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第6話 鷲尾 総司

 

 

 

 

 周囲には何もなかった。いや、それ以前にそこには上も下も、重さも軽さもなく、まるで全てが失われた場所であった。兎神 真也はまだ目を覚ましてはいない。その謎の場所でただゆらゆらと宙を漂っていた。


 「ここは“虚無”の世界。幾層にも重なり存在する世界と世界の狭間。さぁ、目覚めろ、兎神 真也よ。無限に流れる時間は、小さな存在であるお前の都合など待ってはくれない。」


 突然、真也の頭に直接響くように男の声が聞こえた。真也はその声を合図にしたようにゆっくりと真っ白な世界で目を覚ます。意識は朦朧とし、まだはっきりとしない。やがて視界の霞みが取れると辺りを見渡した。


 「どこだ、ここは。」真也がようやく口を開くとまた男の声が響いた。「ようこそ、この名も無き場所へ。歓迎するよ、兎神 真也君。」真也が振り向くとその後ろにサングラスをかけた男が立っている。いや、正確には後方の頭上。男は宙に立っていた。「会うのは二度目だな。」不敵な笑みをたたえた男はそう言うと付けていたサングラスを外した。


 「えっ、お前は。」真也は驚愕の声をあげた。乱暴な身なりをしているがその姿は紛れもなく兎神 真也自身だった。「俺の名は鷲尾 総司。“先駆者”、“案内人”、呼び方はなんでも良い。要するにお前の先輩だ。」荒っぽい自己紹介をしながら男は直立不動のまま真也の周りを旋回する。真也はすっかり動揺し、混乱していた。


 まるで羽ばたくような仕草を鷲尾と名乗る男が行うと彼の背後に映画館のスクリーンのような画像が投影された。映し出されているのは眠っている自分に寄り添う母の姿。「なんだ、これは。」真也は見る影もない自分の姿に声をあげた。「これは現実にあるお前と家族の姿だ。お前は今、生死の境にある。」男の言う言葉の意味が真也にはわからなかった。たまりかねて真也は鷲尾に問う。「俺はどうしたんだ。」鷲尾は興奮状態の真也へ冷静に事態を述べた。


 「今から約2ヶ月前、お前はある小さなきっかけから一つの能力に目覚めた。それが“ディメイション”。」依然、真也の周囲を旋回しながら鷲尾が語り続ける。


 「D・I・M・E・N・S・I・O・N、“次元”を意味する“ディメンション”。その中心にある打ち消しの“N”を己の意を指す“I”に置き換えた造語、DIMEISION。」初めて聞かされる今まで理解不能だった真実に真也は落ち着きを取り戻し聞き入った。


 「ディメイション、その能力は言うなれば“時空干渉”だ。要するに“事象改竄”。起きるはずの出来事を予知し、回避する。」鷲尾が語るその言葉に、真也は思い当たる節があった。


 「おかしいと思わなかったか。何故、自分に“未来がわかるのか”。」鷲尾は続ける。「あの日、お前は飛来する野球の硬球の“ヴィジョン”を捉えた。いつかはわからない。ただ、予知された未来に反応しカバンを頭上にかざした。」鷲尾はまるで現場に居合わせたように語り続けた。


 「良かったな。お前の行動は正解だったよ。」鷲尾はそう言うとさらに続けた。「お前が見た“ヴィジョン”は真実だった。お前がカバンを頭上に上げなければあの日、ヒステリックに叫び続ける瑠奈の顔はグチャグチャに潰れていた。」鷲尾の語る話の内容はあの日、真也が見た不可解な現象その物だった。真也は瑠奈の悲劇的な結末への予感にとっさにカバンを頭上に上げたのだった。


 「お前の行動は正解だった。しかし、お粗末だったのはその行いに対する“代償”の見誤りだ。結果、今ある姿はその“代償”なんだよ。」鷲尾は満を持してと告げた。「未来を変えた“代償”はその身を持って払わされる。瑠奈の命の“代償”にお前は自分の身を捧げた。」真也はその意味に信じたくない事実を予感する。そして鷲尾の最後の言葉に耳を塞ごうとした。


 「そうだ。お前の親友2人はお前があの親子を助けなければ死ななかったんだよ。つまり、お前が殺したんだ。」


 鷲尾が告げた真実に、薄々はそうではないかと思っていた事実に真也は大きく叫び声をあげた。そして、立っていられなくなった真也は地に伏した。その色のない大地に、ポタポタといくつもの水玉を描いて。




自作小説『Dime†sion』 =第6話=



つづく




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