第一話 兄と妹
今1組の男女が向かいあっている。
「お前は俺が守る!命を懸けて」
「カット〜〜!」
その場に男の声が響き渡る。
その声を発した男が二人に歩み寄ってくる。
この現場の監督だ。
「いい演技だったよ、雫さん」
「ありがとうございます」
「それに比べて・・・」
監督は男に冷たい視線を送る。
男の名前は伊集院聖慈、17歳だ。
7歳のときから芸能界が働いている。
働きだした当時は人気子役として人気がでたが段々下降気味である。
「す・・・すいません」
「しっかりしてくれないと困るよ、聖慈さん」
「雫さんより7つも年上なんだから」
「は・・・はい」
「これは主演を優慈さんに変えたほうがいいかな」
優慈というのは最近人気の若手俳優だ。
そして世間には知られていないが聖慈の3つ離れた弟でもある。
「え、ほんとに頑張りますから勘弁してください」
「それなら態度で答えてほしいな」
「は・・・はい」
「明日は10時から撮影だからな、遅刻すんなよ」
監督はそういって離れていった。
一気にどっと疲れが体に襲ってきた。
肉体的な疲れよりも精神的な疲れだが…
「はぁ〜〜〜」
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「雫・・・現場ではそう呼ぶなっていってるだろう」
「いいじゃない。誰も聞いてないんだから」
共演者の雫は優慈と同じく聖慈の妹だ。
彼女は優慈と同時期にデビューした人気のアイドルだ。
彼女と優慈は聖慈の現場に遊びに来てたところをスカウトされた。
両親も何も言わずに自由にさせてくれた。
「そりゃそうだけど・・・」
「どうしたの?」
「べつに・・・」
「嘘ばっかり。いつもの元気はないじゃない」
「そんなことはないよ」
「嘘よ」
「そんなことないっていってるだろ!!」
「そんなに怒らないでよ」
聖慈は話を終わらせようと現場から控え室に戻ろうと早足で歩き出した。
その後ろを雫が小走りでついてくる。
「で、なんでついてくるんだ?」
「雫、今日お兄ちゃんの家に泊まるよ」
「はぁ?なに言ってるんだ」
聖慈は16歳の頃から一人暮らしをしている。
理由としては家では自分の時間を持てないという理由で、両親に説明したが優慈と雫に比べて仕事が少ないので家にあまりいたくないのだ。
「だって今日優慈お兄ちゃんと二人っきりなんだもん」
「じゃあ、俺とだったら二人っきりでもいいのか?」
「うん。べつにいいよ。だって優慈兄ちゃん変な目で見てくるんだもん」
聖慈は歩くのを止めた。
自分の弟が実の妹に変な誤解を持たれてるらしい…
もう一度聞きなおしてみた。
「どんな目だって?」
「いやらしい目」
やはり聞き間違いではないらしい…
まったく優慈は何をしてるのやら…
別に無理に帰そうともしないのが聖慈の優しさなのかただ妹に甘いだけなのかは分からない。
「まぁ、部屋はいっぱいあるし、いっか」
「ありがと」
「じゃあなんかコンビニで買ってくるから先に家帰ってろ」
「じゃあ雫が作ってあげるよ」
「え、お前料理作れんの?」
「もちろん!」
聖慈は本気で驚いている。
17になる自分は料理ができないというのに10歳の妹が料理ができるというのだ。
しかも、雫の顔を見ると自信満々という顔をしている。
「ふ〜ん、まぁ期待しないでまってるよ」
「あ〜、ひど〜い。雫のこと信じてないなぁ?」
「信じてる信じてる」
「ならよし」
二人は聖慈の部屋に向けて歩き出した。