第十六話 妹の誤解
聖慈達は校舎内を一通り見回った後どこに行くか相談していた。
すると智子が雫を見てみたいと言い出した。
「さっき話に出たから私も見たい。いいでしょ?」
聖慈としては別に断る理由もないので雫のクラスに向かった。
教室にはすぐに入れた。
聖慈と智子と陸が案内された席に座ると一人の女子生徒が向かってきた。
「聖慈さん!久しぶりですね」
「優奈ちゃんも相変わらず元気そうだね」
優奈は聖慈のことがすぐに分かったようで注文を受けにきたようだ。
「雫は?」
「今休憩中なんです。呼んできましょうか?」
「是非お願いします!」
二人の会話に智子が割り込んできた。
いきなりの乱入者に聖慈は苦笑いを優奈は驚いている。
「聖慈さん、こちらの方は…?」
「あ、ごめんなさい。この学校の卒業生です。こっちは私の息子の陸です」
「雫の話題が出たら会いたいって言い出してさ…。悪いけど雫呼んできてくれる?」
「分かりました。ちょっと待っててくださいね。あ、先に注文取りますね」
聖慈と智子はコーヒーを、陸はオレンジジュースを頼んだ。
優奈は注文をとりその注文を男子生徒に告げた後、裏に雫を呼びに行った。
「あのな〜、お前もう少し考えろよ」
「え?何を?」
「知らない人に急に話しかけられたらどんな人でも驚くに決まってるだろう」
「それもそうだね〜」
智子はそういって「あははっ」と笑ってる。
聖慈はそんな智子を見て頭を抱えた。
「これでも本当に一児の母親か?」と思うほど智子は天然だ。
そんな智子の旦那さんを同情する聖慈だった。
「ねぇ〜まま。ぱぱは?」
「さっきメールしたからもうすぐここに来るわよ」
「へ?いつのまに?」
「伊集院君がさっきの知り合いの子と話してる間よ」
聖慈と智子が話してると優奈が雫を連れて戻ってきた。後ろには山本もいる。
雫の様子が何だかおかしいことに気づいた聖慈だったがとりあえず声をかけた。
「よぉ雫。なんで今日文化祭だって言ってくれなかったんだ?」
「…今まで来なかったから別にいいかと思って」
「こいつから電話がなかったら俺知らなかったよ」
そう言って聖慈は智子を指さした。
そんな些細なことでも今の雫にはショックが大きい。
雫が落ち込んだのが分かった聖慈が雫に声をかけようと思ったとき智子が先に声をかけた。
「あなたが雫ちゃんね。話は聞いてるわ」
そういって雫の手を掴む智子に雫は呆気に取られてる。
そんな雫に気づかないのか智子はさらに話を続ける。
「ずっと話は聞いてたけど会ったことないからすごく会いたかったのよ」
雫はいまだ呆然として智子のほうを見つめた後、聖慈に助けを請うような視線を送った。
聖慈は雫に視線に気づいて智子に自己紹介するように言った。
「あ、ごめんなさいね。名前も言わずに。私の名前は…」
「あ!ぱぱだ〜〜!」
智子が名前を言おうとしたときに陸が突然立ち上がり教室のドアに向けて走り出した。
その先には一人のスーツ姿の男が立っていた。
その男は陸を持ち上げ聖慈達のテーブルに近づいてきた。
「悪いな、聖慈。こいつらを連れてきてくれて」
「別にいいよ。俺も暇だったし」
「陸がどうしても今日文化祭に来たいって言い出したからな。智子一人だったら心配だったからな」
「それで俺に付き添いを頼んだってことか」
「まぁ、そういうことだ」
「ふぅ〜ん。ん?」
聖慈は周りがやけに静かだなと思った。
その教室にいる聖慈、大竹、陸、智子を除く全員が固まっている。
みんな大竹と大竹が抱えている陸に視線が釘付けになっている。
「雫?どうした?」
とりあえず聖慈は雫に話しかけた。
だが話しかけた雫ではなく優奈が口を開いた。
「え〜〜〜!?大竹先生結婚してたんですか!?」
「まぁな」
大竹は耳を塞ぎながら答えた。
「教え子と結婚してしかも子持ち!?」
「まぁ、そういうことだな」
雫はそんな二人の言葉を聞きながら智子が聖慈の彼女ではないということに安心していた。
そして今日始めて聖慈に満面の笑顔を見せた。
そんな雫の笑顔を見て聖慈も笑顔を見せた。
山本はそんな聖慈と雫を見て面白くない顔をしてまたどっかに行ってしまった。
それから大竹と智子の話で喫茶店どころの話ではなくなった。
大竹と智子が出会いなどを話してる間陸は雫に付きっ切りになっていた。
終いには「雫と結婚する」とまで言うようになった。
これには大竹と智子、聖慈は爆笑し雫は困ったように笑った。
文化祭終了後、聖慈と雫は近くのレストランで食事をとった後部屋に戻った。
風呂に入ろうと立った聖慈だが文化祭で雫の様子がおかしかったことがまだ気になっていたので雫におかしかった理由を聞いてみた。
「ところで、雫?」
「え?何?」
「今日なんかおかしかっただろう?なんかあったのか?」
「え!?別にどうもしてないよ」
雫は「まさか智子が聖慈の彼女かと思って嫉妬してました」とは言えないのでなんとかごまかそうとした。
聖慈は雫がごまかしてるのがすぐに分かったが重大なことではないのだろうと思いそのまま風呂に入っていった。
雫はそんな聖慈の後ろ姿を見て安堵の息をついた。
そして今日智子と別れる際に言われた言葉を思い出していた。
「雫ちゃん。伊集院君のこと好きでしょ?頑張ってね」
「え!?何言ってるんですか!?」
「ん〜、じゃあこれから言うことは私の独り言と思って聞いてね」
「…」
「まずね〜、伊集院君だけどあんなに女性のことを心配してたのは珍しいと思ってね。妹ということもあると思うけどそれ以外にもなんかある気はするんだけどな〜」
「…」
「次に雫ちゃんだけど、今日私に嫉妬してたでしょ?私には分かるよ〜。私もそうだったからね」
「え?どういうことですか?」
「私も結婚するまでは嫉妬ばっかしてたし、相手は私よりも大人の人でしょ?だからどうしても大人ぶってしまうのよね〜。料理を頑張ったりね」
雫は思い当たる節があるのか頷いてしまった。
そんな雫の様子を見て智子は笑みを浮かべながら話を続けた。
「でもね、あの人が言ってくれたの。そんなに急いで大人になる必要はないって。いつでも大人になれるんだから今を大事に生きて欲しいって」
雫は智子の言葉に聞き入っている。
さらに智子は言葉を続けた。
「それから私は私らしく生活しようと思ったの。そうするとあの人はそんな私を受け入れてくれたの。だから雫ちゃんも雫ちゃんらしくしてればいいのよ。伊集院君もそんな雫ちゃんも受け入れてくれると思うわ」
「でも…」
「もしかして年の差を気にしてるのなら全然問題ないわ。だって私と先生は10歳違うのよ。だから大丈夫よ」
雫は智子の言葉に勇気をもらった。
聖慈への気持ちがどういうものかは雫自身掴めていないが雫らしく生きていこうと思った。
雫は智子と連絡先を交換して分かれた。
雫は布団に入った間も智子の言葉を繰り返し思い返していた。
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