第十四話 兄と妹の同居生活開始
聖慈は章吾の目の前に座った。
「何?話って?」
「お前の生みの親のことなんだが…」
聖慈はその言葉に驚いている。
確かに章吾から実の子供ではないと聞かされたときには気になっていたがもう8年も前のことだ。
今更生みの親について何の話があるというのだろうか。
「俺の生みの親がどうかしたのか?」
「この前託児所から連絡があってな。今更ですがお前をここまで大きく育てていただいてありがとうございますって連絡があったらしい」
「本当に今更だな…」
今更「私が生みの親よ」なんて言われても困るのが率直な感想だ。
聖慈にとって親とは章吾と真美の二人なのでこんな話はどうでもいい。
「話はそれだけか?」
「あ、あぁ。悪いな引き止めて。」
聖慈が部屋から出て行こうとしたがさっきの質問をもう一度聞きなおそうと考えた。
さっきは皆いたので二人きりで率直な意見を章吾の口から聞きたかったからだ。
「なぁ、親父」
「うん?どうした」
聖慈は席をたったがもう一度座って章吾に話しかけた。
「本当にいいのか?俺が雫と一緒に暮らしても」
「どうした?またそんなことを聞いてきて?」
「さっきは雫がその場にいたからもしかしたら本当のことを言えなかったんじゃないかなと思って」
章吾が気をつかったんではないのかと聖慈は考えていた。
章吾はそんな聖慈の姿を見て少し嬉しかった。
そういった大人の気遣いができるようになったのだと聖慈の成長が嬉しかった。
「さっきも言ったとおり俺はお前だったら構わないよ」
「そうか」
聖慈はその言葉に安堵の表情を浮かべた。
その顔を見て章吾はさらに言葉を続けた。
「お前だったら雫を傷つけたりしないだろう?雫のことを大事に思って行動もできる。雫も聖慈のことを頼りにしてるのは見てて分かるからな」
「まぁ…雫の泣き顔は見たくないからな」
「だろ?だからお前にだったら任せれるんだ」
章吾の言葉に聖慈はこれからの自分の生き方に責任を感じた。
これから自分が雫を一番近くで守っていくことになる。
今までは章吾と真美という親がいたから困ったときは二人に聞いたこともあった。
だが、これからは章吾も真美も日本にはいない。
ということは優慈と雫の親代わりとは言わないが支えていくことになるのは確かだ。
聖慈のそんな不安を感じたのか章吾は聖慈に声をかけた。
「そんなに気張る必要はないさ。お前はお前らしく二人を支えていけばいい。優慈ももう一人前だよ。困ったときは二人で力を合わせて雫を支えていけばいいんだよ。誰だって最初から親になれるわけではないんだから」
聖慈はその言葉に救われた気がした。
確かに聖慈は聖慈だ。どんなに頑張ったって章吾や真美になれるわけではない。
だから聖慈らしく二人を支えていけばいいんだと気づいた。
「そうだな…。確かに親父の言うとおりだ。俺は俺だ。俺らしく二人を支えていくよ」
「それでいいんだよ。お前は今でも十分二人の心の支えになってるよ」
「そうだといいんだけどね」
それから二人が世間話をしていると準備を終えた雫たちが合流してまた家族団らんの時間が始まった。
聖慈と優慈がふざけあっている。
雫がそんな二人を笑いながら止めている。
章吾と真美が3人を見て微笑んでいる。
そんな時間がその日の夜遅くまで続いた。
次の日の朝、優慈は仕事のため先に家を出た。
優慈を除く家族全員で朝食を食べ、聖慈と雫は家に帰ることにした。
「聖慈。俺の車使っていいぞ。どうせ向こうでは使えないからな」
「本当に?じゃあありがたく使わせていただくわ。丁度車を買おうかと思ってたし」
章吾から車を譲り受けた聖慈は雫の荷物を車に載せた。
「じゃあ、明日は見送りに行かなくていいんだろ?」
「あぁ、ちょくちょく帰ってくるからな。別に見送りが欲しい年でもないしな」
「確かにそんな年ではないな」
聖慈と章吾が話してると真美と雫が歩いてきた。
「じゃあ聖慈。雫のことよろしくね」
「分かってるって」
「お父さんもお母さんも気をつけてね」
「分かってるよ。じゃあまた今度な」
「あぁ。また今度」
そういって聖慈は運転席に、雫は助手席に乗り込んだ。
雫がシートベルトを締めたのを確認して聖慈は車を発進させた。
聖慈が運転している車が見えなくなった後真美が章吾に笑いながら話しかけた。
「あの二人これからどうなるか楽しみね」
「まぁな。兄妹の枠から出れるかが鍵だろうな。後は聖慈の行動一つだろうな」
「今度帰ってくるときが楽しみね」
そういって二人は仲良く明日に向けての準備をするために家に入っていった。
聖慈と雫は途中で昼食の買い物をして聖慈の部屋に入った。
「じゃあ雫はこの部屋を使ってくれ。自由に使ってくれて構わないから」
「うん。ありがとう。…あ、お兄ちゃん」
「うん?どうした」
雫の部屋から出て行こうとした聖慈を雫が引き止めた。
「これからよろしくね」
「あぁ、こっちこそよろしくな」
こうしてまた聖慈と雫の同居生活が始まった。
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