お姫様と一緒にお風呂
コンコン。
椅子に座ってモミジと話していると、扉がノックされた。
「どうぞ」
モミジが入室を促すと、メイド服を着たメイドがやってきた。
「王女様、お食事の用意が出来ました」
メイドがそう言うと、モミジは立ち上がって、俺の手をとる。
「さ、行きましょう」
食堂は、モミジの部屋より広かった。
縦に長い机があり、大量の椅子が並べられている。
「お父様とお母様は?」
モミジがメイドに尋ねる。
食堂には、俺とモミジ、さっき来たメイドの3名しか居なかった。
「王様と王后様は、会議でお食事は後回しとされました」
メイドが答えると、モミジは、そう、と言って、ささっと椅子に座った。
その後、ポンポンと、隣の席に座るように促されたので、従って座る。
「あの、その、護衛獣様のお食事はどの様に?」
メイドが困惑気味に尋ねてくる。
まぁ、お姫様と同じ食事にするわけにはいかないよね。
と、思っていたのだが。
「私と同じものを出して」
モミジがあっさりと答えた。
「……はい、かしこまりました」
メイドは何か言いたげにしていたが、結局何も言わずに下がっていった。
気になったので、モミジにきいてみる。
「護衛獣がお姫様と同じ食事をしていいのか? 護衛獣って、家臣みたいなものなんじゃないのか?」
「召喚の際に名前をつけたら、無理矢理命令をきかせる事が出来るわ。でも、私は貴方に名前を付けていない。
これは、隷属するのではなくて、同じ立場での契約を意味するの。私と貴方は、対等よ」
だから大丈夫と、モミジは言ってくれた。
そして、溜息を付きながら、付け加える。
「お父様達は、貴方をどうするか検討しているようだけど、私と対等の契約をした者を殺すことはできないと思うわ」
通りで、名前を付けてないと言われた時の王様と王后様の態度がおかしかったわけだ。
自分の娘と災いをもたらすとされている黒髪の人間が対等。
そりゃあ、親としていい気分な訳が無い。
と、言うか、名前を付けられていたら隷属させられてたのか。
例えば、足を舐めろと言われたら、体が自然と足を舐めてしまうわけで……それもそれでありかもしれない。
食事は、フランス料理のコースみたいだった。
とても美味しくて、満足だ。
とても……美味しくて……。
味覚がある?
夢って、味覚あったっけ?
恐る恐る頬をつねってみる。
痛い。
もしかして、これは、夢じゃない?
本当に異世界に召喚されてしまった?
今更ながら、俺は現状を理解しつつあった。
食事が終わり、食堂から出ると、部屋とは逆の方向にモミジは歩き出した。
どこに行くのだろう? と思いつつも、何も言わずについて行く。
一つの扉の前で立ち止まると、モミジは振り返って尋ねてきた。
「貴方の世界にも、お風呂ってあるの?」
「うん、あるよ」
「じゃー問題ないわね」
モミジは頷くと、扉を開けて中に入っていく。
問題無いとはどういう事だろうか。
俺も中に入ると、そこは棚がいくつもあり、1つ1つに竹籠が置かれていた。
まるで脱衣所みたいだな、と考えていると、モミジがいきなり脱ぎだした。
「え、え、え?」
俺が戸惑った声をあげていると、モミジは不思議そうにこちらを見てきた。
「どうしたの?」
どうしたもこうしたも、これはどういう状況なんだろうか。
もしかして、ドッキリって看板を持った人が現れるんじゃないんだろうか。
周りを見渡すが、この部屋には俺とモミジだけで、人が隠れるスペースは無い。
周りをキョロキョロと見回す俺をみて、小首を傾げながら、モミジは言ってきた。
「お風呂に入るから、幸也も早く服脱いで」
10歳とはいえ、女性から服を脱げと言われてしまった。
なんかエロい。
風呂への入口を見る。
どう見ても入口は1箇所で、混浴であると分かる。
これは、いいのだろうか?
いや、いいんだろう。
本人がいいと言ってるんだし、元の世界の銭湯なんかでも、10歳の幼女だったら男湯に入ってもよかったはず。
いいんだ、いいんだと、自分に言い聞かせながら、服を脱ぐ。
チラッとモミジを見ると、ドレスを脱ぎ終わり、ネグリジェのような肌着を脱いでいる所だった。
下からゆっくりと見えていく。
白いパンツ、おへそ、そして僅かにふくらみかけている胸、そのちょうて――。
慌てて視線を逸らす。
なんというか、俺の男の部分がやばい。
というか、この子、無防備にも程があるんじゃないだろうか。
そう考えながらも、パパッと服を脱いで、籠の中にあったタオルを腰に巻く。
一応、ね? 一応だよ? 別に、見られて困る状態になってるわけじゃナイヨ。
モミジも脱ぎ終えて、手にはタオルを持っている。
「さ、入ろう」
そう言って、俺の手を取って風呂場へと向かう。
というか、前を隠して欲しい。
どうしても視線がいってしまう。
風呂場は、スーパー銭湯の様な広さだった。
1つしか湯船はないが、その1つが素晴らしい大きさだ。
目の前に、どんと大きく広がっている。
奥の方では、マーライオンによく似た石像の口から、お湯がどんどん出てきていた。
俺達以外には、誰も居ない。
「すごい」
思わず呟くと、モミジが無い胸を張って自慢する。
「どの国を探しても、ここ程大きなお風呂を所持している国は無いと自負してます」
「こんな大きなお風呂を、姫様の為だけに作ったのか」
なんという贅沢だと、思ったが、違うらしい。
「いいえ、ここはお城の人が皆使いますよ」
なんと羨ましい……いや、けしからん。
「という事は、他の男性や女性が入ってくるかもしれないのか」
少し期待している自分が居る。
もちろん、女性が入ってくる事を、だ。
しかしそんな期待は、モミジによって打ち砕かれた。
「いえ、この時間は誰も入ってこないはずですし、万一に備えて表にはメイドが控えています。それに、ここは女湯ですから、男性が入ってくる事は万に一つもありませんよ」
聞き捨てならない事を言われた。
混浴では無く、ここは女湯?
つまり俺は、女湯に入っているのか。
高校生が女湯。
しかも、10歳の幼女を連れて。
犯罪だろう。
間違いなく問答無用で捕まるレベルだ。
まてよ、もしかして、俺は男として認識されてないのか?
そんなはずは無いだろう、女顔ってわけでもあるまいし――。
と、混乱している俺にはお構いなしに、モミジは椅子に座って、こちらを振り返る。
「背中流して?」
もちろん俺は、YES以外の返答を持っていない。
柔らかい繊維がぎっしり詰まったブラシで、石鹸を泡立ててから背中をごしごし洗ってやる。
「んっ……いいよ、気持ちいい」
なんて声を出してるんだ。
エロくしか聞こえない。
前の方は、モミジ自身の手で、優しく洗っている。
もういいよと、言われたので、桶でお湯をすくって泡を流してやる。
「ふー……ありがとう」
モミジがこちらを向きながらお礼を言ってきた。
目のやり場に困る。
「次は、幸也の番ね」
そう言って、今度は俺が椅子に座らされた。
泡をモミジが自分の前の方にいっぱいつけ、抱きついて、体全体で俺の背中を洗う――。
なんて事は、当然起きず。
普通にブラシでごしごし洗ってもらい、お湯をかけてもらった。
終始、モミジは楽しそうにしている。
いつもはメイドに洗ってもらうだけだから、何か新鮮、なんだそうだ。
その後は、二人で湯船につかり、充分温まった所で風呂場を出た。
脱衣所には、先ほど脱いだ服は無く、代わりに民族衣装の様な服が置いてあった。
いつの間にか用意してくれていたみたいだ。
自分の服が無くなっているので、仕方なくその服を着る。
モミジはよく似合ってると言ってくれたが、違和感がすごい。
モミジの服は、ピンク色の寝巻きになっている。
とても可愛い。
お持ち帰りしたいくらいだ。
着替え終わると、部屋に戻り、寝ることにした。
今日は召喚の儀式で疲れたらしい。
俺も、疲れた。
気疲れだろうか。
ベッドは、二人が寝返りをうってもぶつからないくらいに大きい。
一つしかない枕をモミジに譲って、出来るだけ離れるようにして、俺は眠った。
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