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007

 そして――満月の晩の日である。そう魔女たちの――会合の日。日が沈む前からどんな魔女たちが来るのか思いを馳せるものの、いつまでたってもイメージで出来ずにいた。それは仕方のないことだろう。僕は師匠であるアリスさんと、その友人の星音さんしか知らないし。

それにしても、まだ夜まで結構時間があるな。

――そういえば、何を着て行けばいいんだろうか? 魔女の集まりなんだから、おそらくみんなそれなりの恰好をしてくるとは思うのだけれど。きっと物語でよくあるような服装とかしてくるのかな。黒い帽子に黒いドレスとか。やっぱり魔女と言えばそれが正装、といっても過言では無いだろうし。いや、やはり今は現代、魔女も女性だ。流行に乗って様々な服装をしてくるかもしれない。それはそれで面白そうだなあ。黒一色でないカラフルな魔女たち――うむ! きらびやかで大変よろしい!

「怜ーそろそろ行くよー」

 そう呼ばれるものの、僕の準備は何もできていない。どうしたものか。

「アリスさん、僕何の準備も出来てないですけど。服だって制服ですし」

「ああ、大丈夫、大丈夫。そんなの誰も気にしないよ。他のみんなだって好きなもの着てくるしねー」

「そうなんですか。 良かった。僕てっきり魔女には魔女の正装があってそれで行かなきゃいけないんじゃないかと」

「昔はねえそうだったんだけど、やっぱり時代の移り変わりとともに、魔女も変わっていったんだよね。魔女界でも流行り廃りはあるからね」

 ヒトの世界と同じで魔女にも流行り廃りなんてあるのか。どういう変遷をしてきたのかちょっと気になるな。

「ほら、準備できたからこの陣に入ってね。そしたら、会場に転移出来るから。そしたら私が来るまでちょっと待っててね」

「はい、分かりました。それじゃあ乗りますよっと。ではお願いします」

「はいよー。ちゃんと送るから安心してね」

 そう言い終わるとともに陣が光りだした。そして、光が収まるころには会場に着いていたらしい。いろんな恰好したおねいさんたちが、話しながらこっちを観察するように見ていた。

 なんか居心地が悪い。たぶん魔女の会合なのに男が来てることで注目を浴びてしまったのだろう。やべえ凄い恥ずかしい。アリスさん早く来てくれないかなあ。

 すると後ろから光が差してきた。僕は、アリスさんが来たと思い、目を細めながら後ろを振り返った。そこには、アリスさんでは無く星音さんが居た。

「お、怜君じゃない。アリスはまだ来てないの?」

「はい。とはいっても僕も今さっき来たばかりなんですけどね。そろそろアリスさんも来るころじゃないですかね。なんか居心地悪いんで、早く来てほしいんですけどね。星音さんが来てくれてほっとしましたよ」

「あー、こんなとこに男の子一人だもんね。みんなの注目浴びちゃうのもしょうがないか。フフ、でもハーレムよハーレム。男の子の夢じゃない?」

「悪目立ちしてて、ハーレムなんて気分にはなれませんよ、もう」

 ただし珍獣っぽい扱い。

「怜君は贅沢ねぇ。こんなにきれいなおねいさんたちに囲まれてるのに」

 星音さんは、そう言いながら僕の頬をつつく。贅沢と言われても、そうにしか感じられないような視線ばかりなんですけどね。

「でもそれにしても遅いわねぇ。いい加減来ても良いころじゃない? って言ってたら来たわね」

 星音さんがそう言った時には、光だしてその光もあっという間に収束していった。そこには、見惚れてしまうような美人が立っていた。というかアリスさんだった。

「お、着いたね。星音ももう居たのかい。怜、どうしたんだいそんな変な顔をして。随分と面白いことになっているよ」

「いえ、何でもないですよ。ただもう少し早く来て欲しかったなーなんて」

「え、なになに怜はそんなに私が恋しかったのかい? おねいさん嬉しいなあ」

 さりげなく一人が辛かったと言ったら、なんだか別の方向に勘違いされてしまった気がする。

「アリス、怜君はね魔女だらけの中に一人だけの男として、困惑していたのよ。あなたがもうちょっとだけ早く来てればそんな想いせずに済んだのよ」

 いや星音さん、困惑はしてたけどそこまで気にはしていなかったんですよ。

「そーなの怜? ごめんねぇ。ちょっと用意してたら遅くなちゃって。許しておくれ」

「別にそこまで気にしてないですよ。そうだろうと思ってましたし。で、これからどうするんですか?」

 僕の評価がなんだかさみしがり屋さんみたいになってしまったけれど、あまり気にしない方が良いだろう。それより会合で何をするのかの方が気になるし。

「そろそろ始まるころだよ。あそこの魔女魔女してるのがトップだ。憶えておきなさい」

「はい、わかりました」

 そう言ってアリスさんが指をさした先には、これ以上ないくらい魔女としか言えない人がいた。トップだけはああいう恰好をするのだろうか。まあそんなことはどうでもいいか。なんてことを考えていたら、トップの人と目が合った。なんかウィンクまでされた。一応会釈を返しておこう。

「あーあーあー。拡声魔法のテスト中、拡声魔法のテスト中。大丈夫そうね。では、これより満月魔女の会を始めたいと思います」

 その口上とともに一斉に会場中の魔女たちが歓声を上げた。歓声と言うよりかは黄色い声ではあったというべきか。

とにかく魔女たちの会合――宴はこうして始まりを告げた。

「ねね、君男の子だよね? なんでいるの? もしかして魔女なの?」

「そうだよねなんでなんで?」

 突然いろんな魔女のおねいさんから、たくさんの質問が逃げる間もなく浴びせられた。しかもどんどん増えてきてもうもみくちゃ状態である。

「はーい、質問はそこまで。これ以上は彼も持たなそうだから勘弁してあげてね」

 そう言って星音さんは、魔女のおねいさんたちに囲まれた僕を引き上げてくれた。

「ありがとうございます。どうなる事かと思いましたよ。完全にこれは僕のこと珍獣扱いですよ。まあ仕方の無いこととはいえ辛いです」

「なぁに言ってのんよ、若人が。それにハーレムじゃない、喜びなさいよまったく」

 そうは言われても、いや嬉しくないわけではないのだけれど、あんな一辺には対応できないだろう聖徳太子ではあるまいし。

 すると突然聞いたことのある声がした。

「あれ? あれれー? 阿部君だーこんなとこで何してるのかなー?」

「しっ志賀? なんでお前がここに?」

 ――こうして僕は、何故か魔女会で学校のクラスメイトに会ってしまった。

「いやなんでって私魔女だしここに居るのは当然じゃない? それに、阿部君こそなんで居るのよ」

「僕も魔女になったから、ただそれだけだよ」

「でも阿部君って男の子だよね? あ、それとも実は女の子だったりして?」

「志賀、僕は女の子ではないし男だ、それは間違いない。ただ素養があったからなったそれだけだ」

 こいつはとんでもないことを言ってくれるな。僕のどこをどう見たら女に見えるってんだ。

「えー、でも阿部君って結構そういう顔だから、意外とそう言う恰好似合いそうだけどなー。興味無い? 残念だなー」

 こいつ笑顔でとんでないこと言いやがる。僕にそんな需要があるわけないだろう。あってもやらん。

「興味無いね。塵ほども。ま、それはいいや。志賀も魔女だったんだな知らなかったよ。まあでも知り合いがいて良かったよ。アリスさんと星音さん以外に知ってる人いないからなんか居づらいし」

 これは本音。実際さっきみたいなことがいつ起きてもおかしくないし。こうして話していれば、あそこまでガツガツとはしないだろうし。

「え、アリスさんってアリス木虎? それに星音さんって伊佐星音? その二人と知り合いなの阿部君? うっそーまじで。あとで会わせてくれない? お願い!」

 え、なにあの二人って有名人なの? そんなにすごい人たちだったのか。

「アリスさんは言ってしまえば師匠で、星音さんはその友人らしいけど。と言うかたぶんそこらで食べたり飲んだりしてると思うけど。それ以外だったら町外れの館に来ればアリスさんには会えると思うけど」

「そうなの? じゃあ今度連れて行ってね。絶対だよ阿部君!」

「わかったよ。アリスさんにはそう伝えておくから」

「うん、ありがとう。それにしてもこんな偶然ってあるんだね。ビックリしちゃった」

「僕の方がビックリだよ。こんなとこでクラスメイトに会うし」

 男なのに魔女として居るのを見られるしな。

 そうやって志賀と話していたら、またトップの魔女さんが壇上に上がっていた。何を話すのだろうか。

「あー。皆も知っていると思うが、最近魔女になった新米が来ている。ちょうど良い機会なのでここで自己紹介でもしてもらおうと思う。そういうことだから、阿部怜君ここまで来てくれないかな?」

 僕にとって衝撃の発表だった。いや確かに新米だしそういうことがあってもおかしくないだろう。だとしてもわざわざこんな注目されるようなことをしなくても良いと思うのだけど。けれど――僕のそんな思いとは裏腹に壇上への道が無情にも開いたのだった。

「えー、先ほどご紹介に挙がりました、男ですが新米魔女の阿部怜です。どうもよろしくお願いします。今はアリス木虎の下で勉強中です」

 僕は簡単に自己紹介をして終わらせた。そしてさっさと壇上から降りて行く。なんで僕がこんな辱めを受けなければならないのだ。僕が男だからやったみたいな気がする。

けれど、今更気にしたところでしょうがないけど、僕は男だけど魔女なんだ。

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