008
遅くなり申し訳ないのです
相も変わらずグダグダではありますが
そんなこんなで若干僕にとって不本意である事態も起きたが、おおむね滞りなく魔女の会合は終わりを告げた。
まあでも、魔女の料理もおいしかったしそれはそれで良かったかな。見たことのないモノばかりだったけれど、僕にとっては物珍しく興味が尽きることが無くて楽しむことが出来たと思う。中にはゲテモノもあったけれど。なんて言うか魔女ってすごいや。あんなものでもおいしく出来るなんて、あれも魔法的ななにかなのだろうか。いや、知ったところであれを作る気は僕にはさらさらないが。
という話は置いといて、その魔女会にクラスメイトが居た、という事実である。これが男の友人であるならばさほど違和感は無いだろう。僕は友達があまり多い方ではないけれど――決して友達が居ないというわけではない――一人くらい増えたところでだれも気に求めないと思う。精々――あぁ、あいつとも仲良かったんだな、くらいにしか思わないだろう。
しかし、突然今までそれほど親しかったわけではない男女が親しそうにしていたら、不審に思われるのではないか。僕たちは年頃の高校生である。そういう方向に勘違いする奴らは、必ずと言って良いほど存在しうるだろう。
これがただの、偶然そこらへんで出会って気が合ったとかならまだしも、魔女会とかいう普通とは言えない状況で邂逅しているのだ。こういう普通でない状況と言うのは、得てして奇妙な連帯感等が芽生えてしまうものだ。結果、より親密に見えてしまうということになる。するとどうだろう、見事クラスメイト達は、盛大な勘違いしてくれることだろう。
いや、勘違いはしてくれても良いのだがそれで冷やかされたくないのだ。僕の勝手な都合ではあるが。
――志賀、彼女はむしろ好感度としては良い部類に入る方ではある。黒髪ロングのストレートに快活そうな目と表情。クラスでもそれなりの人気はあるとみて良いだろう。という程度には彼女の容姿はそれなりに整っている
つらつらと――そんなことを考えていたら、もうすでに目の前には学校が見えてしまっていた。このまま教室へ向かえば確実に彼女は――志賀は僕に声を掛けてくるだろう。そうなればきっと、先ほど考えていた事態に見舞われるだろう。出来ればそれは避けたかった事態ではあったのだが。
しかし、もう学校には着いてしまったし諦めるか。いい加減に腹を括るべきだろう。
そうして僕は、教室のドアを開く。これまでに無く緊張した震える手で。
――開けてしまえばどうということは無かった。彼女は――志賀はまだ教室に来ていなかった。なんだかあれだけ考えていた自分が馬鹿みたいだ。結局は来るんだろうから結果は同じだけれど――けれど、教室に入って先に声を掛けられるよりかはマシだと僕にとっては思える。先手必勝である。いつもより早く家を出た甲斐があったものだ。
ほっとして自分の机に座ると、なんだか含みを持たせたような顔をしたチバが寄ってきた。
「おう、学校来るなりそんなほっとした顔してどうした? なんか愉快なことでもあったか?」
こいつはほんと、変なところは良く見てるんだよなぁ。今だってそうだ。僕が少し気を抜いた表情を見逃さずに居やがった。
「やあ、別に何もないよ。特に君が期待するようなことはね。残念だけれど」
「ふぅん? 俺にはそう見えなかったんだけどなぁ? まあ、あえて突っ込まずにおいといてやるよ。どうせ、その時なればお前のことだから勝手にぼろを出すだろう?」
「残念ながらその期待には応えられないな。僕だって成長しているんだ。そんなへまはしないさ」
「はっ、どうだかね? 阿部は結構分かりやすいからな。その威勢がいつまで続くか見ものだな。はっはー。楽しみだぜ」
そう言いながらあいつは、自分の席へと戻っていった。
――まったく。あいつは直ぐに僕をからかってくるのが玉に疵だな。僕のことを弟だとでも思っているんじゃないか?それくらいちょっかい掛けてくるし。
「よっ! 阿部君! 元気してたー? 昨日ぶりっ。私は元気だったぞー」
これを晴天の霹靂とでも言うべきか、ほっとしたところに最大級の爆弾が落とされた。――志賀だった。なんとなく教室がざわついているのが分かる。そりゃそうだろう。それほど親しいとは言えなかった二人が、朝学校に来た途端にフランクな挨拶を交わしているのだから。
「ええ、ついさっきまではね。それはもうすがすがしい朝でしたよ。っていうかなんでそんなにフランクに声を掛けてくるんだ。普通におはようで良いだろう」
「えー。だってせっかく同好の士として仲良くなったんだから、元気よく挨拶するべきでしょう。……新人魔女さん」
「……あんまり周りにばれるようなこと言うなよ。頼むから。君はまだ良いかもしれないけれど、僕は好奇の目に晒されたくないんだ。そこのところを分かってくれ」
僕の目の前でニコニコと最上の笑顔を振りまいているこいつをどうにかして欲しい。チバに目を配らせると、ニカッとした笑顔と親指を立ててきやがった。どうやら助けるつもりは無いらしい。非常な奴である。
「いい加減自分の机に戻ったらどうだい? そろそろHRも始まるだろうし。……僕もいい加減面倒だ」
「何か言った? 言ってないなら良いけど。まあいいや、じゃあまたあとでね、阿部君」
ようやく落ち着ける時間が来た。またあとでというのが気になるが、適当にはぐらかして逃げるか。……ふと、視線を感じた。チバだった。どうせさっきのことを詳しく教えろってところだろう。誰が教えるか。
――休憩時間に入ったところでよりにも寄って、チバと志賀が寄ってきやがった。しかもさりげなく僕の逃げ道を塞いできやがった。
「さて、阿部よどういうことか説明してもらおうか。いつのまに志賀と仲良くなったんだよ。まさかお前に限ってなんてことは無いよな?」
「チバ、別に僕は志賀とはただのクラスメイトだ。間違いは無い。ただ偶然町を歩いていたら出くわしたと言うだけだ。やましいことは何もない」
これで、チバに対するあらぬ誤解は、解けるだろう。志賀が余計なことを言わなければの話だけれど。なんて言うのは甘い夢のような話だった。
「やあやあ、阿部君待っていてくれてんだね。私はとてもうれしいよ。感無量だ。それで言っておきたいことがあるんだけれど、これからお昼は一緒に食べないかい? もしよければ私が作ってきても良いよ」
よりにもよって、教室に来た時よりもでかい爆弾を投下しやがった。
「ちょ、ちょっと待ってくれ志賀。いくらなんでもそれは飛躍しすぎだろう。僕らは昨日ちょっと話しただけだぜ。それが――どうしてこんな話になるんだ」
「――そりゃあ私が君のことを気に入ったからさ。そこに嘘偽りは無いよ。だから仲良くしたいなと思ってこうして声を掛けたんじゃない」
「いや――仲良くしてくれるのは嬉しいんだけれどね。君のアプローチの仕方はどうも勘違いされそうで、実際もう既に一人そうなってるのが居るし」
「別に気にすること無いじゃない。君と私の仲じゃない。……それに私たちは魔女よ。周りには言えないことも言い合えるし、それでもだめ、かな?」
――そんな風に言われるのは卑怯だ。だって僕らは人には言えない秘密を持っている。何かあったときに頼りになるのはお互いだけなのだ。他にこの学校に居る可能性も無くは無いが、少なくとも今は僕と志賀しかいないのだ。
「どうも良い雰囲気みたいなので、俺はこれくらいで退散しておきますかっと。それじゃあ二人とも仲良くなぁ~」
そういってへらへらしながら阿部はどこかへ行ってしまった。微妙な勘違いはしたままで。仕方ないこのことはまた後日誤解を解くか。
「……それで? これからは志賀、君と仲良くなってくれと」
「そう。せっかくね、こうして奇妙だけれど縁が紡がれたのだから、損は無いと思うのだけれど、どうかな? 私と友達になってくれないかな?」
「別にそれは良いよ。君と友達になれるというのならそれは光栄なことだろう。けれど、さっきみたいに周りを誤解させるような事を言うのはやめてくれよ。僕からはそれだけだ」
「じゃあ、別に仲良くなるのは良いのね。ではこれからよろしくね。魔女同士としても……ね」
「ああ、よろしく。志賀の方が先輩だから頼りないだろうけれどね」
「そんなことはないよ。君が師としている魔女は魔女としてはハイエンドだと思うし。あっという間に追いつかれると思うんだ。君の資質も相当なものみたいだしね。だから心配することなんて無いよ」
「そういうもんかね」
「そういうものよ」
なんだかなし崩し的に志賀とは仲良くなったけれど、微妙に誤解を残しているのが心残りではある。まあその辺もどうにかなるだろう。この世界はそうやって、どうにかなりながら回っているのだから。
それに魔女なんだから、そこら辺を上手く曖昧にしておけば問題にならないだろう。結局は、僕らみたいのは曖昧であれば紛れこめるのだろう。そうしていればなんとかなるだろう。