赤城翼は薔薇だったのか
赤城翼は危機に瀕していた。彼女が所属し、自ら部長を務める、文芸部は廃部寸前だったのだ。
部員は一人、部の貢献はゼロに近い。部になったのも奇跡というこの部の行く末は、確実にまっくらやみであった。
そんなときに勧められ入部したのが俺だった。以下は入部した際の俺と赤城の会話記録である。
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「なんで入ったの」赤城はむすっとし尋ねる。
俺は大変居心地が悪い。
夕日が差し込む教室に佇む彼女は、さながら窓際の花瓶に挿された一輪の薔薇である。
本棚にある厳めしい表紙の本達からは親しみ深い加齢臭が漂う。
「早く答えなさいよ」 彼女は俺より一回り二回り小さいため俺を見上げる形になる。
「いやぁ君が美しいから。」
「馬鹿じゃないの?」
「ああ、馬鹿だ。」
「これは末期のようね。」
赤城はふうっと溜息。
「まあ、部員が入ってくれたのは嬉しいわ。」
赤城は笑みを隠しきれていない。親しい先輩でもいたのだろうか。
「よろしくな。」
俺は手を赤城に差し出す。
赤城はキョトンとし俺を見上げる
「ええ、ゼッタイに退部しないこと。」
今度は眩しい笑みを隠さない。固く、俺と赤城は、握手する。