壱.
本来、山というものはてんこ盛りの土に
何億もの根が張りつめており、
草木が溢れんばかりに栄えている、といったものだと思う。
その緑のオウトツの中にびっしりと生命体がひしめいている。
この世界での蟻なんかは地球という規模にいる我々と同じではないだろうか?
となると、こんな世界が数多とある地球は途轍もないと感じさせられる。
今の我々はこうして広い世界を目では見れないが知識という足で探索できる。
しかし、母なる地球からしたら今朝のような事だが、今から150年ほど前の小さな農村の百姓達にしたらどうだろうか。
山は山という認識しかないのだ。
そう。異質な石で出来た山は当時の人たちには気味が悪かったみたいだそうだ。
「やーい!こんなドキョウ試しもできねーのか!イクジナシのちんちくりん!」
「そうだそうだ!おめえみたいな奴はどうしたってゴクツブシでしかないんだーい!」
「アホんだらーい!くたばれくたばれ!」
今日も三羽烏の与作、茂吉、虎次郎が誰かをいじめてるようだ。熱が入ってきた悪童三匹はさらに石を投げつける。
「ションベン垂れのコンジョウナシ!逃げ足だけは早い勘九郎やーい!」
「クマっ子のエサにでもなっちまいな!」
「アホんだらーい!くたばれ!くたばれ!」
「「「バーカバーカ!!」」」
言うだけ言った三匹は走って村の方に帰って行ってしまった。残されたのは三匹にボロクソ言われた農村に突然転がり込んで来た飲んだくれの息子の勘九郎だった。
「べ、べらんぼーめぇ…オラだって男だ!行ってやるよ。今に見てろ…!」
鼻をすすりながら何かを決心した勘九郎は陽が傾いて来たにもかかわらずに遠くに見える藁ぶきの家と揺れる稲穂の一面を背に畦道を掻き進んでいった。
穏やかではない子供達のやりとりとは似合わず澄んだ空気が川のように流れて、赤とんぼが穂の影を縫うように飛び交っていた。
草木が伸びっぱなしの畦道は想像以上に進むのは困難だった。手がかぶれないか心配しつつも勘九郎は掻き進む。
刻々と陽は傾いていき、畦道と勘九郎を照らす。一面の緑はまるで幕のようであり、切り絵のようにその様子をかたどっていた。
そんな中、ひぐらしが今日の終いを嘆いているように声を響かせ羽虫がニ匹で縺れながら河川の方に飛んでいった。
しばらくして、勘九郎が掻き進んで行った先には大きく粗い石畳みの道が忽然と現れた。