エルフとの出会い
城下街で馬を一頭購入する。
こちらの馬はでかい。
大人が2、3人乗れそうだ。
その馬に荷物とモミジが乗る。
10歳で馬に乗れるとかすごいと思ったが、こちらの馬は気性が穏やかで、大抵の人はすぐに乗りこなせるそうだ。
因みに俺は乗らない。
剣が重いので、やめといた方がいいからだ。
西門で門兵と少し話して門を出る。
目指す先はマルクト。
「というか、マルクトまでどう行けばいいんだ?」
歩きながら尋ねると、モミジは手に持っている紙を示した。
「簡単な地図があるから、これ通りに行けば着くわ」
道は分かる。
でも、もう一つ心配事がある。
それは、馬に載せた食料が多い事。
「どれくらいでマルクトに着くんだ?」
「んー。このペースだと、2、3週間って所かしら」
モミジは簡単に答える。
いや、俺にとっては長く感じるが、この世界では普通なのだろう。
でも、テントなんて買ってない。
つまり、雨ざらしの中野宿――。
日が落ちてくると、近くの森から枝を拾ってきて集める。
暗くなる前に火をつけないと危ないらしい。
魔物も野生動物も、火を恐る様だ。
火はモミジがつける。
布切れに油を染み込ませ、枝の下に入れる。
そして火付け石を2つ、かつんかつんと叩き合わせると火が付いた。
あまりにも手際が良かったので、経験があるのかと尋ねると、モミジは初めてやったと答えた。
天才肌ってやつかな。
夕食は豆のスープと干し肉、それに硬く焼いたパン。
城での食事に比べるとかなり質素だが、冒険者みたいな食事で、キャンプファイヤーを楽しみながら食べれたおかげか、美味しく感じた。
2、3日の間は。
モミジは食料全て、同じ物を買ったようだ。
朝昼晩と、全く同じメニューが続く。
長くて3週間この食事なのかと考えると嫌になってくるが、買い物をモミジに任せっきりにしたのは俺なので何も言えない。
森で動物を狩ればいいのだが、魔物かもしれないので生き物の気配がすると、とりあえず逃げていた。
果物が、何種類か実っていたため、助かっている。
そんなこんなで1週間、移動を続けて来たのだが、まだ魔物や盗賊には出会っていない。
しかし、それよりも恐ろしい者に出会ってしまった。
この辺りは自然が豊かで、森が多い。
だが、森の中は危険なので、いつも迂回している。
今日も、目の前には大きな森が立ち塞がったが、いつも通りに迂回する。
「この森、迷いの森って言うんだって」
モミジが地図を見ながら言う。
「入った人は出てこれないって噂よ」
元より入るつもりは無いから問題ない。
いや、薪集めに入るのも危ないという事か。
「分かった、入らないようにしよう」
森の方に意識を向けていたせいか、前方に現れた集団に気付くのが遅れた。
鎧を着た集団。
肩には鷹のマーク。
向こうが先に気付き、剣を抜いていた。
黒髪だ、異世界人だ、という声が聞こえる。
男達の声に混じって、女の子の泣き声も聞こえる。
「どうする?」
俺は剣を抜き、モミジに尋ねる。
「どうするも何も……貴方なら全員切り捨てられるんじゃないの? ついでに、兵士の後ろで泣いている女の子も助けるわよ」
モミジはレイピアを抜いて答える。
全員倒すつもりの様だ。
「了解」
俺はそう答えて、兵士の方に駆け出した。
戦闘は呆気ない程あっという間に終わった。
兵士は遅いし、俺の動きに付いてこれていなかった。
剣で防いでも、剣と共に兵士を切る事が出来たのが大きい。
剣を右、左、と9回振るだけで、9人の兵士が全滅した。
「ふう」
剣を鞘に収める。
分厚い鎧を着ているので、人を殺した感覚があまりない。
機械を切っているかのようだ。
女の子の方を見ると、怯えた表情でこちらを見ていた。
金髪を肩まで伸ばしていて、まるで妖精の様だ。
髪から突き出ている尖った耳もまたキュートで……。
耳が尖っている。
もしかして、エルフなのでは無いだろうか。
そう思っていると、モミジが隣にやってきた。
「エルフね、まだ子供みたいだけど」
子供が子供に子供と言っている。
まぁ、いいけど。
それにしてもやっぱりエルフなのか。
視線を下にさげると、ボロボロに破れた服を、手で押さえて――。
ガツン。
「ジロジロ見ない!」
モミジに殴られた。
モミジは馬から降りて、着替えの服をエルフの子に羽織らせると、ぎゅっと抱きしめた。
「怖かったね。でも、もう大丈夫だからね」
エルフの子はまた、大きな声で泣き出した。
「おや? 僕が居ない間にみーんな死んじゃってる」
モミジがエルフの子を慰めていると、場違いな明るい声が聞こえてきた。
まるで嬉しいかの様な声だ。
慌ててモミジ達の前に出る。
道の向こうから来る人物は、焦げ茶色の髪の色をした、こちらの世界では全然見かけない、アジア系の顔立ちをしていた。