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俺は護衛”獣”!?

「あれ?」

 俺はバンザイした状態で、うつ伏せに倒れている様だ。

 顔をあげて、恐る恐る目を開ける。

 目の前には、銀髪の少女が居た。

 少女がゆっくりと目を開ける。

 目と目が合った。

 ジッーっと、お互い目を合わせたまま時間だけが過ぎていく。

 世界が停止したような、そんな静寂は、悲鳴によりかき乱された。

「人間だ! 人間が召喚された!」

 少女の後ろから発せられた言葉は、悲壮感に満ちていた。

 周りを見回すと、見慣れた教室ではなく、どうやら俺は、祭壇の様な物の上に居るみたいだ。

 奥には、数人の大人が立っていて、白を基調とした司祭服の様な物をまとっている。

「黒髪だ! 間違いない! 災いが起こる前に、今すぐ処刑すべきだ!」

 一際立派な服を着ている男性が物騒な事を言っている。

 何? 何? 一体、何が起きてるんだ? 誰か説明してくれ。

「静まりなさい」

 俺も、大人達も混乱している所に、少女の凛としたどこか冷たい声が響く。

 場にはすぐさま、静寂が訪れた。

「私はイロハ・モミジ。貴方の名前は?」

 先程とは打って変わって、少女らしい、柔らかく優しい声音でイロハが話しかけてきた。

 後ろの大人達が一斉に息を飲んだのが伝わってくる。

 その意味を考える前に、俺は自然と答えていた。

赤松幸也あかまつゆきや

 俺の声を聞いて、イロハは嬉しそうに微笑むと、こちらに手を伸ばしてきた。

「幸也……いい名前ね。私の事はモミジって呼んで」

 戸惑いながらも、イロハ……いや、モミジの手を掴んで起き上がる。

 モミジは、俺の胸くらいの高さしか無い。

 自然と、俺を見上げながら、繋いだ手を引っ張って扉の方に歩いていく。

 体が妙に軽い。

 フワフワとした感じがする。

 足が地に付かないとはこの事か。

 いや、違うけどね。

「お父様とお母様に紹介するわ。来て」

 そう言って、こちらを睨んで来る大人達の間をすり抜けて、外に出る。

 目の前には、見たことも無いほど巨大な城が建っていた。

 そこで思い至る。

 現実世界にこんな物はない、あぁ、つまりこれは夢だな、と。

 

 お城に向かって歩いてる最中、モミジは俺に説明してくれた。

 その内容は、以下の通りだ。


・この世界はセフィロトという事。

・この国はケテルという事。

・モミジはこの国のお姫様である事。

・この世界では、一定以上の地位に居る者や、軍人は、護衛獣を従えている事。

・10歳の誕生日に召喚の儀式をしたら、俺が召喚された事。

・つまり俺は、モミジの護衛獣であるという事。


 護衛獣……獣?

 あれか、狼みたいな感じか。

 夜になったら、襲っちゃうかもって意味で獣か?

 チラッとモミジの顔を見る。

 少しふっくらとしていて、可愛らしい顔立ちではあるが、将来美人になるだろう事は容易に想像出来る。

 あと数年経てば……。

 って、幼女相手に俺は何を考えてるんだか。


 モミジの話を聞きながら、そんな事を考えているうちに、大きな広間に着いた。

 奥の方には、王冠を被った40代くらいの男性と、ティアラを付けた30代くらいの女性が座っている。

 まるで王座の間だ、いや、恐らく目の前の二人が王様と王后様だろう。

 二人の目の前まで来ると、王様が目を見開いて立ち上がった。

「黒髪の人間!」

 その声には、恐るような響きがあった。

「イロハ・モミジ、召喚の義を終え、護衛獣幸也を連れて参りました」

 王様の反応を気にする素振りもなく、モミジは俺を紹介した。

「モミジ、幸也というのは、貴女が付けた名前ですか?」

 王后様の声は震えていた。

 何を恐れているのか、俺には一切分からない。

 特に凶暴な顔つきをしているわけでは無いと思うんだが……。

「いいえ、彼がそう名乗ったので私は名前を付けていません」

 モミジがそう言うと、王后様は口元を手で押さえて、信じられないものを見た様な目でこちらを見てくる。

 王様は呆然とした表情で、ゆっくりと椅子に座った。

「それで……災いの種を……どう……するつもりだ?」

 途切れ途切れに王様が尋ねる。

 その表情は、徐々に険しいものになっていった。

「3ヶ月後にこの国を訪れるエルフに頼んで、元の世界に還してもらいます」

 王様の視線を受けても、モミジは王様の目を見ながら毅然とした態度で返事をした。

「分かった。重臣達と話し合おう。下がれ」

 王様がそう言うと、モミジは静かに頭を下げて、俺を連れ立って出口へと向かった。


 城の中を、どこかに向かって歩いていく。

 祭壇の所に居た大人達もそうだが、王様も、王后様も、すれ違う城の人達からも、怯えた目で見られている気がする。

「なぁ、黒髪ってそんな恐ろしいものなのか?」

 モミジに尋ねると、チラっとこちらを見たあと、淡々と語りだした。


「昔々、この世界は様々な種族で争い、殺し合い、大地は荒れ果て川は干上がり、多数の種が絶滅の危機に瀕していました。

そんな時、一人の黒髪の人間がこの世界に降り立ち、種族間の架け橋となって、争いを次々と無くしていきました。その力は大地を豊かにし、川を元の状態に戻したのです。

そうして、その人間は多種族国家、ホドを創り、世界は長い平和な時代を迎えたのです」


 どう聞いても、黒髪の人間が世界を救ったようにしか聞こえない。

 敬われるなら分かるが、怯えられる理由には思えない。

 が、話はまだ続く様だ。


「平和な時代の終焉は、一人の黒髪の人間の手で迎えられました。

召喚された黒髪の人間は、初め、敬われました。そして、権力をどんどん手に入れていくとその人間は本性を剥き出しにして、人以外の種族を次々と迫害していったのです。

それに反発した種族の者達と戦争となり、また世界は、長い闘争の時代を迎えました」


 はぁ、とモミジは溜息をついて、こちらを振り返る。


「平和な時代と、戦争の時代は、繰り返されてきました。黒髪の人間が召喚される度に。今はいくつかの国に分かれてますが、長いこと平和な時代が続いています。なので、貴方が世界を戦争の時代にしてしまうのではないかと、不安に思っているのでしょう」

 

 そう言って、俺の目をじっと見てくる。

 まるで何かを探るような目で。


「童話で、何度も何度もそんな話を聞かされてきたけど、とても、貴方が世界を混乱に陥れる様には見えないわ。でも、世界の人々は不安に思うでしょう。

だから、貴方を元の世界に還そうと思うのです」

 

 モミジは申し訳なさそうに微笑んで、また歩き出す。


「どうして、今すぐ還さないんだ?」 

 俺が尋ねると、モミジは肩を竦める。

「人間には、召喚したものを還す技術も力も無いのよ。だから、唯一魔法を使える種族であるエルフに頼むってわけ。

この国にはエルフが住んで無いから、定期的に来るエルフに頼むの。だから、還せるのは、3ヶ月後になるわ」

 俺はこの時まではまだ、夢なのに、設定がしっかりしてるなー。

 と、見当違いな事を考えていた。

「3ヶ月間は、この部屋を自分の部屋と思ってくつろいで」

 そう言って、モミジは一つの部屋の扉を開けた。

 30畳~40畳はあるであろうその部屋は、ピンクを基調として、小物や机、椅子、奥にはキングサイズのベッドが置かれていた。

 女の子の部屋っぽい部屋だなぁ。

 女の子っぽい……。

「ここって、もしかして、モミジの部屋?」

 俺が多少きょどりながら聞くと、モミジは少し照れながら首を縦に振って、上目遣いでこちらを見てきた。

「やっぱり、一緒の部屋って、嫌?」

 そんな可愛く言われて、嫌と言える男性はいないだろう。

「ううん、大丈夫」

 むしろ嬉しいくらいです。

 という言葉は飲み込んでおく。

「よかった」

 そう言って笑う様子は、年相応といった感じだった。

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