第十五話 妹の文化祭
聖慈と雫が一緒に生活を始めて一ヶ月が過ぎた。
雫は最後の高校生活を中心にこの1年を過ごしたいようで学業優先で女優業をしている。
聖慈と雫は可能な限り一緒にご飯をとるようにして、朝食の時にはその日の予定を話し合ったりしている。
次の日に朝早く仕事があるときは夕食のときに話すようにしている。
今日は日曜日。
聖慈は昨日夜遅くまで借りてきたDVDを見ていたので朝起きたのは8時を過ぎたころだった。
聖慈はリビングに向かったがいつもはそこにいるはずの雫の姿が見当たらない。
「おかしいな」と思った聖慈だが昨日の夕食のときの会話を思い出して納得した。
昨日の夕食のときに雫はこう言っていた。
「お兄ちゃん。私明日ちょっと学校に用事あるから朝ごはん先に食べるね」
「明日は日曜日だろ?なんで学校になんか行くんだ?」
「ちょっとね…」
「ふぅ〜ん。まぁいいや。帰りはいつごろになるんだ?」
「まだ分からないよ。友達と遊んだりするかもしれないから遅くなると思う」
「分かった。なるべく早く帰るようにしろよ」
「うん」
聖慈はそのことを思い出して自分の食事の準備して朝食をとった。
聖慈が自分の皿を洗ってると聖慈の携帯電話が鳴った。
ディスプレイには『智子』と出ている。
智子というのは聖慈の高校のときの同級生だ。
彼女は聖慈が芸能界にいたときも芸能界を辞めたときも特に気にせずに一人の「伊集院聖慈」として接してくれた数少ない友人の一人だ。
珍しいなと思いながら電話に出た。
電話から30分後聖慈は駅前にいた。
智子に電話で呼び出されたのだ。
聖慈が携帯をいじってると足に衝撃を受けた。
足のほうを見ると5歳ぐらいの男の子が足に引っ付いて聖慈の方を見上げている。
聖慈はその子供のことをよく知ってるので抱き上げた。
「陸!久しぶりだな。今いくつだ」
「もう5つだよ。せいじもげんきだったか」
「『せいじ』じゃなくて『せいじにいちゃん』だろ」
「おまえなんかせいじでじゅうぶんだい」
二人が話してると陸の母親がこっちに近づいてきた。
「ごめんね、急に呼び出して」
「いや、俺も暇だったから別に構わないさ」
陸の母親は智子だ。
彼女は20の誕生日を迎えるとすぐに結婚し、陸を産んだ。
その智子からの今朝の電話の内容はこうだ。
「今日、私達の高校で文化祭があるらしいんだ。それで、陸も連れて行きたいんだけど伊集院君今日暇?よかったら付き合って欲しいんだけど?」
聖慈は雫が今日学校に行く用事は文化祭だったのか。雫の学校での姿を見たことが無い聖慈は二つ返事でOKを出した。
というわけで二人は高校に近い駅で待ち合わせをしたというわけだ。
「じゃあ行くか?」
「そうね。丁度催し物も始まった頃だと思うし」
聖慈と智子の間に陸が入り、聖慈と智子と手をつないだ。
その絵はいかにも「家族」という感じだ。
二人が高校に着くとすでに文化祭は始まっておりそこの高校の生徒や父兄、それに外部の生徒達で溢れ返っていた。
「うわ〜、すっげぇ人だな」
「私達のときはこんなに人はいなかったのにね」
聖慈は陸が迷子にならないように肩車をして校舎の中に入った。
聖慈と智子が校舎の中を進んでいるとやけにこっちを睨んでくる男子生徒を見かけた。
「ねぇ、伊集院君をえらい睨んでる生徒がいるけど知ってる?」
「いや、卒業してからはあまり来てないしな」
聖慈と智子が話してるとその男子生徒はこっち側に睨みながら歩いてきた。
聖慈と智子の目の前に来ると男子生徒は止まって聖慈を睨みつけながら話しかけてきた。
「あんた妻子持ちだったのか。じゃあ伊集院から手を引けよ」
聖慈はその言葉でこの男子生徒のことを思い出した。
この生徒は以前雫を迎えに来たときに聖慈に文句を言ってきた奴だ。
確か名前は…山本だった気がする。
「あんたこの人の奥さん?あんたの旦那さん女子高生に手出してるよ」
智子は何が何だか分からないようで聖慈の方を困ったように見てくる。
聖慈はその視線を受けて苦笑いを零した。
そして山本のほうに向き返した。
「悪いけど俺ら来たばっかだからいろんな所を見たいんだ。じゃあな」
そういって聖慈は山本の横を通り過ぎた。智子もその聖慈の後を追っていった。
山本は聖慈の後ろ姿を睨みつけていたがすぐに自分の教室のほうに向かっていった。
智子は聖慈の横に並びながら話しかけた。
「伊集院君、女子高生に手出したの?」
「そんなわけないでしょうが。あいつが言った生徒の名前は?」
「え?確かイジュウインって。あれ?もしかして」
「そ。あいつが言ってたのは俺の妹の雫だよ」
智子はまだ雫本人に会ったことがないが聖慈や智子の旦那から話は聞いていたので雫の存在自体は知っていた。
「じゃあ、妹に…」
「なんでそうなるかな…。迎えに来たときにちょっと虫除けをしただけだよ」
「なんだそうなんだ」
聖慈と智子はそんな言葉を交わしながら懐かしい校舎を見て回った。
そのころ雫のクラスでは喫茶店を催していた。
女子生徒がウェイトレスとして注文をとり、男子生徒が厨房でコーヒーや紅茶を作るのだ。
雫が休憩をとっていると山本が教室に戻ってきた。
山本はすぐに雫のそばにやってきた。
「おい、伊集院。この前迎えに来てた男が来てるぞ」
「え?お…聖慈さんが?」
雫は学校では『お兄ちゃん』ではなく『聖慈さん』として呼ぶようにしている。
この前聖慈が迎えに来てたときの騒動を見ていた友人のアドバイスだ。
その友人の名前は優奈。
彼女は雫の小さい頃の幼馴染で聖慈や優慈とも面識がある。
だから聖慈の行動が虫除けと分かり、雫に学校では『聖慈さん』と呼ぶようにアドバイスしたのだ。
雫は芸能人ということで人気もある。それに加えて、誰にも優しいので勘違いする男子生徒がたくさんいるのだ。
だが、聖慈の行動と優奈のアドバイスによってその数はだいぶ減ってきている。山本のようにまだ諦めきれていない生徒もいるようだが。
「あぁ、奥さんと子供と一緒にな」
「え?聖慈さんには奥さんなんかいないよ」
「お前がそう思ってるだけなんじゃないか?現にあいつは女の人と子供が一緒だったぜ?」
雫はその言葉にショックを隠し切れないようだ。
当然聖慈に子供がいないことは雫は知っている。
だが、彼女という存在はいるかどうかはよく分からない。
雫がショックで呆然としていると表で注文をとっていた優奈が雫を呼びに来た。
「雫!聖慈さんが来てるよ!」
雫はその言葉にビクっと反応した。
優奈は雫の反応がおかしいことに気づいた。
いつもならすぐに聖慈の所に行くはずなのに何故今日は行かないのだろう…
優奈はもう一度言葉をかけた。
「雫?どうしたの…?」
「ねぇ…優奈ちゃん。聖慈さん一人だった?」
「ううん。友達と友達のお子さんと一緒だったよ?」
「そう…」
雫はその言葉にもう一度落ち込んでしまった。
優奈は雫のその落ち込みように違和感を感じた。
とりあえず雫を聖慈さんのところに連れて行かないと話にならないと考えた優奈はもう一度言葉をかけた
「何があったかは知らないけど聖慈さんは雫が来るのを待ってるよ?私も一緒に行くからさ、ね?」
雫は優奈のその言葉にうつむいていた顔を上げた。
そして前を見ると笑顔の優奈の顔が見えた。
その顔を見て勇気が出た雫は優奈と一緒に聖慈のところに行った。
山本もその後ろをついていく。
あとがきはYAHOO!blogで書いております
興味があればお越しください
URL↓↓
http://blogs.yahoo.co.jp/in_this_sky