが待ってるから帰るわ」
「あぁ、悪かったな。二人にも謝っててくれ」
「了解」
そういって二人は分かれた。
彰人は聖慈の後姿を見ながら思った。
さっきの聖慈の姿は嫉妬をしていた気がする。
妹を守ってるというよりも好きな人に馴れ馴れしい行動をとる男に対して嫉妬をしている行動に見えた。
「まさかな」と思いながら彰人は友人達が待つ元のテーブルに戻った。
聖慈は彰人だからこそ全てを説明してくれたのだと彰人は思った。
だからあの友人達に説明してはいけない気がした彰人は頭を掻きながら友人達のところへ戻っていった。
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