お姫様と旅立ち
数日後、お城から出て行く日がやってきた。
誘拐騒ぎの一件で俺の追放処分が取り消される、なんて事はなく、あっという間にこの日が来た。
モミジには挨拶を済ませた。
こちらを睨むように見てくるだけで、特に反応してくれなかったが。
ちょっと寂しい。
最後に王様にも挨拶をと、王座の間に向かうと、モミジも俺に付いて来た。
いつも着ているフリフリのドレスではなく、動きやすい格好をして、腰にはレイピアを吊るしている。
まるで決闘にでも望むようだ。
別れる前に俺と決闘?
まさか……ね。
少々不安に思いながらも扉を開き、王様の前まで進み出る。
「幸也、本日この城を出ていきます。今までお世話になりました」
頭を下げながら言うと、王様は頷き、近くの騎士に目配せをして、俺に封筒と首からさげる用の紐が付いたブローチを渡してきた。
「先日の誘拐事件は東門の先にあるネツァクという国が起こしたものであろう。見事モミジを救い出したお前は、ネツァクからすれば、敵になる。よって、西門の先にある国、貿易都市マルクトを最初に目指すといいだろう。マルクトを統治している者とは親しくしている。親書を書いた。それを渡せば騒ぎになる事は無い。ブローチの方は、いづれ役にたつ日が来るかもしれない。持っていけ」
丁寧に二つを受け取る。
ブローチは、黄色、暗い黄色、小豆色、黒の4色の水晶が掌サイズの丸いメダルに埋め込まれていて、中央には梟の絵が彫ってある。
梟は城の至る所で見かけたので、恐らくこの国のシンボルなのだろう。
王様の言うことはもっともなので、頷く。
「はい、そうさせてもらいます」
そろそろ行こうかと云う所で、モミジが声をあげる。
「お父様、私も幸也に付いて行きます。幸也が元の世界に帰るまで、幸也は私の護衛獣です。私が責任を持って返さなければなりません」
モミジの声は真剣そのもので、驚いてモミジを見ると、腰のレイピアに手をかけていた。
こんな所で剣を抜けば、普通は死罪になるだろう。
モミジは恐らく分かってやっている。
自分の命を盾に王様を脅しているのだ。
駄目と言えば、剣を抜くぞ、と。
周りの護衛も緊張の面持ちでモミジを見ている。
誰も動けない。
少しでも動いた瞬間に剣を抜きそうな、そんな雰囲気が感じられる。
実質1、2分程の沈黙だったが、かなり長く感じた。
王様が沈黙を破る。
「幸也、モミジをよろしく頼む」
王様の言葉を聞いて、モミジは剣から手を離した。
ほっと息を吐く。
王様からの許可は出たが、確認しなくてはならない。
「モミジ、いいのか?」
尋ねると、不機嫌そうに睨まれた。
当然の事を今更聞くな、という所か。
「分かりました」
王様に向かって頷く。
「では、先に失礼します」
親子で話す事もあるだろうと、モミジを置いて出口へと向かう。
「ありがとうございます。お父様、お母様、行って参ります」
しかし、モミジは簡単に挨拶をすると、俺に追い付いてきた。
「いいのか? もっと話さなくて」
俺が尋ねると、モミジは顔を赤くしながら呟いた。
「置いていかれそうで嫌だし、それに……傍に居てくれるんでしょう」
そう言って、俺の服の裾をきゅっと掴んできた。
荷物を持ち、城を出る。
西門の先……目指すは、交易都市マルクト。
ここまで読んで頂きありがとうございます。第一章はここで終わりです。
次からは、第二章に入ります。