第十二話 母の愛
車の中では沈黙が流れている。聖慈は雫の様子を盗み見ると少し機嫌が悪そうだと感じた。
「あの〜、雫?どうした?」
「どうしたもこうしたもないよ。あんな事言ってから。今度学校に行くときにどんな顔をしていけばいいのよ。」
「いいじゃないか、別に。間違ったことは言ってないんだから。な?」
「それはそうだけど・・・」
「仲の良い友達だけに俺が兄貴だってこと伝えればいいじゃないか。それで友達の誤解とけるさ。もし、信じてくれなければ大竹先生に聞けばすぐに分かるって言えよ。俺がお世話になった先生だから写真見せてくれるさ。今でもときどき会ったりするしな。酒も一緒に飲みに行くし」
「分かった。じゃあそうする。」
大竹というのは聖慈が通っていたころから高校にいる先生だ。
聖慈が芸能界にいたころから特別扱いせずに接してくれて、芸能界を辞めたときも何も言わずに勉強を教えてくれた恩師だ。今では酒飲みの友達と化している。
とりあえず雫の機嫌が直ったことに聖慈は一安心した。
実際聖慈をここまでうろたえさえる事ができるのは雫のみだが聖慈や雫自身はまだ気付いてない。
とりあえず聖慈は家に向けてアクセルを踏んだ。
聖慈達が家に着くと丁度優慈達が買い物に帰ってきたところだった。聖慈は車を止めると雫と二人に近づいた。
「ただいま。今さっき着いたのか?」
「おかえり。あぁ、ついさっきだよ。兄貴は雫を迎えに行ってきたのか?」
「あぁ、親父に頼まれてな。」
聖慈と優慈が袋を持って家のほうに向かって歩き始めた。優慈の横を雫が、その二人の後ろを聖慈と真美が歩く。
歩き始めてすぐに真美が聖慈を呼び止める。
「聖慈。ちょっといい?」
「何?」
「あんた、雫になにかした?」
聖慈は真美の言葉に驚いた。
確かにさっき校門のところでいろいろあったが車に乗ってる間に雫の顔からは照れや動揺は無くなった。
いや、聖慈には無いように見えていただけなのかもしれない。
「さすが母親だな」と聖慈は感心してまった。
「まぁ、いろいろと・・・。でも何で分かった?」
「あんた自分で気付いてないの?あんたさっきから雫をちらちら見てるでしょ?反対に雫も聖慈をちらちら見てるし。これは何かあるって分かるわよ。で、何したの?」
「あぁ〜・・・、愛の告白と虫除け?」
「は〜、だからね・・・。」
「へ?だからって分かってたの?」
「まぁね。雫があんたを見る目が前と違う気がしたのよ。」
「違うってどういう風に?」
「さぁね。自分で考えなさい。」
「ちょっと待って・・・」
真美は聖慈を置いてさっさと玄関のほうへ歩いていった。聖慈はその場で足を止めて考え始めた。
「見る目が違う?今までは兄だろ。じゃあ今は?」
真美は聖慈が考え込んでる姿を見て顔に笑みを浮かべた
(雫の目はさしずめ「恋する女子高生の目」ってところよね。まぁ、聖慈も妹の他にも違う目で見てるけど気付いてない所を見ると自覚なしね。聖慈に「お嬢さんをください」って言われるのも良いかもね。ま、籍をどうにかしないといけないけど。)
真美が笑いながら玄関に入ると優慈と雫が玄関で待っていた。
真美が玄関で靴を脱いでも聖慈が入ってこないのを見ると雫が真美に尋ねてきた。
「お母さん。お兄ちゃんは?」
「ちょっとね。悪いけど雫、呼んできてくれない?」
「え?・・・分かった。」
雫が聖慈を呼びに玄関の外に出たのを見計らって優慈が真美に話しかけた。
「お袋。一体何考えてんの?」
「べっつに〜♪しいて言えば家族のことかな」
それだけ言うと真美はさっさと家の中に入っていく。その後ろを優慈は納得できない様子で後ろをついていく。
雫が聖慈を呼びに出ても聖慈はまだ先ほど真美に言われたことを考えていた。
うんうん言いながら考えこんでる聖慈を見て雫は笑みをこぼした。雫は聖慈にゆっくりと近づいて声をかけた。
「お兄ちゃん?」
雫が声をかけても聖慈は聞こえてないのかまだぶつぶつ言いながら考え込んでいる。
雫はムッとしながらさっきよりも大きい声で聖慈を覗き込んで声をかけた。
「お兄ちゃん!もぅ〜お兄ちゃんってば!!」
「うわ!?」
今考えていた雫の顔が目の前に出てきて聖慈は驚いた。雫も聖慈がそんなに動揺するとは思ってなかったらしく、声をかけた雫自身も驚いた。
「雫!?あれ、お袋は?」
「何言ってるの。もう先に玄関に入ってるわよ。お母さんに頼まれてお兄ちゃんを呼びにきたの。ところでさっきから何考えてたの?」
「うぇ!?いや別に、ハハハ・・・」
「そう・・・。」
まさか「お前のこと考えてた」とは言えないので聖慈は困り果てた。
とりあえずごまかそうとしたが雫の顔が寂しそうになっていくのを見てさらに慌てた。
「いやいやいや、ホントになんでもないんだって。」
とりあえず聖慈は雫を慰めようと思い、雫の肩を掴み目と目とあわせながら言った。
すると、雫の顔がみるみるうちに真っ赤になり視線を逸らされた。
聖慈は雫の顔が何故真っ赤になるのか分かってないがそれよりも視線を逸らされたことにショックを受けた。
「分かったから手離して!」
雫がそういうので肩から手を離すと雫は走って聖慈から玄関のほうへ逃げ出した。
視線を逸らされたのと逃げ出されたダブルショックからまだ立ち直れないのか聖慈はその場でただ呆然と玄関のほうを見てるだけだった。
章吾と真美と優慈は居間のほうでくつろいでいた。だが、凄い勢いで雫が居間の入り口を空けたので章吾と優慈は驚いたが真美は悠然とお茶を飲んでいる。
「雫、聖慈は?」
「え?えっと・・・もう少しで来るよ。私着替えてくる。」
雫はそれだけ言うと居間から出て行った。章吾と優慈は不思議に思い、顔を見合わせた。
真美は聖慈がなにかしたんだろうとは思ったが、顔には出さず二人の鈍感な男女を思ってため息をついた。
聖慈が先ほどのショックからなんとか立ち直り居間のほうに入るとそこには着替えた雫も含め家族全員がそろっている。
聖慈は真美からお茶を受け取り一口飲みながら雫を盗み見ると雫と一瞬目が合ったがすぐに逸らされた。
(俺が何したって言うんだよ・・・。完璧に嫌われたな・・・。)
聖慈が落ち込んでるのを見て何故落ち込んでるのかわからない章吾と優慈は不思議に思い、また顔を見合わせた。
真美は聖慈と雫を見ながら「しょうがない子達ね」と哀れみの目を向けた。
「聖慈?なにかあったのか?」
「いや、別に・・・。それより話ってなんだよ?」
章吾が優慈に急かされて聖慈に尋ねたが聖慈は答えなかった。
とりあえず聖慈はさっさと本題に入って今日は早く休みたかった。
「あ、あぁ。実はな俺と母さんな、外国に行こうと思うんだ。」
「へぇ〜、いいじゃんか。お土産よろしくな。で、何泊するつもりなんだ?」
「いや、外国で暮らそうと思ってるんだ。」
「うぇ!?」
「は!?」
「へ!?」
聖慈含め伊集院家3人兄妹は驚きのあまり変な声を出して固まっている。
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