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002

――だから私の後継者、なってくれないかな?

「わかりました。良いでしょう。僕はあなたの後継者に、魔女として在りましょう」

 結局僕は、魔女から受けたその任命を受けることにした。

 正直、未だに信じられないような――荒唐無稽な話ではあるけれど、なんとなく信じても良いと思った。

 それに、そんな非日常があっても別に良いだろう。僕だって思春期の高校生だ。そんなことを――いろんなことを想像してきた、妄想してきた。それが実現するのだ、心踊らないわけがない。

「さてさて、それじゃあ早速だけど魔法の使い方教えるよ。右手を出してちょうだいな」

「右手ですか。一体何するんですか?」

「握手だよ、握手。本来なら死に際の魔女の手を握ることで魔力が握った側に移るんだけどね。君みたいのは例外。今日は、魔力の使い方と初歩的な魔法の伝授だ」

 そんなことでいいのか。何と言うか、魔女の世界というのは不思議だけど意外と曖昧なんだな。なんて思っているうちに差し出した右手がなんかほわほわしてる。どうやらこれが魔力の感覚らしい。目に見えるとなんだか水あめを思い出すイメージだ。

「そう、そんな感じで練るような感じで指先から放出して文字を書いてみて。そそ、それで書く文字は何か意味があるものがいいね。それとイメージ。この二つを合わせてみて」

「こんな感じですか?」

 そう言って僕は、空中に向かってとりあえずシンプルに火をイメージして書いてみた。するとどうだろう、見事に指先からライターみたいな火が灯っているではないか。これは、テンションが高揚するではないか。

 まさか本当に魔法を使えるとは。ヤバイこれは楽しい。魔女になった甲斐もあるってものだ。

「あ、言い忘れてたけど悪いことに使っちゃだめだよ。特に害を与えるようなことだね」

「やっぱりそういうもんなんですね。ちなみに後学のために聞きますけれど、害をなした場合どうなるんですか?」

「そりゃあもちろん、そういう対策課の人がすっとんできて、それはもうあっという間も無く魔法が使えないように拘束されて収監されるから、絶対に害をなすことはやっちゃだめだよ」

「へえ、やっぱりそうなるんですね。まあ、そんなことするつもりは無いですけれどね。あ、あと魔法が使えることって秘密にしていた方が良いんですか?」

 まあ、悪いことすればそうなるな。ついでに気になっていたことも聞いてみた。

「あーそれかー。特に秘密にすることは無いけど、まあ良くて奇人変人扱いだね。たまにそういうの気にしない人もいるけど」

 そりゃそうか。こんな人智を超えたチカラなんかあまり吹聴するものでもないか。信用できる、信頼できる相手なら問題無いのだろうけれど。

「じゃあ今日は無理せず簡単な奴練習してなよ。私もそこら辺にいるから、訊きたいことあったら呼んでね」

 そう言って魔女は、スッと文字通りその場から消えた。

 良し、他も同じように出来るはずだ。いわゆる四大元素とか呼ばれてたりするアレだ。火は出せたし問題無いだろう。

 ――意外とあっさり出来た。拍子抜け、ではないけれどこの分だと応用的にも軽く扱う程度なら問題無いかな。やっぱり四大元素も王道で良いけれど、雷とか氷とかそのあたり出来るとカッコイイよね。

 ……まあ想像がついただろう。これ以上なく、特に問題無く使用できた。

 こうなったらもう、イメージ出来そうなこと片っぱしから試したくなってきた。

 ……結局、出すだけなら思いつく限りだすことが出来た。これは、いわゆる才能がそれなりにあったということだろうか。それとも魔女は皆こうなのだろうか。……訊いたほうが早いか。

「おーい、魔女さんどこにいますかー? ちょっと訊きたいことがあるんですけどー」

 館の中を歩きながら呼んでみた。というか、部屋がいっぱいあって本当にどこにいるか解らないな。

「やっほー。何を訊きたいのかな。それに魔女さんだなんて他人行儀はやめてよー」

「そんなところにいたんですか。それに良く考えたら僕ら、自己紹介すらしてないですね。ちょうどよい機会です。自己紹介をしましょう」

「そういやそうだったねすっかり失念してたや。じゃあ私からだね。私の名前はアリス、アリス・木虎だよ、これからよろしくね。次は君の番だ、どうぞ!」

 アリスさんは、ニコニコしながらとてもうれしそうに僕に促してきた。

「僕は、高校一年、阿部 怜です。どうぞよろしくです。それと訊きたいことなんですけど、魔女って魔法の得意不得意あるんですか?」

「そうだね、あるって言えばあるし、無いって言えば無いね。まあ、基本元素とかはみんな特に不自由なく扱っているね。強いて個人差が出るとしたら、占いとか呪いとかの分野かな。そのあたりは術者のチカラの強さに寄ってしまうから」

 ふぅん、そういうものなのか。元素系は使えて問題無いのか。良かった良かった。もし、それすら人によりけりとかだったら面倒だった。それにしても占いとか呪いか。この辺りは手を出すには、少し恐れ多い気もするな。いずれは憶えなくてはならないんだろうけど。

「まあ、呪術系は追々お教えて行くから安心してよ。さて、そろそろ夕方も近づいてきたし帰りなよ。遅くなるほど変なのが付いてくるからね。気を付けてね。明日以降も来れるときに来てくれればいいから」

「わかりました。それでは、帰らしていただきますね。アリスさん、また明日」

「……うん! また明日ね、怜君」

 そうして僕は、魔女になった一日を終えた。いろいろと楽しかった、って感想はどうかと思うけれど、どう考えてもやっぱり楽しかった。不思議な事ばかりで脳がオーバーヒートしてもおかしくなかったんだろうけど、きっとアリスさんがそうならないように何かしていたんだろう。

 それにしても、明日以降が楽しみだ。いろいろ教えてくれるみたいだし、なんだか不思議な気分だ。魔女ってところだけはまだ引っかかるけど、そんなのがどうでもよくなるくらいに。

 そして僕は眠る。明日をこれ以降のことを楽しみにしながら。

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