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幸運の護衛獣と愉快な少女達(仮)  作者: 直木
1章 銀髪ヨウジョと護衛獣
4/12

お姫様とお買い物

 目が覚めると、俺は大きなベッドで寝ていた。

 左側には、モミジが居る。

 どうやら、本当に異世界に召喚されたようだ。

 という事は、3ヶ月間はここに居ないといけない。

 いや、それ以前に、王様が俺を殺そうとしたら――。

「おはよう」

 俺の思考はモミジの声によって遮られた。

「大丈夫、何も心配する事ないよ」

 モミジはそう言って、俺の頭を優しく撫でてくれた。

 よっぽどひどい顔をしていたんだろう。

 心の中に渦巻く不安が、やわらいだ気がした。


朝食後、俺達は王様に呼ばれ王座の間に赴いた。

「幸也」

 王様に名前を呼ばれ、伏せていた顔をあげる。

 王様の顔には最早恐怖の様な感情は読み取れない。

 決意に満ちた顔をしていた。

「はい」

「お前を国外追放とする」

 王様の声が響くと、モミジは息を呑んで固まっていた。

 それに対して俺は、処刑では無くてよかったと、考えていた。

 しかし、モミジは納得出来ないようだ。

「お待ちくださいお父様! 幸也は確かに黒髪ですが、まだ何もしておりません。罪もない者に罰を与えるのですか!」

「何もして無くても、国民は不安に思うであろう。その不安は国中に混乱をもたらし、いずれは世界に広がるだろう。それを事前に防ぐのが、私の役割だ」

 モミジの訴えかけにも、王様は耳をかさない。

「処刑という意見も多かったが、娘と同等の契約を結んだ相手を殺す事は出来ない。これが私に出来る、唯一の恩情だ」

 

 結局王様が決定を覆す事は無く、俺は数日中にこの城から出る事になった。

「ごめんなさい、勝手に召喚しておいて、黒髪だから追放、だなんて」

 モミジがションボリとしながら謝った。

「しょうがないよ、王様の言ってる事もちょっとは分かるしさ」

 俺は肩を竦めながら答える。

 観光の旅に出ると考えたらいいんだと、かなり気楽に考えていた。

 今は、モミジが旅の準備を手伝うと言って、街に来ていた。

 最初に来たのは、剣が交差するように2本描かれた看板の店。

「まるで、武器屋みたいだ」

「? 武器屋よ?」

 俺の呟きに小首を傾げつつ、モミジは中に入っていく。

「旅に剣なんか必要なのか?」

 慌てて追いかけながら尋ねる。

「魔物も盗賊も出るんだから、自衛手段くらい持っておかないと」

 魔物! まるで異世界に来たみたいだ。

 いや、実際ここは異世界だったか。

「らっしゃい」

 店主が声をかけてくる。

 筋肉質で、いかにも武器屋の店主っぽい。

 壁には、多種多様な剣が飾られていた。

「どれがいいかしら?」

 モミジも俺と同じように、剣を眺めている。

 ふと、一つの剣が目に入った。

 シンプルなデザインで、剣幅が広く、長さ50センチ程の剣だ。

 手に取ろうと手を伸ばすと、店主の慌てた声が響いた。

「おい、そいつはクソ重いから片手で持つなって書いてあるだろう」

 剣の下には、剣の名前と注意書きが書かれているらしい。

 書いてある文字は一切読めないから分からなかった。

 慎重に両手で掴んで持ち上げる。

 缶ジュース程度の重さだった。

 右手で持って軽く振ってみる。

 踏み込んだ足が地面にめり込む。

 ブゥン。

 思った以上の速度が出て、空気を切り裂く音がはっきりと聞こえた。

「全然軽いんですけど? というか、ごめんなさい、床へこんじゃった」

 店主もモミジも、口をあんぐりと開けてこちらを見ている。

「そ、それ、重力鉱石グラビティクリスタルっていう鉄の数十倍は重い金属が使われていて、剣にしたはいいが、誰も振り回せなくて売れ残ってたんだ。安くしとくから、どうだい?」

 気を取り直した店主は、これ幸いにと、勧めてきた。

 経験上、直感で選んだものの方がいい。

 モミジの方を見ると、モミジは頷いて、剣―テットという銘らしい―を買ってくれた。

 10歳の女の子に買ってもらうってどうなんだろう?

 いや、お姫様だからね、うん。

 

 剣を腰に差して、防具屋にも行く。

 重装備は嫌なので、革の胸当てなど、軽装備を購入。

 その後、広場で干し肉などの非常食を買っていると、一つのネックレスが目に入ってきた。

 小さな宝石が付いたそのネックレスに魅入っていると、それに気付いたモミジが店主と交渉して、パパッと買ってしまった。

「えっと、ありがとう」

 戸惑いながらお礼を言うと、モミジは不安そうにこちらを見てくる。

「あ、別に欲しくなかった?」

「いや、そうじゃないんだけど……えっと、モミジに似合うかなーって思って、見てたんだ、よ?」

 そう言いながら、モミジの首に、先ほど買ってもらったネックレスをかける。

 途端に、モミジは嬉しそうに飛び跳ねる。

「そう……なんだ。ありがとう」

 指先で宝石を触りながら、何かに気付いた様にはっと俺を見て、くるっと1回転回った。

 まるで、どう? と聞きたげにこっちを見ている。

 まるで、ではなく、似合ってるか聞きたいのだろう。

「うん、すごくよく似合ってるよ」

「えへへ……こういうの貰ったの初めてなんだ」

 思ったままに褒めると、少し照れたようにモミジがつぶやく。

 俺は選んだだけだけど、と口に出さないくらいの空気は読めるつもりだ。

 俺も、何となく照れくさくなって、少し歩幅を増やして、モミジの前に出る。

 しかし、次にどこに行くのか分からない。

 ちょっと進んだ所で足を止めて、後ろを振り返る。

 しかしそこには、モミジの姿は無かった。

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