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第8話 アーカーシックレコード

 

 

 

 鷲尾 総司は腹を抱えて大笑いしている。真也は彼のその言動に不快感を覚えていた。鷲尾 総司と兎神 真也の外見は正に瓜二つ。その異様な状態がさらに兎神 真也の嫌悪感を増大させている。「いい加減にしろ。」真也が怒鳴ると鷲尾の笑いはピタリと止み、辺りは静寂に包まれた。


 「冗談だ、兎神。冗談だよ。」さっきまで笑い転げていた姿が嘘のように、真剣な面持ちをした鷲尾は語り出した。


「兎神よ、“生命の樹”を知っているか。“セフィロト”とも言う。旧約聖書に登場する代物だ。」鷲尾はまた難しい話を始めた。「“生命の樹”とは諸説様々あるが、実際には生命の“輪廻転生”を図解化した物だ。」 真也は理解に苦しんだ。ボリボリと頭をかきむしると鷲尾に勝手にしろと言わんばかりにその場にあぐらをかいた。


 「アーカーシックレコードの所在は霊界にある。霊界とは“0”の世界、原始以前の宇宙。つまり、何もないのに全てある場所。その中から母体である“ヴェーダ”と呼ばれる知識の集合体が新たな生命の情報を産み出し“種子=主旨”として放出された後、肉体を得て現世に誕生する。」


 真也は口から魂が抜け出る思いだった。そんな彼にお構いなしに鷲尾は話し続けた。「生命は“従来、生来、本来”の3つの“魂=たま”によって産み出されそれらが相まって4つ目の魂の意味、“たま・し・い”として新規に昇華される。そして現世に形成されつつある器、胎児に取り入ると5番目の魂を意味する“死後”を迎えるまで生を送る。死を迎えると時同じくしてもう一つの来世を過ごす5番目の魂、“タマゴ”として転生の輪廻を繰り返す。」鷲尾の話は難解だった。しかし、なぜか理解できた。真也は鷲尾に問う。「“輪廻転生”と“生命の樹”の関係は。」そんな質問をする彼もまたその気になっていた。


 「“生命の樹”の図解は生命の成り立ちを表す。生命の前世という物は一つではなく、過去に起きた生命の記憶が地の養分のように存在し、ヴェーダから放出された魂の種が特定の場所で根付き散在する前世達の記憶を吸って発芽する。生命を樹と例えるのはその根幹があるように大まかな道筋があるからだ。生きるとは選択の連続だ。決意した分だけ、迷った分だけ大木の幹に生えた枝葉のように自分の魂が存在し重なり合う世界、パラレルワールドがある。」ファンタジーの世界だった。夢物語、現実とは信じられない話だった。「前世、現世、来世の魂とはなにも過去、現在、未来に順番に転生する訳ではない。現在から未来に、時には未来から過去に。今を生きる現在に転生した自分自身の来世や前世も存在する。すれ違う通行人、挨拶を交わす隣人。共に暮らす家族、愛する恋人。自分を取り囲む生命は無関係に乱立しているのではない。同じ砂浜、同じ川底に流れついた数々の砂粒のように同質の魂を所有する者達が因果の下に集っている。」真也は鷲尾の言葉の意味を理解しようと勤めた。鷲尾は真也の顔をチラリと見るとさらに続ける。


 「安心しろ、兎神。お前は大罪など犯していない。お前の行いは未成熟の枝葉を払い落としただけだ。結果、発達するはずだった未来は枯れ果てお前が創造した未来が新たに発芽したのだ。時空を司る潮流を非力な俺達が破壊するなど不可能なのだ。」鷲尾は見据えるような目で真也に諭した。そして、真也の周囲を旋回していた鷲尾はその動きを止めた。


 「兎神よ、お前に今、俺の正体はわかるまい。だが、知らなければいけない。兎神よ、今からお前にこの“ディメイション”という能力の真価を伝えよう。そしてお前を待つ未来に希望を見出せるならこれを受け入れその生を全うしろ。受け入れないならばこのまま、死ね。」鷲尾は兎神 真也の眼前に立つと肩に手を置きそう言った。そしてトントンと後方に跳び、距離を真也からとるとまた羽ばたくような仕草をし、高らかに声をあげた。


 「ゲート、オープン。アーカーシックレコード、アクセス。行け、兎神よ。前世という懐かしき未来へ。」


 鷲尾 総司が響かせたその声に反応するように無色透明な世界に雷雲が立ち込めた。いや、火が、水が、風が、唸りを上げて2人を取り囲む。直後、目がくらむまばゆい光に兎神 真也は包まれ上昇するような下降するような感覚の中、まっ白な世界からはぜて消えた。



自作小説『Dime†sion』 =第8話=



つづく




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