エルフの村にて1
「え、え?」
光が収まると、目の前に何件もの家が現れた。
周りを見回すと、モミジとコナも居る。
コナは石碑から手を離すと、村の入口の方に歩いて行った。
明らかにさっきの場所とは異なる。
瞬間移動でもしたのだろうか。
視線を前に戻すと、コナと門番が言い争っていた。
二人居た門番のうち、一人が奥へと走って行った。
とりあえず立ち上がり、コナの元に行く。
門番が俺の姿を見て、警戒心を露わにする。
「えっと、今、どういう状況?」
「中に入りたいって言ったのですが、人間は入れるわけにはいかないの一点張りで……」
俺の質問に、コナが困り顔で応じる。
まぁ、普通の人間じゃここに入れないようになってたしな。
それに、俺は髪が黒いし。
どうしたものかと思っていると、奥の方から、門番と一緒に一際立派な服を着た青年がやってきた。
門番の二人と、年齢はそう変わらない様に見える。
というか、三人とも若い。
「お待たせしました。私はこの村の村長。ハルニレ・イチョウと申します」
立派な服を着た青年が俺とモミジを観察しながら言う。
「ハルニレって、もしかして……」
「ええ、コナスプリングフィールドは私の娘です」
イチョウさんの言葉を聞いて、驚く。
兄妹くらいにしか見えなかった。
というか、若すぎじゃないだろうか。
「お若いのに娘さんなんですね。兄妹かと思いました」
「あはは。エルフは、見た目では年齢が分からないですからね。ちなみに私は、一千年程生きていますよ」
イチョウさんの返答に更に驚く。
一千年って、長寿過ぎやしないだろうか。
待てよ、この青年風で一千歳程だとしたら、コナは。
コナの方を見る。
コナはそれに気付き、慌てて首を振る。
「わ、私は、まだ20年程しか生きていません」
それでも20歳なのか。
見た目と年齢が一致しなさすぎじゃないだろうか。
「それで、貴方がたは?」
「俺は赤松幸也。こっちはイロハ・モミジ」
イチョウさんの質問に、こちらも名乗る。
「赤松様ですか。なるほど」
イチョウさんは一人で納得げに頷いている。
何がなるほどなのか聞こうと思ったら、先にコナが話しかけた。
「お父様。この二人は、私が誘拐されかけた所を助けてくださったのです。まだ外には誘拐犯が居るかもしれません。数日、この村に置いていただけないでしょうか?」
「そうだったのですか。お二人共、娘を助けていただきありがとうございます。普通なら助けていただいたとしても、人間を入れないという決まりに従うのですが、赤松様なら問題ないでしょう。どうぞ、中へ」
イチョウさんが頭を下げたあと、俺達を中に案内してくれる。
コナといい、イチョウさんといい、赤松の名前に過剰な反応をしている気がする。
「あの、赤松という苗字、何かあるんですか?」
俺が尋ねると、イチョウさんは振り返り、微笑みながら答えた。
「この世界を救って下さった英雄方は皆、赤松を名乗っていたのですよ」