序章
チリンチリンチリーン。
商店街の一角で、間の抜けたベルの音が響き渡る。
「おめでとう! 一等ハワイ旅行招待券だ!」
ベルを鳴らしたおじさんが、俺の肩を叩きながら旅行券が入った封筒を渡してくる。
「どうも」
頭を下げながら、ぱっと封筒を受け取ってその場を去る。
「また赤松くんが一等当てたわ」
「前回も前々回もそうじゃなかった? どうなってるのかしら?」
周りの視線が何となく痛い。
「ふぅ……二等のお米券の方が良かったんだけどなぁ」
ブツブツと文句を言いながらも家に帰る。
「ただいまー」
玄関の鍵を開けて、中に入る。
2LDKのマンションに俺は一人で暮らしている。
正直、一人で住むには広すぎる。
しかしここは、親戚が経営しているマンションなので、他の所より大分安いのだ。
俺は昔から運が良かった。
と言っても、ただ運が良いだけじゃない。
その分、不幸も付いてくる。
「前回も、その前も、旅行には行けなかったよ」
どちらとも、直前に風邪を引いて寝込んでしまった。
だから、今回も行けるとは思っていない。
「いっそ、誰かにあげるか売るかするか?」
それが一番の有効利用な気がする。
封筒の中身を見ると、ペア旅行券が2枚、4人分の招待券だ。
どの道、俺一人では使い切れないって事か。
「明日考えるか」
封筒を放り投げて布団に倒れこむ。
まだ夕御飯を食べてなかったが、食欲より睡魔の方が強い。
そう言えば、明日は期末試験の初日だったな、と思いながら意識が薄れていった。
目を開けると、目の前に銀髪の少女が居た。
白い肌と細い体を豪華なドレスで着飾っている。
少女は両膝を地面に付け、両手を絡ませ、祈るようなポーズで目を閉じていた。
「どうか私の声に応えてください」
響いたのは、少女が出したとは思えないリンと澄んだ声。
「――――」
それに応えようとして、目が覚めた。
気がつくと、手を前に出した状態で、布団に寝ていた。
「夢、か……」
つぶやきながら、前に出した手で、時計を掴んで時間を確認する。
午前7時。
「やばい!」
学校までギリギリの時間。
テストに遅刻なんて洒落にならない。
急いで着替えを済まし、学校に急ぐ。
「やっばいなぁ」
学校に着いて、頭を抱える。
一切勉強していない。
運がいいと言っても、決して成績はいい方ではない。
勉強は苦手だし、運動もだめ。
運以外に誇れるものなんて何もない。
「テスト受けたくないなぁ……」
謎の武装組織が学校を占拠しないかな、なんて妄想までしてしまう。
もしくは、地震とかで――――。
そう考えた瞬間、地面が揺れた。
「え!?」
驚いて立ち上がったが、バランスが取れずに前のめりに倒れていく。
机の角に頭がぶつかる!
そう感じて、目を閉じる。
だが、いつまで経っても痛みを感じない。
「あれ?」
恐る恐る目を開ける。
目の前には、銀髪の少女が祈るようなポーズで膝をついていた。






